「伊勢に生れし美し使者 伊藤小坡の世界~うららかなる美の巨匠」展に行って参りました。
伊藤小坡は、同門の上村松園と比較されることの多い女流画家ですが、
家庭をもち子育てをしながらの画業ということで、
松園とは制作に対するスタンスもかなり違い、
それが作品にも色濃く投影されているように感じます。
今回の展覧会では伊藤小坡の代表作「つゞきもの」(右画像)の下書きが出品されていますが、
朝の忙しい時間に寸暇を惜しんで新聞の連載に目を通そうとする婦人の表情を冴え渡らせるべく、
新聞記事の一文字一文字の描写、
横に置いてある手ぬぐいと歯ブラシの位置、
柱につるされた暦の数字など
全てに試行錯誤を繰り返していることがわかります。
日常にふとこぼれる豊かな女性らしさを描こうとした小坡の作品世界が広がります。
伊藤小坡展は12月16日まで。
前期、後期と作品が入れかわり、後期は11月13日からの展示となります。
神戸では東灘区の香雪(こうせつ)美術館にも立ち寄らせて頂きました。
朝日新聞社創業者 村山龍平氏が蒐集した日本・東洋の古美術品を所蔵する、その建物、佇まいも大変美しい美術館です。
今回お目当ての所蔵品の常設展示はほとんどなく残念でしたが、
仕方なく・・というのも失礼ですが・・「せっかく来たのだから」と鑑賞した特別展が素晴らしく驚きました。
截金(きりかね)展?仏像展?
初めは???という感じだったのですが、鑑賞するうちに江里佐代子さんの作品の魅力に心を奪われました。
大変お若いうちに人間国宝に選ばれた理由にも頷ける、圧倒的な技術力、独創性、そして情熱に富んだ作品ばかりでした。
上の写真は作品の一つのジャンルである毬香合ですが、どのように制作されてゆくのか。。遠く考えも及ばず、ただただその美しさに見とれるばかりでした。
截金は従来仏教美術の装飾技法とされ、金箔・銀箔・プラチナ箔を細く切り、貼り合わせて文様を表現するという伝統工芸技法です。
江里さんは夫である仏師江里康慧氏とともに仏像装飾という仕事をする傍ら、その技法を工芸品・屏風・建築空間へと応用し、表現性を深めていったということです。
気の遠くなるような作業をコツコツと積み重ね、天界に近づくような仕事を残し、江里さんは惜しくも2007年62歳の若さで他界されています。
関西にお出かけの際は、是非香雪美術館特別展にお立ち寄りになってみてください。
※人間国宝 江里佐代子の截金 康慧とともに伝える荘厳の美
11月4日(日)まで 香雪美術館
皆さまはもうお出かけになられたでしょうか? マウリッツハイス美術館展。
東京展の混雑を避けて出かけたつもりでしたが、祝日であった為か?神戸市立博物館にも大変沢山の方達がいらっしゃいました。
フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」の前は、昔モナリザを観るために並んだ上野の長い列を思い出させる人混みでした。
もうこの数々のオランダの名画ついては色々なところで紹介されていますので、何もお伝えすることはありませんが、
特にルーベンスの「聖母被昇天 (下図)」は、あのフランダースの犬で、ネロ少年がアントワープ大聖堂の祭壇画の前にひざまずき、うっとりとこの絵を眺めるという哀しい場面が思い出され、胸にこみ上げる感動がありました。
マウリッツハイス美術館展は来年1月6日まで開催されています。
お勧めの展覧会をご紹介いたします。
東京丸の内、三菱一号館美術館で開催中の シャルダン展-静寂の巨匠 Chardin です。
ジャン・シメオン・シャルダンは18世紀フランスを代表する静物・風俗画の画家です。
今回は日本で初めての個展となるそうですが、上京するまで私はシャルダンについての知識をほとんど持たない状態でした。
雑誌で見かけたこの「木いちごの籠」の不思議な作品の世界に誘われて、フラフラっと出かけたようなものです。
けれど、フラフラっと出かけたつもりが・・美術館に入るとすぐに、シャルダンの作品に もうどっぷりとのめり込み、集中して鑑賞することになりました。
静寂の巨匠という副題がありますように、どの作品にも画家の気が隅々まで行き届き、大変丁寧で静かな、本当に静かな画面に驚くばかりです。
絵を描く喜び。
作品からそんな印象を強く感じました。絵画らしい絵画。そうお伝えするばいいのでしょうか?
シャルダン展は巡回展はなく、来年1月6日まで東京で開催されています。
よろしければお出かけくださり、ご感想などお聞かせください。