「ビジネス力の磨き方」以来、久しぶりに読んだ大前氏の著作です。
私は「大前信者」ではありませんが、初期の「企業参謀」の印象が強かったせいか、年に1冊程度は「大前本」に手を伸ばしています。
本書ですが、「産業突然死をまねく日本の病因」「『産業突然死』時代を生き抜く14の提言」「揺れる世界経済と日本」という三章から構成されています。
「ボーダレス」「サイバー」「マルチプル」という3つのキーワードが、最近の大前氏が唱えている基本コンセプトですが、この切り口からの論考が本書の至るところで顔を出します。たとえば、第一章の「日本の病因」についての考察。日本の「ボーダレスへの非適応」が指摘されています。
(p11より引用) 「偏狭な日本主義」が安全保障を弱めているのである。
結局、日本は世界に依存せざるを得ない。マーケットとしても世界に出なければならないし、資源・食料も輸入しなければならない。日本という国は、世界との友好関係なしには生きていけない。・・・
相互依存こそ安全保障の最たるもの。その原則を平気で踏みにじっているのが、まさにいまの日本。あるいは集団としての日本人だ。
この点についての具体的な例はいくつか挙げられていますが、そのひとつが「シンガポールとの比較」です。
シンガポールはすでに「一人当たりGDP」で日本を抜き去ってします。が、「シンガポールの発展の源は、シンガポール自身にはない」というのです。
(p112より引用) こうしたすべての点において、日本はシンガポールから学ぶべき点が多い。・・・
開放経済に向かったシンガポールと、閉鎖経済に突入している日本。これは政策の違いから起こっている。国家の世界経済に対する見方の違いなのだ。・・・
それは日本が、すべての問題を自分で解決しようとすることに原因がある。解決策を世界に求めるシンガポール・・・、国民に求める日本。国民が反対すれば、今度は子孫に求める。少子化で子孫に負担能力があるかどうか検証もしないで30年・・・先送りしてしまうのである。
もうひとつ、今度は第二章「『産業突然死』時代を生き抜く14の提言」の中から興味をいただいた点を覚えに記しておきます。
「日本企業は、グローバル・ニッチ・トップで生き残れ」という指摘のくだりです。
ここで登場するのが「スマイルカーブ」というチャートです。縦軸に「利益率・付加価値」を、横軸に「研究開発/商品企画→素材/部品生産→加工組立/量産→販売→アフターサービス→ブランド」をとった座標軸上で描かれる「スマイルカーブ」において、日本は「素材/部品生産」といった高付加価値プロセスで大きな強みを発揮しているのだと大前氏は主張しています。
(p190より引用) 半導体の素材、製造装置、検査装置で見ると、日本は付加価値の高い分野ではシェアを取っている。しかし、半導体の完成品、最終製品となると、インテルやサムスンに日本は負けてしまう。・・・
とはいえ、いかにサムスンといえど、日本から機会や素材を買って製品を作らざるを得ないのだ。一般消費者からは見えないところで日本の企業は頑張っていたわけだ。
そういった高付加価値部本を製造する「工作機械」の分野でも、日本は大きなポジションを占めているとのこと。
(p192より引用) 工作機械も日本の強さを発揮している市場である。・・・
日本が強くなった理由は、お客さんの要求がきついことだ。メーカーは要求に合わせて試行錯誤するので工作機械も進歩する。その結果、ダントツ1位になっている。
これらの高品質・高付加価値の素材・部品を利用して、製造工程とインテグラルにすり合せをしながら完成品までもっていく、こういったプロセスは日本企業のお家芸です。
本書を読んでの覚えの最後は、「心理経済学」というコンセプトです。これもここ数年大前氏が強調している切り口です。
(p212より引用) 今後もいまのようなマインド収縮報道が続けば、個人消費は劇的に下降する。日本のGDPの60%を占める個人消費が本格的に冷え込めばGDPの低下は大規模、かつ長期にわたる。その分水嶺は何か?「個人心理」である。
耐久消費財の浸透した先進国では、エンゲル係数が低く生活必需品以外の消費は心理で大きく伸び縮みする。・・・過去および現在の景気対策がすべて公共工事主体で空振りに終わっているのは、この基本的な認識に誤りがあったからである。
このあたりの指摘は、私も首肯できるところがあります。
ただ、当然ですが重要なのは、「背中を一押しする」ための具体的施策です。
「定額給付金」の効果については全く振り返られてもいないようですが、予想通りの失敗施策だったのでしょう。最近の「エコ」をトリガーにした補助金・ポイント制・優遇税制等は、その継続性には疑問が残りますが、比較的成功した例といえますね。
さて、本書、Nikkeibp.netの連載の再録でもあるせいか、大前本には付き物の自己礼賛も比較的少なく読みやすい内容です。逆に「コテコテの大前ファン」からみると少々物足りないかもしれません。
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