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BL小説・風のゆくえには~遭逢・クリスマス(浩介視点)

2015年12月24日 07時21分58秒 | BL小説・風のゆくえには~ 遭逢
 渋谷慶は、芸能人みたいなオーラと美貌の持ち主で、性格も明るくて社交的で友達も多くて、本当ならおれなんかが友達になれるような人ではない。
 それなのに、渋谷はなぜかおれのことを気にかけてくれて、おれのことを『親友』とまで言ってくれている。
 だからおれは渋谷の『親友』のままでいられるにはどうしたらいいんだろう、とずっと考えている。


**

 『親友』と言われてから一か月半ほどたった、12月23日。
 この日、渋谷のお姉さんの結婚式があった。渋谷はお姉さんとすごく仲が良かったらしいから、落ち込んでいるかもしれない。そう思って、渋谷が帰ってくる時間を見計らって渋谷の家の近くをウロウロしていたら、渋谷に会うことができた。

 案の定、落ち込んでいた渋谷……。

 即座に、抱きしめたい! と思った。

 前におれがバスケ部のレギュラーメンバーに選ばれなくて落ち込んだとき、渋谷はおれのことを抱きしめてくれた。それでおれはすごく救われた。だから抱きしめたいなんて思ったのかもしれないな、と思いつつ…

「慶……さみしいね」

 おれも渋谷のことを抱きしめてみた。ぬくもりが気持ちいい……。
 すると、渋谷もおれの肩口に額を押しつけて、ぎゅーっと強く抱きついてきてくれた。
 ちょっとホッとする。これは正解? 嫌じゃないってことだよね?
 抱きしめながら頭をなでると、渋谷は小さな子みたいにされるがままになっていて、なんだかとても可愛かった。ずっとずっとこうしていたかった。


**

 次の日も祝日の振替で休みなので、午前中から一緒に遊ぶことになった。
 行き先は図書館。おれが図書館でもらってきたクリスマスイベントのチラシを見て、渋谷が行きたいといったからだ。
 おれが中学校のころからしょっちゅう行っている図書館に渋谷が来てくれるというということが、なんだかくすぐったくて嬉しい。


「ちょ、ちょっと桜井君っ」
 中に入ってすぐ、顔なじみの司書の中村さんというおばさんが、あわてておれに詰め寄ってきた。

「お友達?! まあ、どうもおはようございます。……すっごい綺麗な子ね。芸能活動とかしてる子?」
「…………」

 後半はコソコソコソっとおれにだけ聞こえるように言った中村さん。
 そんなことは知らずに、渋谷は中村さんに挨拶した後は、キョロキョロともの珍しそうにあたりを見回している。白いふんわりとしたタートルネックのセーターを着ている渋谷は、まるで雑誌から抜け出てきたモデルのように可愛らしい(いや、カワイイというと怒られると思うけど、今日の渋谷を形容するのに一番似合う言葉はカワイイとキレイだと思う)。

 中村さんは、まあまあまあ……と感心したように渋谷を見ていたけれど、ふとおれに視線を戻して、

「今日は? また自習室?」
「あ……いえ、このチラシの……」
「クッキーもらいにきました♪」

 渋谷がニッコリと中村さんに言う。

「先着50名って書いてあったから、早くきて並んでおこうかと」
「あら、やだ。そんなに気合いいれなくても大丈夫よ」
「いえ、すっごい気合い入れてきました。このために朝食の量も減らしたくらい」
「まあまあ、そんな大したものじゃないのよ~」

 中村さんが破顔する。渋谷ってすごい。どうして初対面の人ともこんな風に話せるんだろう……

「あ、ねえ、もし時間あったら、クリスマス会、手伝ってもらえない? クッキー並ばないでもあげるから!」
「え」
「もちろん喜んで! いいよな?」
「え」

 ニコニコの渋谷……。

「う、うん」

 肯いたはいいけど、手伝うって何するんだろう? 
 不安でいっぱいのおれをよそに、渋谷はさっそく中村さんと打ち合わせをはじめている。
 渋谷ってやっぱり………おれとは全然違う。

 渋谷……。こんなおれなんかが『親友』でいいの……?


