二週間探し続けていた『あいつ』に、ついに会えた。
予想通り体育館にいた『あいつ』と話して、そのあと、自転車で送ってもらって、来週も会う約束もした。
うちの前で自転車の後ろ姿を見送りながら、夢みたいだ、と思った。本当に会えて、こうして話せるなんて……
でも、『夢みたい』って気持ちは、あいつの方がずっとずっと大きいだろう。何せ……
『おれ、昨年の夏に十中であったバスケの試合で、渋谷のこと見て、それからずっと渋谷のファンで……』
なんかものすごい、尊敬の眼差し!って目でおれのこと見てたあいつ……
ニヤニヤしてるから、いつもそんななのか?って聞いたら、
『今日は特別! だって、渋谷に会えたんだもん』
なんて、恥ずかし気もなく言ったりして……
ホント、変な奴。変な奴だ。
でも、おれだって、この二週間、ずっとお前のこと考えてきたしずっと会いたいって思ってたし、会ってみたらこんな変な奴だったのは予想外だけど、おれがシュートの手本見せたら、目キラキラさせて「もう一回!もう一回!」って何度もせがんできて、帰りの自転車もなんか一生懸命漕いでて、そんなとこは予想通りで………
翌日の昼休み、奴のことで頭いっぱいになりがら、図書室に入って行ったところ、
「あ!」
「え? あ!」
当の本人がいてビックリした。思わず声を上げると、奴も「あ!」と驚いた顔をして、それから、パアッと嬉しそうな顔になって、
「うわっ。渋谷っ。ほんとに……っ」
「しー!しー!しー! 声でかいっ」
いきなり叫ぶから、慌てて口を押さえてやると、奴は降参というように両手をあげた。ゆっくり手を離すと、ニコニコしたまま小声で、
「……ごめん。嬉しくてつい」
「嬉しくてって」
出た。変な奴発言。
「ホントに渋谷、この学校にいたんだね。夢?とか思ったけど本当なんだよね。ほんっと嬉しい。夢みたい」
「……………」
なんでこいつ恥ずかしげもなくこんなセリフぺらぺら言えるんだろう。こっちが恥ずかしくなってくる。
頭抱えたくなってるおれを置いて、奴は変わらずニコニコしたまま、
「渋谷が図書室くるの珍しくない? おれ、わりとくるんだけど会うの初めてだね♪」
「……ああ。はじめの学校案内以来だよ」
ちょっと肩をすくめてみせる。
「今日の中森の授業、速すぎてノート取れなかったから調べにきた」
「中森ってことは古典? じゃ、こっち」
奴は迷いもせず古典の本の置かれている本棚まで連れて行ってくれた。相当来なれているみたいだ。
「プリントのやつ?」
「ああ、これ。………って、ないじゃん」
本棚をざーっと見て、ガッカリする。残念ながら、枕草子、全滅。考えてることはみな同じってことか。だよなあ、クラスの何人かに「ノート見せて」って言ったけど、みんな取れてなくて断られたもんなあ……
「放課後またくるかあ……って放課後までに戻ってくんのかなあ」
「あの……」
行きかけたところ、奴に遠慮がちに声をかけられた。あんなに変なことぺらぺら言う奴なくせに、今回はなぜか躊躇しながら、
「あの……おれのノート、見る? こっちの方が授業進んでるみたい。そのプリントの授業、今週頭にやったから……」
「え、ホントに? やった。助かる!」
「あ、うん」
なぜか、ホッとしたように息をつく奴。なんだろう??
聞こうとしたら、予令が鳴りだしてしまった。
「じゃあ……おれ、放課後部活だから、終わったら渋谷の家に寄ってもいい?」
「え! いいのか? 悪いな~~助かる!」
「うん。じゃ……」
「……?」
軽く手を振りながら教室に帰っていく奴の後ろ姿が何だか寂しそうで……
「なんなんだ?」
思わず一人ごちてしまう。
一生懸命シュート練習してたり、無邪気にはしゃいでたり、変なこと言ってきたり、こんな風に妙に切なげだったり……
「ほんと……変な奴」
奴の姿が曲がり角を曲がって見えなくなるまで、ずっと見送ってしまった。
---------------------
お読みくださりありがとうございました!
浩介の重~い話の後だから、慶の二週間が軽く感じる……
でもまあ、これからこれから、です!!
そして、クリックしてくださった方々、本当にありがとうございます!
