結局、病院から一言も言葉を発せずマンションまで帰ってきた。「何か食べますか?」という問いにも、首を横に振っただけ。そんな我儘を許してもらえることも有り難い。
そんな中、部屋に入るなり、山崎さんはポンと手を打った。
「そうだ。お風呂、入りますか?」
ニコニコの山崎さん。でも、5秒後、
「あ、いや……っ」
ハッとしたように、真っ赤になってブンブン手を振りはじめた。
「いえ、あの、決してそういう意味では……っ」
「大丈夫です。わかってます」
嫌なことや落ち込むことがあると、熱いお風呂に入る、と、以前話したことを覚えていてくれたのだろう。
肩の力がふっと抜ける。自分を見ていてくれる人がいるということが、なんて心強いことか。
子供の頃は、それが母であり父であり、ヒロ兄だった。
父親も祖父母もいない樹理亜にとっては、唯一母がそんな存在であるはずだった。
「山崎さん」
聞いたら失礼かな、と思い、今まで聞けなかったこと。今、どうしても聞きたい。
「聞いてもいいでしょうか?」
「なんでしょう?」
きょとん、とした山崎さんをふりあおぐ。
「あの……」
前々から思っていた。
「山崎さんは……もしかして、樹理ちゃんの気持ちが実感としてわかってたり、します?」
山崎さんは目をみひらき、
「…………はい」
数秒の間の後、静かにうなずいた。
***
山崎さんが話してくれたことや、樹理亜の今後のことを考えていたら、いつもよりも更に長風呂になってしまった。もう茹でタコだ。
お風呂から出てリビングに入っていくと、ソファに座って何かの書類を見ている山崎さんの姿が目に入った。どうやら仕事を持ち帰っていたようだ。何だかくすぐったいような不思議な光景。
山崎さんは、肩にタオルをかけたままぽやっとしている私に気がつくと、
「髪、乾かしますか?」
優しく微笑んでくれた。本当に、不思議。ふわふわした感じ。
言われるまま、ドライヤーを渡す。すると、
「はい。座ってください」
と、私を座布団に座らせた山崎さん。自分はその後ろのソファに私を足で挟みこんで座り、そして、丁寧にタオルで髪を拭きはじめてくれた。
(なんか……手慣れてるな)
歴代の彼女にこういうことしてたんだろうな……と思うと何だかモヤモヤしてくる。
「慣れてますね」
思わず言うと、山崎さんは「そうですね」とうなずき、
「甥っ子が泊まりにくると、風呂入れたり髪乾かしたりさせられるので」
「……………」
甥っ子。いや、それだけじゃないだろ。
「前の彼女にもしてたでしょ?」
「……………」
我ながら意地悪な質問。
山崎さん、たっぷり10秒くらい押し黙り………
「………。忘れました」
ボソッと言って、ドライヤーの電源を入れた。ドライヤーのボーッという音が静かな部屋に響きはじめる。
(忘れました、だって)
笑いそうになってしまう。してませんって嘘はつけないあたりが、真面目な山崎さんらしい。
ドライヤーの温かい風の中、優しい手に撫でられていたら、先ほど山崎さんが話してくれた話が頭の中に甦ってきた。
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お読みくださりありがとうございました!
全然途中なのですが、とりあえずここまでで。
今回、どうしても構成の納得がいかず、切ったり張ったり移動させたりを繰り返し、結局間にあいませんでした。
でも更新しないのも悔しいので、とりあえずここまではいいか……というところまで載せさせていただきます。
毎回、内容と肝になるセリフは決まっているのですが、
それをどう書くか、どう構成したら間延びしないのか、不自然さがないのか……で、悩まされ……
スマホだと切ったり張ったり作業も難しいというかなんというか。
今日は数時間パソコンが使えるはずなので、作業の続きはこの後に持ちこむことにしました。
でも、とりあえず。今回は、山崎君の「忘れました」を書けて満足です。
元カノの話なんか、絶対しちゃダメ。「忘れました」で押し通すことをオススメします。
クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当にありがとうございます!!
もう本当に……こんな真面目な話にご理解くださる方がいらっしゃること、感謝の気持ちで一杯でございます。
今後ともよろしければ、どうぞよろしくお願いいたします!
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