前著である「未来の年表」も読んでいます。
「未来の年表」はその書名どおり“年表”形式で時間軸に沿ったトピックを解説していましたが、こちら「2」の方は “具体的な生活の場面” を切り口にして、そのテーマごとに深掘りするというスタイルです。
その中で特に印象に残った指摘をいくつか書き留めておきます。
まずは、「3.あなたの仕事で起きること」の章からです。
経済産業省の資料によれば、現在でも、経営者の年齢が70歳を越える中小企業の約半数(全企業の約3割)では後継者が決まっていないとのこと。まあこの程度の状況は想像できるのですが、ちょっと驚いたのが、“廃業した会社の半数は「黒字経営」だった”との指摘でした。
(p105より引用) 看過できないのは、休廃業·解散前に黒字や高収益だった企業が少なくない点だ。中小企業白書(2017年版)によれば、2013年から15年までに休廃業·解散した6405 社のうち黒字企業が50.5%。利益率10%台が13.6%、20%以上も6.1%に上った。
長年にわたり日本経済の基盤を支えていた優良な中小企業が消えていく、その貴重な生産力・技術力はどこに引き継がれていくのか・・・。事業が継続されていれば有益な「雇用の受け皿」にもなるであろうに・・・。
もうひとつ、こちらはさらに深刻です。
(p185より引用) 高齢受刑者が増えれば、認知症や車いす利用者も当然出てくる。福祉介護施設のようになった刑務所内では、いまや歩行補助車(シルバーカー)を押しながら歩く受刑者は当たり前となり、刑務官や専門職のスタッフが日常的におむつ交換や入浴介助をすると言った光景も珍しくなくなった。
高齢受刑者は間違いなく増加していく半面、介護業務も求められる刑務官の確保は益々厳しくなります。近未来の刑務所は“高齢者対応”という全く新たなコンセプトでデザインし直さなくては、従来からの延長線では立ち行かなくなるでしょう。
さて、著者が本書でトライしたように「少子高齢化社会」の“実態”をリアルに想像すると、確かに「これはマズイ」と痛感します。
本書の後半では、著者が考えるこういった来るべき将来に対する「対策」が列挙されています。
とはいえ、そんな簡単に解決策を示すことができるような課題はひとつもなく、著者の苦労は宜なるかなと思います。ただ、それでもやはり残念なことに、著者の想定する将来像には「テクノロジーの進歩」という変数の考慮が(言及されてはいますが)相対的に貧弱だと言わざるを得ません。
もちろん「AI」や「ロボテックス」の効能を過大評価することは危険ですし、テクノロジーの進歩だけで問題が解決するというのも楽観的過ぎます。郊外の空き家問題や都市部のタワーマンション老築化対応といった「物理的課題」は悩ましいでしょう。それでも、20年後、30年後といった時間軸で考えると、医療/介護・運輸/交通・行政サービス等々が今と同じ状況であるとは流石に考えられませんね。テクノロジーの進歩は、それ自体の効果のみならず、“社会インフラ”や“社会プロセス”を根本的に改革するトリガーにもなります。
たとえばですが、過疎地におけるロジスティックの課題についても、現状は「ラストワンマイル」の非効率性がボトルネックになっています。新聞配達・郵便配達・電力/水道の個別検針・複数の宅配便業者の配達等々が併存している状況です。これらのプロセスを、ITやAIを活用した「共通基盤」で一体運用(配達手段の共用)すれば、「ラストワンマイル」部分の対応も採算ベースに乗るかもしれません。
あと蛇足として、(上げ足取り的な言い様で申し訳ないのですが、)本書を読んで感じたところです。
文中で紹介されているそれぞれの事象については多角的データに基づく信頼性のある解説がなされている反面、著者の肌感覚としての現状認識の中には疑問を抱いてしまうところが結構ありました。
たとえば、「中高年社員のウェイトが高まる」との指摘の中で、
(p116より引用) これまでなら若手社員が受け持っていた仕事(例えば、電話取りや花見の場所取り、忘年会の場所の手配など)を中堅になっても続けるということだ。
とコメントされているのには少々唖然としましたね。いくら何でも、ここに書かれている例示が「今の若手社員の仕事の典型」とは言えないでしょう。(それとも産経新聞社の職場ではこういったことが残っているのでしょうか・・・)