せっけい日和

MKデザインスタジオ一級建築士事務所柿本美樹枝のブログです。設計者として、生活者として、多用な視点で綴っています。

バリアフリーからユニバーサルデザインへ、 有事の時にも役立つ施設へ

2019年03月13日 | ユニバーサルデザイン


今年のはじめに、神奈川県バリアフリーアドバイザーとして
訪れた施設の報告書が、やっと、まとまりました。

施設の方々、お待たせしました。

中身はこんな感じです。


もともと、高齢者対応の施設とあって、
それなりの設計施工がなされていました。

点字ブロック、段差処理、トイレ内の手すりなどなど。。。
一応の対応がなされており、
事前アンケートでも「特に問題は生じていない」の回答でした。

しかしながら、訪れてみると
パーツはそれぞれあっても、機能していない側面や

築15年が経過し、現在の考え方には、
そぐわない部分もあったりと
思った以上に不具合が、ありました。


↑手すりが切れている階段。手すりがあったり誘導ブロックがあっても
この1段目に足を踏み外したり、車椅子でも近づけてしまい、脱輪の恐れも。

今回の施設は、バリアフリリーに配慮された施設。
このままでは、もったいないと考えます。

報告書は、視覚障害者や、色の専門家による
カラーバリアフリーに対するアドバイスは事前に受けたとのことで、
今回は、指摘のみにとどめました。

何より、私たち設計者のアドバイス以上に、
当事者の方々の意見は大事だからです。
もちろん、障害の程度により、対応は少しづつ違います。

私たちの調査には、建築士だけではなく
車椅子を使っている当事者のアドバイザーの方も参加されます。


↑EVの出入り口の溝に、車椅子の前輪が入ってしまい危険。
排水溝のグレーチングなども、ヒールのかかとや、前輪が入らないよう
昨今は細溝タイプを設置します。


実際にみんなのトイレに入って、
使い勝手をチェックしてもらうなどします。

それだけではなく、
最新の事情、情報なども共有させていただき、
私たちも勉強になります。

今回は、2階が受付になっている施設で、EVはあるものの
停電時など有事の時の
車椅子の方が避難する場合の不具合が考えられました。

某メーカーの、避難設備、UDエスケープを紹介してくださり、
その設置が有効であると私たちも判断しました。


↑視覚障害のかたの点字ブロックに変わる誘導シートも
床とのコントラストが大事なため、メーカーも色の種類を出してきています。


バリアフリーから、ユニバーサルデザインへ
時代は、大きく変わっています。

それでも、いくつか調査する施設の経験や、
日頃利用する公的な施設から
まだまだ、対応は追いついていない
というのが実感としてあります。

本当に地味な作業ですが、
一歩一歩こうして、改善策が練られて
一人でも多くの方が、
ハッピーに施設利用してもらえたらと思います。

特に今回は、来るであろう大地震にも備えて、
避難施設となりうる公的な場所としての
提案もさせていただきました。

余計なお設計になるかもしれないと思いながら、
提案しても良いでしょうか?と尋ねると、

施設管理者の方の意識も高く、
ちょうど検討したいと考えておられたようでした。

私自身の熊本地震での体験が活かせます。

日頃は問題ないユニバーサルデザインではない部分も
有事の時は、致命傷になりかねません。

ガラスの飛散防止がなかったために、
使えなくなってしまう施設が、九州で多発しました。

人を守るための建築が、凶器になってはいけません。
今から、どの施設も対応して欲しい部分です。

・電気が使えなくなったら?
・水が止まったら?
・道路が崩壊して、物資が届かなかったら?

などなど、、、想像してみることです。
実際は、想像以上に過酷ですけれどね。

それから、当事者の方から、
『車椅子トイレがある施設が近くに有る』
という看板が道路にあると、立ち寄れて助かる」というお話が出ました。

コンビニでもまだまだ車椅子対応されているところが少なく
車での移動で、トイレ難民になるのだそうです。

確かに、私も断水で、熊本地震の時、
出先でトイレ問題に直面し、

「トイレ使えます!」という親切な看板を道路に出していた施設に
立ち寄り、事なきを得た経験があります。

まさに、他人事ではなく感じました。

一方で、車椅子の方は、日頃から、
そのような大変な思いをされているのだな
気がつかなかったなぁ。。。と、自分自身を反省しました。

常日頃から、当事者の方は、サバイバルな有事なのかもしれません。
もっと、その部分に想いを馳せるべし!と誓った調査です。

一緒に調査してくださったアドバイザーのメンバーにも感謝して。
これからも、人を幸せにする施設が増えていきますように!!

