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BL小説・風のゆくえには~遭逢7(慶視点)

2015年12月07日 07時19分53秒 | BL小説・風のゆくえには~ 遭逢

 連休明けの木曜日にはじめて話しをして、友達になったおれと浩介。
 来週もバスケの練習しよう、なんて約束したけど、考えてみたらその翌週火曜日から中間テストなので、テスト一週間前は部活停止で体育館も使用不可だった。

 と、いうことで。

 中間テスト前の一週間、部活が休みの浩介は、毎日うちに寄ってくれた。

 おかげで、高校生活初めての中間テストは予想よりもずいぶん良い点数がとれた。それもこれも浩介大先生のおかげだ。
 苦手の古典と、それに英語も教えてもらえて、他の教科も一緒に勉強することで、その勉強方法を真似することができて……。

 でも、おれと一緒に勉強しても、教えてばっかりで、勉強の邪魔になってるんじゃないか?と聞いたところ、

「教えることで消化できるし、一人で勉強してると煮詰まるから」

 ニッコリいう浩介。そして、

「何より、渋谷とこうして一緒に勉強してると思うと、嬉しすぎてめちゃめちゃはかどる」

と、また恥ずかし気もなく、おかしなことを言っていた。ホント変な奴だ。


 浩介は自分の成績を言いたがらないから、中間の結果がどうだったのかは知らない。

 浩介と同じクラスの荻野の情報によると、浩介は入学直後の実力テスト、英語は満点で学年1位、国語系・社会系もほぼ満点。理数系は少し落ちて、それでも、総合順位は学年8位だったらしい(荻野の奴、無理矢理奪って見たそうだ)から、そうとう出来る奴なんだ。

 でも、せっかくこんなに頭いいのに、それを隠そうとしている。
 はじめに古典のノートを見せてくれた時も「同級生に教えるのは失礼になる」とか、おかしなことを言っていた。おそらく過去に成績が良いことで誰かに何か言われたことがあるんだろう。
 そんなの言った奴の僻みでしかないんだから、気にすることないのにな……。

 一方、おれが教えているバスケの方は、まあ、だいぶマシにはなってきた、というところだ。

 テスト勉強の合間にも近所の公園で練習してみたんだけど、とにかくボールの扱いと体の動きがぎこちないのが難点。でも、奴の強みは、足腰の強さと頭の回転の速さだ。聞いたら小さい頃からかなり遠距離まで自転車で行っていたらしいので、それで足腰は強くなったのかもしれない。

 部活のない木曜日は体育館で練習して、部活のある日も時々帰りにうちに来て公園で練習したり、一緒に勉強したり………

 この1ヶ月ちょっとの間に、浩介とおれはすごく仲良くなったと思う。

 なぜだかわからないけれども、浩介と過ごす時間はとても心地がよい。気持ちが少しふわふわする。

 同じクラスで今一番仲がいい安倍康彦、通称ヤスとは、昔からの知り合いみたいに気兼ねなく付き合えているけれど、こんな風にフワフワにはならない。他の友達でもこんなこと一度もない。

 出会いも特殊だったし、おれの中で浩介の存在はちょっと別格だ。校内で偶然会えたりすると妙に嬉しくて、手を振ったりしてしまうし……。

 たぶん、浩介の方でもそう思ってくれてるはずだ。何しろ奴はおれのファンだったというくらいだし。

 おれ達はこのままならきっと、親友にだってなれる気がする。
 

 6月23日土曜日。

 浩介は今日までは部活がある。来週からは期末テスト前一週間でまた部活停止になるので、中間テストの時のように毎日おれのうちで勉強しよう、と約束している。
 テストは嫌だけど毎日一緒に勉強できるのは嬉しい。……って、おれ、どんだけ浩介と一緒にいたいんだよって自分でも呆れてしまう。でも、そのくらい、浩介の隣は居心地がいい。


「渋谷君、ちょっといい?」

 帰ろうとしていたところを、同じクラスの枝村さんから声をかけられた。
 枝村さん……ちょっと苦手。おれよりも縦にも横にも大きいバレー部の女子だ。クラスでも発言力があり、押しも強い。

 その後ろに隠れるように、石川さんがうつむきがちに立っていた。枝村さんが大柄だから、余計に石川さんが華奢に見える。

「今日、直子誕生日なの」
「え」

 枝村さんのセリフに一瞬つまる。
 直子って誰だっけ? ……ああ、石川さんのことか。石川直子。
 思い当たって、すぐに石川さんに視線を向ける。

「そうなんだ。おめでとう」
「あ……ありがとう」

 赤くなりながら石川さんが言う。そのはにかんだ笑顔は確かに可愛い。これで身長が低ければ、かなりいい線いってるんだけどなあ。でも、身長に関してだけは絶対譲れないから、無理。それにヤスが石川さんのこと好きみたいだから、その点からも無理。友達と女をめぐって揉めるなんて真っ平ごめんだ。

「それで、これからみんなでお昼御飯食べに行くから、渋谷君もきて」
「…………」

 枝村さんのいつもながらの強引な物言いに閉口してしまう。

 そういえば前にヤスが変なこと言ってたな……
 石川さんがおれのことを気にしてるから、おれに好きな人がいるか調べてほしいと枝村さんに言われたとかなんとか……

 枝村さんの後ろで恥ずかしそうにおれを見ている石川さん……。
 確かにおれのこと『気にしてる』感じではある。だったら余計に変な気を持たせないほうがいいだろう。

「ごめん、おれはちょっと……」
「用事でもあるの?」
「あーうん。あの……」

 枝村さんに詰め寄られて、どう答えたもんかと思っていたところに、ふと視線を感じてドアに目をやった。浩介が遠慮がちに立ってこちらを見ている。

 あれ? 部活は?