もうホントに有り難いです。いちいち「おお!」とか「わあ!」とか画面に向かって叫んでます。ものすごい励みになります。本当にありがとうございます!!
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予想通り体育館にいた『あいつ』と話して、そのあと、自転車で送ってもらって、来週も会う約束もした。
うちの前で自転車の後ろ姿を見送りながら、夢みたいだ、と思った。本当に会えて、こうして話せるなんて……
でも、『夢みたい』って気持ちは、あいつの方がずっとずっと大きいだろう。何せ……
『おれ、昨年の夏に十中であったバスケの試合で、渋谷のこと見て、それからずっと渋谷のファンで……』
なんかものすごい、尊敬の眼差し!って目でおれのこと見てたあいつ……
ニヤニヤしてるから、いつもそんななのか?って聞いたら、
『今日は特別! だって、渋谷に会えたんだもん』
なんて、恥ずかし気もなく言ったりして……
ホント、変な奴。変な奴だ。
でも、おれだって、この二週間、ずっとお前のこと考えてきたしずっと会いたいって思ってたし、会ってみたらこんな変な奴だったのは予想外だけど、おれがシュートの手本見せたら、目キラキラさせて「もう一回!もう一回!」って何度もせがんできて、帰りの自転車もなんか一生懸命漕いでて、そんなとこは予想通りで………
翌日の昼休み、奴のことで頭いっぱいになりがら、図書室に入って行ったところ、
「あ!」
「え? あ!」
当の本人がいてビックリした。思わず声を上げると、奴も「あ!」と驚いた顔をして、それから、パアッと嬉しそうな顔になって、
「うわっ。渋谷っ。ほんとに……っ」
「しー!しー!しー! 声でかいっ」
いきなり叫ぶから、慌てて口を押さえてやると、奴は降参というように両手をあげた。ゆっくり手を離すと、ニコニコしたまま小声で、
「……ごめん。嬉しくてつい」
「嬉しくてって」
出た。変な奴発言。
「ホントに渋谷、この学校にいたんだね。夢?とか思ったけど本当なんだよね。ほんっと嬉しい。夢みたい」
「……………」
なんでこいつ恥ずかしげもなくこんなセリフぺらぺら言えるんだろう。こっちが恥ずかしくなってくる。
頭抱えたくなってるおれを置いて、奴は変わらずニコニコしたまま、
「渋谷が図書室くるの珍しくない? おれ、わりとくるんだけど会うの初めてだね♪」
「……ああ。はじめの学校案内以来だよ」
ちょっと肩をすくめてみせる。
「今日の中森の授業、速すぎてノート取れなかったから調べにきた」
「中森ってことは古典? じゃ、こっち」
奴は迷いもせず古典の本の置かれている本棚まで連れて行ってくれた。相当来なれているみたいだ。
「プリントのやつ?」
「ああ、これ。………って、ないじゃん」
本棚をざーっと見て、ガッカリする。残念ながら、枕草子、全滅。考えてることはみな同じってことか。だよなあ、クラスの何人かに「ノート見せて」って言ったけど、みんな取れてなくて断られたもんなあ……
「放課後またくるかあ……って放課後までに戻ってくんのかなあ」
「あの……」
行きかけたところ、奴に遠慮がちに声をかけられた。あんなに変なことぺらぺら言う奴なくせに、今回はなぜか躊躇しながら、
「あの……おれのノート、見る? こっちの方が授業進んでるみたい。そのプリントの授業、今週頭にやったから……」
「え、ホントに? やった。助かる!」
「あ、うん」
なぜか、ホッとしたように息をつく奴。なんだろう??
聞こうとしたら、予令が鳴りだしてしまった。
「じゃあ……おれ、放課後部活だから、終わったら渋谷の家に寄ってもいい?」
「え! いいのか? 悪いな~~助かる!」
「うん。じゃ……」
「……?」
軽く手を振りながら教室に帰っていく奴の後ろ姿が何だか寂しそうで……
「なんなんだ?」
思わず一人ごちてしまう。
一生懸命シュート練習してたり、無邪気にはしゃいでたり、変なこと言ってきたり、こんな風に妙に切なげだったり……
「ほんと……変な奴」
奴の姿が曲がり角を曲がって見えなくなるまで、ずっと見送ってしまった。
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浩介の重~い話の後だから、慶の二週間が軽く感じる……
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