防災に向けて、今の自分の地域の危険度を知り、備える。

2019年03月11日 | ワークライフハッピー

↑今日は普段仕事で使ってる地震関連のサイトも紹介します。

あの日を忘れない。。。。
東日本大震災から8年。

ニュースでは、亡くなられた方は、
本日時点で、1万5897人になったとのことです。

ご冥福をお祈りするとともに、
未だ避難生活を余儀なくされている方々に
お見舞い申し上げます。

今日は特別に、会社や、各家庭でも、
地震、津波などの災害のことについて
話し合われたのでは、ないでしょうか。

あまりに便利な日常生活に慣れてしまうと
忘れてしまいそうになる、危険。災害対策。

今日は、まずは、自分の住む地域、仕事場のある地域の
危険度を知ろう!

をテーマに綴ります。

昔から、言われてきた
「備えあれば憂いなし」の気持ちで、
読んでいただけたら幸いです。

災害の度に、話題にのぼるハザードマップ

皆さんは、ご自身の地域の危険度を知っていますか?
各自治体が、公表されていますし、
各家庭に配布している自治体もあります。

しかしながら、認知度が低かったり、
見たことがないという方も多い様です。

土砂災害など、その地図が、活かされてなかった!(認知されていなかった)
ということも実際に起きています。

まだ、ご自身の地域を知らないという方がおられたら
ぜひ、自治体のホームページで「ハザードマップ」を見てください。

そして、紙媒体が欲しければ、役所に言えばもらえます。

災害国日本で、『もう自分の命は自分で守るしかない!!』
国の方針も、まずは、自助、共助、公助の順と、8年前に
公表され、また、思い知らされましたね。

都市部では、公的な備蓄も、公的な避難所も
圧倒的に不足しているのですから。
(お米やトイレットペーパーなど関東圏では一時期消えました)

では、当方の事務所のある新横浜駅周辺で、
行政が発表しているハザードマップの事例を見てみましょう。
画像は、抜粋しています。

まず、土砂災害警戒区域について
茶色い部分が、その対象区域です。駅の東側に集中しています。
住宅街も含まれます。



次に、洪水に関して。

JRの線路沿いや地下鉄のある部分もピンク色です。
鶴見川が氾濫し、洪水になる可能性のある地域です。
新横浜駅の西側のほとんどが対象区域です。



幸い、事務所のあるところは、どちらにもかかっていません。

それでも、普段利用している駅周辺が、
このように対象になっていると知るだけでも、心構えが違います。
もし、出先で何かあった場合には、
戻ってこれるだろうか。。。
眼鏡や水などは携帯して外出した方が良いのではないか
と、なりますよね。

それから、地震についてです。
専門家が使うサイトをご紹介します。

こちらは、「国立研究開発法人 防災科学技術研究所」が
公表している「地震ハザードステーション」でチェックします。
http://www.j-shis.bosai.go.jp/

2018年1月には、政府の地震調査委員会が
今後30年間に南海トラフ地震が発生する確率を
従来の「70%程度」から「70~80%」に引き上げています。

このサイトも、毎年も2018年版が最新です。

スタートボタンを押し、左上の「2018年版」を選択、
場所に住所を入力します。そして、活断層をクリックします。
(画像の赤矢印部分参照)


そして、地図上のバナーで、30年間の地震の確率をチェック。
事務所周辺を確認すると

震度6強以上では、[6~26%]の範囲ですが、


震度5強以上では、[26%~100%]と真っ赤になります。


このほかに、このサイトでは、250mメッシュで
「地震ハザードカルテ」を出すことができます。


この表の具体的なことは、専門的なアドバイスがないと
ちょっと分かりにくいかもしれません。

それでも、ご自身の住まいの建っている場所、
或いは建てようとしている場所の地盤が、
どのような地盤なのか、概ね分かります。

今は、こうして情報は共有できるので、設計者としては助かります。
地盤調査の前に、建主に事前にアドバイスしておくことができます。
土地を選定するときの判断材料としても使えますね。

とにかく、避けられないし、予測も正確にはできない災害です。

1に、情報収集、
2に、備え、
3に、対策と、


ご家庭、職場で話し合われることを望みます。

そして、こちらは私の趣味の域ですが、
読書して、面白かった災害本の紹介です。

「武士の家計簿」の著書として有名な
歴史研究家、磯田道史氏の
天災から日本史を読み直す先人に学ぶ防災
(中公新書、2014年発行)は、災害に対する教訓が書かれています。