「ちょっとごめん」
 枝村さんの横をすり抜け、浩介の元に向かう。予定外に会えるとなんだか余計に嬉しい。

「渋谷」
「………」
 やっぱり浩介の醸し出す空気に包まれると、ふわふわする。

「どうした?」
 見上げて言うと、浩介がニコニコと、

「上野と三田が急な外出で部活なくなったの」
 上野がバスケ部顧問、三田が副顧問の先生だ。顧問の先生が校内にいないと部活動はできないことになっている。

「それでもし今日渋谷空いてたら……と思って」
「おお。空いてる空いてる」

 やった! 浩介と遊べる!

「カバン取ってくるからちょっと待ってろ」
「うん」

 教室に戻ったところで、枝村さんと石川さんが視界に入り、「あ」と思う。すっかり忘れてた。

「あの……ごめん。おれ、行けないから……」
「なんでよっ。せっかくの誕生日なのに……」
「洋子ちゃん、いいから」

 怒る枝村さんを、石川さんがあわてたように止めた。

「でも、直子………」
「いいの。いいんだって」

 石川さんにブンブン首を振られ、さすがの枝村さんもあきらめたように体の力を抜いた。

「ごめんね、渋谷君。気にしないで」

 石川さんが可憐に微笑みながら言う。
 なんかちょっと悪い気もしてきた。せっかくの誕生日なのに……

「ごめんね」
 両手を合わせて、石川さんに頭を下げる。

「楽しんできてね? 誕生日、ホントおめでとう」
 精一杯優しく言うと……

「え」
「直子っ」

 ポロポロポロっと石川さんの瞳から涙が流れ落ちた。なんでっ

「ちょっと、直子……っ」
「ありがと……渋谷君。洋子ちゃん、行こ……」
「直子……っ」

 泣いたまま、石川さんが枝村さんを引っ張って出ていってしまった。

「………なんなんだ」
 女子の考えてることは、ホントわからん……。



 いつものように、浩介の自転車で2人乗りをして帰る帰り道。
 なぜか浩介は沈みがちで、言葉数も少ない……

「なあ……」
「あの……」

 川べりにでたところで、同時に口を開いてしまい、「どうぞ」「お前先に言えよ」の応酬のあと、浩介がポツリと言った。

「さっきの女の子たちと何話してたの?」
「ああ、あれな」

 ちょっと肩をすくめて答える。

「今日誕生日なんだってさ。それでみんなで飯食いにいくから一緒に、とか言われたけど、断った」
「ふーん……」

 暑い日差しの下、自転車をこぐ音がやけに耳に響いてくる。

 しばらくの沈黙の後、浩介がポツリといった。

「おれ、別に良かったのに」
「……え?」

 なんだって?

「おれ、別によかったのに。渋谷、誕生日会の方に行けばよかったのに」
「……………」

 なんだよ……それ……

 胸のあたりがぐっと押されたように痛くなってきた。

 浩介は無言のまま自転車をこぎ続けている。
 そのシャッシャッという規則的な音に追い詰められていく。

『誕生日会の方に行けばよかったのに』

 なんだよ、それ。なんだよ、それ……

 おれはお前と一緒にいたいと思ってるけど、お前はおれのこと、そんな風には思ってないってことか。
 今日もただの暇つぶしに声かけてきただけってことか。別に断ってもよかったって……

(くそー………)

 なんでおれ、こんなにショック受けてんだ?

 浩介もおれと同じ気持ちでいてくれると思ってたのに違ったからか……
 そんなのおれの独りよがりで迷惑な話だよな……

 でも、おれは。おれは………

 胸がくるしい……

 胸を押さえて大きく息を吸ったところで、いきなり自転車がとまり、ごんっと浩介の背中に頭がぶつかってしまった。

「なに……」
「とか言っちゃって」
「え?」

 浩介がポツリ、と言った。

「とか言って、おれ喜んでんの」
「……え」

 浩介、前を向いたままだからどんな顔してるのか分からない。分からないけど……

「よかった。渋谷がそっちにいかないでくれて」
「………」

 小さい小さいつぶやき。

「うれしかった。渋谷がおれの方にきてくれて」
「…………」

 再び動き出す自転車。

(なんだよ、それ……)

 再び聞こえだす、規則的な自転車をこぐ音。

(なんだよ、それ……)

 コツンと浩介の背中におでこをあてる。伝わってくる体温。

(何泣きそうになってんだよ、おれ……)

 おれは最近、浩介の言動一つ一つに揺り動かされている……。



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お読みくださりありがとうございました!

作中は、1990年。
土曜日も学校だし、自転車二人乗りも今ほど規制されていなかった時代です。携帯電話ももちろんありません。

まだまだお友達時代の話が続きます。

クリックしてくださった方々、本当に本当にありがとうございます!!
めちゃめちゃ嬉しいです。こんな地味な話に……ホントすみません……
感謝の気持ちでいっぱいです。今後ともどうぞよろしければお願いいたします!
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コメント (2)
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