**


 クリスマス会は大盛況のうちに終わり、おれたちはクッキーを2セットずつもらえた。
 とくに渋谷が仕切ったビンゴ大会は、ものすごく盛り上がり、参加した子供たちも司書さんたちも大喜びだった。

「楽しかったな~~。あ、うめえぞ、これっ」

 渋谷は歩きながらさっそくクッキーを食べはじめている。

「慶って……すごいよね」
「なにが?」
「なにもかもが」
「だから何なんだよそれ」

 クスクス笑ってる渋谷……。すれ違った中学生の女の子達が、肘でつつきあって「きゃあ~っ」って言っている。うん……渋谷かっこいいもんね……。こんな人の隣をこんな平凡なおれが歩いてていいのかな……。

 沈みこみそうになったところで、渋谷がくるっとこちらを向いた。

「で、お前がいつもいくパン屋ってのは?」
「あ、うん。あそこ」
「おーなんかいい雰囲気」

 なぜか、渋谷がおれがいつも行っているパン屋に行きたいというので、昼食はパンにすることにしたんだけど……
 いいのかな……こんな昔ながらのパン屋さんなんかじゃなくて、もっと違う、素敵なお店とかそういう方が……って、素敵なお店知らないけど………

「ね……ホントにいいの? パン屋さんで?」
「おお」

 渋谷が機嫌よく肯いてくれる。

「お前がいつも行くところに行きたいんだよ。全部知りたいから」
「え………」

 なんで………?

「いつも何食ってるんだ?」
「あ、うん。コロッケパン……」
「じゃ、おれもコロッケパンにする。こんにちは~」

 渋谷が元気良くパン屋のドアを開けて、中にいたおじさんに挨拶をしている。

「…………なんで?」

 おれなんかの行ってる場所を知りたいって………なんで?


***


 それから、おれがいつもいく公園のベンチで一緒にパンを食べた。いつもは1人でモソモソと食べているパンも、渋谷と一緒だと何万倍もおいしい。

 それから、渋谷のうちの方に戻ってバスケの練習をしていたら、渋谷のご両親と妹の南ちゃんが帰ってきた。
 公園の外から南ちゃんが大声で叫んでる。

「お兄ちゃん、良かったね~。クリスマスイブを浩介さんと過ごせて~」
「うるせーよっ」

 渋谷がムッとして言い返している。そうだ。今日はクリスマスイブだった。その貴重な1日をおれなんかと過ごさせてしまった……。

「ケーキあるから、適当に帰って来て~」
「わかったわかった」

 渋谷はしっしっと手で南ちゃんを追い払い、おれに向き直った。

「じゃ、あと10本……」
「…………慶」
「ん?」

 渋谷のまぶしい瞳………。思わず本音が漏れてしまう。

「今日、おれなんかといて良かったの?」
「は?」

 キョトンと首をかしげた渋谷も抜群に可愛い。申し訳ないくらい。

「ほら……今日、クリスマスイブ、なのに、図書館行ったりパン屋行ったり……そんなので良かったの?」
「………………」

 トントントンと規則的なバウンド音のあと、ぽいっとボールを投げよこされた。渋谷がじっとこちらを見ながら、ポツリと言う。

「………つまんなかったか?」
「え?」

 渋谷の瞳が真っ直ぐにこちらを見ている。

「お前、今日おれといて、つまんなかった?」

 え………渋谷、泣きそう……?
 ドキッとして、あわてて否定する。

「渋谷といてつまらないなんてことあるわけないじゃん! すごい楽しかったよっ」

 慌てすぎて「渋谷」と言ってしまったけれと、渋谷はそれについては何も言わず、暗い表情のままボソボソといった。

「クリスマス会も勝手に手伝うことにしちゃったし、昼もいつも行くとこに行かせちゃったし………悪かったな」
「えええ!? 悪くないよ!全然悪くないよ!」

 そんなこと思わせるつもりないのにっ

「クリスマス会楽しかったよっ。渋谷が仕切り慣れててビックリしたけどっ」
「ああ………小学生のとき入ってたミニバスのチームでああいうの毎年やってて、中学のとき手伝わさせられてたから……」
「あ、そうなんだ……」

 どうりで子供の扱いが上手いわけだ。

「それでつい懐かしくて、二つ返事でやるって言っちゃって」
「そっかそっか」
「お前、本当は嫌だった?」
「だから嫌じゃないって!」

 バシッとボールを押し付ける。

「おれは渋谷といるだけで、何してても楽しいし嬉しいよ? 昼のパンも渋谷と一緒だったからいつもよりずっとずっとおいしかったし!」
「………………」

 渋谷は、怯んだような表情をして、それから、少し赤くなって、それから、ボールをトントンとつくと、再びおれにボールを押しつけてきた。

「おれも……」

 手を離さず、下を向いたままグリグリとボールをおれの胸に押し付けてくる渋谷。

「おれも、お前といると、それだけで楽しいし、嬉しい」
「…………え」
「浩介………」

 ふいっとおれを見上げた渋谷の瞳に、再びドキッと心臓が跳ね上がる。

 真剣で、憂いを帯びていて………

「おれ………」
「…………」

 鼓動が耳にまで響いてくる。

「おれ………お前が………」
「……………」

 渋谷は何かを言いかけたのに、ふっと笑って言葉を止めて、ボールからも手を離した。

 何だろう? 