古文書から、紐解かれる、命を守る術。

明暗を分けたものは何だったのか、
それは、とっさの判断や行動力

まるで、その災害に遭っているかのような臨場感あふれる事例紹介に、
そんなに歴史には明るくなく、特段興味のない私でも面白く、

地震、津波、噴火などの避難について、
先代の知恵や教訓を、感動的に読み進めました。

4に、先代の教訓を活かす
5に、次代へ伝える


でしょうか。

犠牲になった数多くの命の教訓を、
次世代の命につないで参りたい想いです。

歴史も踏まえ、そして今、実際に被災された各地域での教訓が
これからの私たちの、時代をつなぐ生き方に
活かされていきますように。。。

建築のものづくりに関わる身としても、
気を引き締める3月11日でした。


啓蟄の候に、ワクワクする芸術のこと

2019年03月06日 | アート・文化

↑目を楽しませてくれるご近所の梅の木たち

咲き誇ったと思ったら、散り始めている梅の花。

三寒四温の折、
とうとう今年も「啓蟄」の候を迎えました。

冬ごもりしていた虫たちが,ぞろぞろと土や木から這い出てくるように、
人もぞわぞわと活動したくなり、ワクワクと始動する季節です。

そこで、今日は大好きなアート、芸術から、映画のことを綴ります。

育児中は、自分の好きな映画をのんびり鑑賞するという
趣味からは遠のき、観るものといえば、
子ども向けの話題の映画、
アニメやハリウッド系が多かった昨今。

そろそろ、子どもも友人たちと好きな映画を観る
年齢になってきたところで、

シネマの趣味を少しづつ、復活。

昨年、誕生日月の自分へのご褒美で、
駆け込んだ「フランス映画祭2018」
そこで上映された映画がとても素晴らしく。

これは皆さんにも観て欲しいなぁ、と思っていました。

今年、一般公開されると聞いていたのですが、
それがこの3月から。

英題は「See You Up There」(お会いしましょう)
日本語では「天国でまた会おう」となってます。

戦争の哀しい物語がベースです。

二人の生き残った兵士の寂しくもユーモラスなやり取りが、
家族愛とは何か?平和とは何か?と訴えかけてきます。

そして、披露されるダンスも、衣装、仮面のモチーフも美しく、
完成度の高い芸術作品として、鑑賞できます。
ポスターも絵画のように素敵です。

公式サイトはこちら
http://tengoku-movie.com/

昨年の映画祭では、監督アルベール・デュポンテル氏のインタビュー、
Q&Aが行われました。その様子がこちら、(その場にいました!)

監督、脚本、出演と、一人何役もこなす彼を
芸術家として、とても尊敬します。
http://unifrance.jp/festival/2018/latest/687/

映画をご覧になった後、お読みいただければ、
なお理解が深まることでしょう。

原作は読んでいないのですが
終わり方は、どうも違うらしいです。

興味のある方は、原作を読んだり、
ぜひ映画館に足を運んでくださいね。

「フランス映画祭 2019」は、6月20~23日に
神奈川・横浜みなとみらいホール、
イオンシネマみなとみらいで開催される予定だそうです。

今年は、主催のユニフランスが設立70周年、
横浜と仏リヨンの姉妹都市提携が60周年を迎える記念すべき年とのことで、
どんな映画が上陸するか、今から楽しみです。
今年も、誕生日月に、忘れず行けますように!

ただいま年度末、慌ただしい毎日です。
乗り切ったら、ご褒美に映画(再度鑑賞したい)と思って、
頑張ります!

芸術に触れると、新しい発見があったり、視野が広がり
自分自身の、感覚や感情の動きを、見つめることにもなり、
結果的に、心の余裕が生まれます。

それが、自分の仕事や生き方にも生かされるのです。
日頃、仕事関係や周りの人間関係への感謝で目一杯な私です。

遠く海を越えたフランスで、
極めている芸術家たちに想いを馳せて。

素敵な作品をありがとうの気持ちを込めて。

民家はいかにして残ったか、残せるか

2019年03月04日 | 日本民家再生協会・伝統建築・造園


昨日は、日本民家再生協会の大先輩が手がけた
築140年の明治期に建てられた伝統的家屋の
移築再生現場見学会でした。

参加している技術部会が受付担当となり、
早めに現地に伺って、スリッパや手袋、配布資料の準備。

続々と来られる方の受け付け対応に追われるほど、
雨で寒い中、大勢の方が見学に来られ、
関心の高さが伺えました。

建物自体は、本当に素晴らしく、
さらに年月をかけて、蘇らせた建築家の手腕と
建主の情熱とパワーには脱帽、というしかありません。

残念ながら内部の写真はお見せできませんが、
構造の軸組は、大変に迫力のあるものでした。

甲州民家の代表的な特徴、屋根の「兜作り」(外観写真参照)に加えて
養蚕農家の特徴、通風、採光のための「突き上げ屋根
そして、「」もあるという、まるで構造の見本市。

