[十三帖 明石 要旨] (27歳春~28歳秋)
須磨で逢った嵐は止まない。落雷で廊が焼け、源氏は調理場に避難し一日中念仏を唱え、祈った。明け方、まどろんだ源氏の夢に故桐壺院が現れ、住吉の神の導きに従ってこの地を去るようにと告げられる。
都でも悪天候が続いている。故院は、朱雀帝の夢にも現れ、憤怒の形相で帝を睨みつけた。それ以来、帝は眼を患い、そのうちに右大臣が亡くなり、弘徽殿の女御も病に倒れる。
須磨で夢を見た翌朝、明石の入道が源氏を明石に迎える。入道は、娘の出世を願い、都人に縁づけたいと住吉社に祈願してきたと話し、娘を源氏に紹介する。以後、源氏は娘に度々文を送るが、梨の礫である。
入道は思い余って、娘に代わって文を送るが、源氏は不快に思い、代筆の返事などは不要ですと断った。源氏は、改めて娘に「どうしたのか、と聞いてくれる人もいないので、鬱鬱と一人で悩んでいます」と胸の内を訴えると、娘から初めて次の歌が送られてきた。
思ふらむ 心のほどや やよいかに
まだ見ぬ人の 聞きかなやまん (明石の君)
源氏はこの文を見て、書き方も、教養も都の立派な女性に劣らないと感動して、歌を送り続けます。両人は八月に初めて契り、明石の君は懐妊する。
凶事が続く都では源氏を呼び戻すことを決め、召喚の宣旨を下し、源氏は朱雀院の命で突然都へ召喚される。源氏は御子を宿した明石の君を残し、別れを惜しみ、都へ戻るのでした。
本帖の歌と漢詩
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思ふらむ 心のほどや やよいかに
まだ見ぬ人の 聞きかなやまん (明石の君)
[註] 〇やよ:やあ、おい、さあ(呼びかけるときに発する語)。
(大意) 私を想っているというお心のほどは さあどんなものでしょうか、まだ逢ったこともない人のことを世間の(/チチの)噂だけで悩むものでしょうか。
xxxxxxxxxx
<漢詩>
問真心話 真心話(マゴコロ)を問う [上平声二冬韻]
君道苦於恋, 君は道(イ)う 恋に苦しむと、
但疑春意濃。 但(タダ)し疑う 春意(オモイ)の濃(コサ)を。
只憑世閑話, 只(タ)だ世(ヨ)の閑話(ウワサバナシ)だけに憑(タヨ)り、
猶是未相逢。 猶を是(コ)れ 未(イマダ) 相逢(アイアウ)ことなきに。
[註]〇春意:春情、思い; 〇憑:頼みとする; 〇閑話:むだばなし、噂。
<現代語訳>
真心の程を問う
貴方は 私を想っていると仰るが、どの程度の思いか知れたものではない。ただ世間(/父)の噂話だけを頼りにしていながら、なお未だお互い逢ったこともないと言うのに。
<簡体字およびピンイン>
问真心话 Wèn zhēnxīn huà
君道苦于恋, Jūn dào kǔyú liàn,
但疑春意浓。 dàn yí chūnyì nóng.
只凭世闲话。 Zhī píng shì xiánhuà.
犹是未相逢, yóu shì wèi xiāng féng,
ooooooooo
源氏の歌:
いぶせくも 心のものを なやむかなや
やよやいかにと 問う人もなみ (光源氏)
[註]〇いぶせくも:気分がはれず 鬱陶しい; 〇やよや:呼びかける時に発する語、おいおい。
(大意)胸もふさがる切なさに 悩んでいます いったいどうかしたの と尋ねてくれる 人もありません。
【井中蛙の雑録】
・NHK大河ドラマ『光の君へ』は弥々佳境に入りつゝあります。ところで、題の『~ へ』とは、“捧げる”または“伝える”等々の相手を指すと思えるが。題中『光の君』とは?“まひろ”、“道長”、“源氏物語中の光源氏”、……?。筆者は、目下、捕らえ兼ねています。