「渋谷?」
「あ、お前今度『渋谷』って呼んだら腕立てな」
「えええ!?」

 腕立て!?

「だっておれ達、親友だろ? 親友なんだから名前で呼べよっ」
「…………慶」
「そうそう」

 さっきまでの憂いなどなかったかのように、渋谷は健康的な笑顔を浮かべると、

「じゃ、あと10本シュート練したら、ケーキ食べに帰ろうぜ?」
「え、おれもいいの?」
「あったり前だろっ」

 パンッとおれの手元からボールを奪い、その場から綺麗なホームでシュートを決めた。

「お前はおれの親友なんだからな!」
「……………」

 なんで? なんでおれなの?

 言葉には出さず、ボールを取りにいった渋谷のことをジッと見ていたら、

「浩介!」

 渋谷がこちらにボールを投げながら、叫ぶみたいに言った。

「おれ、お前と一緒にいるときが、誰といるときよりも、何してても一番楽しい!」
「え、お、おれもっ」

 いきなりの嬉しい言葉にビックリしながらも、おれもボールを投げかえす。思いきり叫びながら。

「おれ、お前と会えて良かった」
「おれもっ」

 渋谷のボールは手が痛くなるほど強い。けれども、正確におれの胸に飛び込んでくる。

「だから」
「うん」
「だから……」

 渋谷が、ふんわりと笑った。

「………ずっと友達でいてくれ」
「…………慶」

 ああ………抱きしめたい!

「慶!」
「わわわっ何すんだよっ」

 ボールを放り出して、渋谷にかけより、ぎゅーっと抱きしめると、渋谷はわたわたとおれを押しかえしてきた。思わず、ぶーっと文句を言ってしまう。

「なんで!? 昨日はぎゅーってしたら、ぎゅーってかえしてくれたじゃん!」
「あほかっそんなの時と場合によるだろっ」
「えー」

 なんでー? その時と場合ってわかんない。
 ぶーぶー言うと、渋谷が呆れたように、

「お前……ほんっと変な奴だよな」
「えー……」
「ほんと………おもしれえ。お前といると飽きねえ」

 くすくす笑いだした渋谷は、やっぱり抜群に可愛くて。
 我慢できなくて、もう一度抱きしめたら、

「お前ばかだろっ」

 渋谷は文句を言いながらも、一回だけギュッと抱きしめ返してくれた。


**

 この日の帰り際、パン屋に行く前に言われたことの意味を聞いてみた。

『お前がいつも行くところに行きたいんだよ。全部知りたいから』

 って……どうして? と。

 すると、渋谷は「ばーか。当たり前だろっ」とおれの腕をバシバシ叩いて、

「親友のことは何でも知りたいんだよっ悪いかっ」

 照れたように赤くなって、言ってくれた。

(何でも……)

 いつの日か、渋谷にすべて話せる日がくるのかな……
 おれの親のこと、中学までのこと、全部、知ってもらえる日がくるのかな……

 でも、おれの本当の姿を知られたら……

(慶……)

 おれの初めての友達。おれの親友。あなたを失いたくない。だから……

 おれは、醜い『おれ』なんかではなく、あなたが求めている『親友』の姿でいたい。





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お読みくださりありがとうございました!
せっかくクリスマスなので我慢できずに書いてみましたが、全然クリスマスっぽくなかった。
浩介視点にするとどうしても話が暗くなります^^;

せっかくなので、この年末に目次関係整理しようと思っております。
ちょっと確認していたら、一年前に書いた南視点が非公開のままなことに気が付いたので、公開にします。

(BL小説)風のゆくえには~南の告白(南視点)

南ちゃんの目から見た、慶の中学時代~文化祭までの話、です。
もしお時間ありましたら、ご参考までに……(なんの参考?!)

それでは皆様、素敵なクリスマスを♪♪

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そして、最近、更新していないのにもかかわらず、クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!泣けてきます……
おそらく、次のまともな更新は、年明けになるかと思いますが、今後とも、なにとぞよろしくお願いいたします!

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