大黒柱は7Mもあるケヤキの一本柱。
大きさは40センチ×48 センチの大迫力。

四方から差しもの(梁)があり、解体時には慎重を要したそう。
柱に隠れた部分は、どのような組み方かは、
解体してみないと分かりませんから。

解体調査した方が、文献などを調べた結果、
実際の仕口は、「追い入れ小根ほぞ鼻栓締め」だそう。
本当に手の込んだ仕口です。

(仕口とは、柱と梁の接合部のこと。
現代では金物で止めるだけというのが一般的)

良材と良質な手仕事があってこそ、
長い年月にも耐えてきたのだと、感じ入りました。



本日は、効率優先の現代社会において
手間暇のかかる「民家」という伝統的建築が

どうやったら残せるのか、どうして残ったのか
そんなことを考えて綴ります。

見学会の挨拶で、皆さんが口を揃えておっしゃったことが
建主様の情熱がすごい」でした。

民家の学校で学ばれ、民家を多くご覧になり
そして、「一目惚れ」した民家なのだそうです。

さりげなく主張しないのが民家の良さでもあり
写真では、なかなか伝わらない木の建築の凄さですが、
その場に立って眺めたり、中の空間に入ったりすれば

思わず、感嘆の声や、
お〜、うむ、など唸るような声が漏れてしまうのが
伝統家屋の迫力。

ビデオにも、見学当初の様子が残されていました。
暗い中を懐中電灯で照らしながら
「すごいな〜」とか「「うわ〜」と
思わず声を上げる調査メンバー。

残っていくためのポイント、まず1点目は、

その建物の魅力迫力が、はっきりと今の私たちも伝わること
感じ取れる人との出会いがあること。


ではないでしょうか。

持ち主はすでに新居を建てられ、解体を待っていた建物だそう。

ずっと目にしている方は、かえって、その良さが当たり前に
なっているのかもしれません。

そして次に、

惚れた建物と添い遂げる覚悟をする建主、
その情熱とエネルギー


が必要ということ。

時間もお金もかかります。もちろん維持していく費用も含めて。

いろいろなことを、犠牲にしていかなくてはならないでしょう。
考えることも山盛り。

それでも、この民家に暮らす、楽しむということをイメージしながら
一つ一つの課題をクリアしていかれたことでしょう。

解体時などは、まったく建物の姿がなくなるわけですから
図面や部材でイメージするしかありません。根気も必要です。

最後に、技の継承、技術力を育む場と人

担当された設計の方も、最初に挨拶されていたように
職方あって、初めて、創ることができるのです。

棟梁、左官屋さん、電気担当、、、、
多くの方の紹介があり、
最後にパンフレットをもらってきました。



職人さん方が、この世界(伝統構法)にしては、若いなぁ〜
と、眺めていたのですが、(あ、私が年齢を重ねだだけかも、笑)

30年の歩みとあります。

老舗とは違い、故郷の伝統家屋が壊されていく様を
食い止めたいという一心でのスタートのようです。

伝統構法に特化し、茅葺き職人の育成にも力を入れ始めたとか。
こういった方々が、踏ん張って、残していこうと
努力してくださっている賜物と感じます。

民家の予算は文化財クラスの工事に関しては、もしかしたら半分〜
10分の1くらいしか予算はありません。(ヘリマネで学びました)
個人で出すのですから。(当然、個人ではそれなりの負担)
しかし、やる仕事はそれほど違いません。

どれだけ、地域の工務店さんが、
残そうという想いで頑張ってくださっているかが
分かります。(施工費だけではないということ)

そこで、私たち設計者ができることといえば、

1)民家の良さを広める、残すことができる、という啓発活動
2)建物と、人(建主、施工者)とのマッチング
3)技術を生かせる現場、プロジェクトをまとめる能力

でしょうか。

頑張ることは沢山ありますね。



最後に、、、

移築再生現場は、まだ私自身は経験していませんが、

人も建物もご縁だなと、感じます。

今回の現場は、工程ごとにワークショップ形式で、
関係者以外の人の手も入っています。

多くの方が、知る建築となりました。

結婚式も、何故するのかというと、、、、
添い遂げる覚悟を誓う二人の
多くの方に、証人になってもらうため、だそうですね。

このワークショップ参加、ということが
その儀式にも似ているなぁと思うのでした。

より多くの方に、携わってもらう。。。
知ってもらい、自分ごとにしてもらう。

このことも、
残していくポイントになる予感がしています。

学びの場として、住まいを提供してくださった建主様、
ありがとうございます。
見学会の準備関係者の皆様、お疲れさまでした。

140年前に建ててくださった建主様と
工事関係者の方々にも、時空を超えて、感謝致します。

長文、最後までお読み頂きありがとうごさざいます。