愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題245 句題和歌 6  在原業平/白楽天 贈内

2022-01-10 09:43:05 | 漢詩を読む
おほかたは 月をもめでじ これぞこの
  積もれば人の 老いとなるもの  在原業平 (古今集巻十七 雑歌上 0879) 

oooooooooooo  
誰しもが、特に中秋にあっては名月として、 “月”を愛でるようであるが、「だいたい、月を愛でることはしないでしょう」と、なぜなら「この月こそ積もり積もって 老いに繋がりますから」と。禅問答のようですが、天上の“月”と、歳月の“月”と 掛けた、言葉遊び と言えそうです。一面、「歳は取りたくないもの」と、真理を突いた歌とも言えます。

白居易(楽天、772~846)の七言絶句「内に贈る」(下記参照)の第3,4句の影響を受けた歌です。訴えたい主旨がやや異なるように読めるが、実は主旨は同じで、その展開の相違に因るようです。

楽天の詩では、今や野山は晩夏の様相であり、愁思の時節・秋の訪れも間近である。どうか月明かりの中で、過去を偲ぶことのないように。もの思いに沈んでいると容色を損ない、寿命を縮めることに繋がりますから と、遠くにいる妻への思い遣りである。

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<白楽天の詩> 
 贈内       内(ナイ)に贈る [下平声一先韻] 
漠漠闇苔新雨地、 漠漠(バクバク)たる闇苔(アンタイ) 新雨の地、
微微涼露欲秋天。 微微たる涼露(リョウロ) 秋天(シュウテン)ならんと欲す。 
莫対月明思往時、 月明に対して 往時を思う莫(ナカ)れ、 
損君顔色減君年。 君が顔色を損じ 君が年を減(ゲン)ぜん。 
 註] 漠漠:広々として果てしないさま; 闇苔:びっしりと覆っている苔。

<現代語訳> 
 妻に贈る 
果てしなく緑の苔が覆っている、雨上がりの大地、
うっすらと涼しげな露が降りて、もうすぐ秋の季節を迎える。
月明かりに向かって、往時を偲ぶことのないように、
さすれば、容色を損ない、寿命を縮めることになるであろうから。

<簡体字およびピンイン> 
 贈内       Zèng nèi 
漠漠暗苔新雨地、 Mòmò àn tái xīn yǔ dì, 
微微凉露欲秋天。 wéiwéi liáng lù yù qiūtiān. 
莫対月明思往时、 Mò duì yuè míng sī wǎngshí,  
损君颜色减君年。 sǔn jūn yánsè jiǎn jūn nián.
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一見、歌と漢詩と異なったことを言っているように思えるが、言いたいことは一緒で、捉え方が表裏の関係であるだけに思われる。すなわち、漢詩では“寿命を縮める”と言い、“表”とするなら、歌では、“老いが進み、(寿命が縮まるよ)”と、裏からアプローチしています。

在原業平(825~880)は、51代平城天皇の皇子・阿保親王の子で、臣籍降下して“在原”の姓を賜った。当時の歴史書に記載されるほどの美男子で、恋愛の話題には事欠くことなく、『伊勢物語』の主人公とされている。和歌に優れ、六歌仙、三十六歌仙の一人に数えられ、百人一首にも採入されている(百人一首17番、閑話休題135)。 

上記の白居易(楽天)の詩 “贈内”は、遠くにいる妻に贈った詩と思えることから、江州司馬として左遷(815)されていた折に作られた作品かと思われたが、そうではなさそうである。その頃作られた詩には、長江を九江から忠州(現重慶市中部)に向かう舟中で詠われた「舟夜贈内」と題する作品がある。

楽天は、ロマン的にして、非常な愛妻家のようである。先人の研究によれば、直接的に“贈内”の主旨の詩が7首あり、“贈内”と題する詩は、805および814年作とされる2首がある。掲詩が何れに該当するかは、筆者は、残念ながら確認することはできていない。
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