正志は取り残した単位を取得するため久しぶりに授業に出席し、帰りにK公園に足を運んだ。目の前には池が広がり、そこに映る自分の人相は悪かった。彩乃が話していたことは、まず間違いないのだろう。あの親父が家を出た上に、どういうわけか浮気していた。アパートを借りたと書いていたが、ひょっとしたら相手の中年女性のところに、転がり込んでいる可能性もある。普通に考えれば、親父にできる芸当ではない。しかし、相手の女がよほど変わっていて、一緒に住む提案をされたらどうだろう。流されやすい面のある親父が、それを受け入れても驚きはない。ただ、これだけは確かだ。親父が長年暮らしてきた家族よりも、中年女を選んだことだけは。
孝はひとり、ベッドの中にいた。この家の持ち主である林田恵理は、今頃、酔っ払いの相手をしているに違いない。ここは心が安らぐ。こんな感覚はすっかり忘れていた。家も財産もすべて佐世子の思い通りにすればいい。自分は定年まで働いて、退職金で何とかなる。55歳で役所を辞めたいと考えたのは、言い換えれば今の生活を辞めたいということだった。なぜ55歳までかといえば、末っ子の彩乃が20歳になるまではという思いからだ。
40歳を過ぎた頃から、年々、心と体が削られていく状態だった。最初は年のせいかとも思った。しかし、徐々にその正体ははっきりとしてきた。佐世子の若さだった。夫にとって妻が若く見られるのは嬉しいことだろう。しかし、それが度を越えて特殊なものになってしまった時、苦しみに変わるのだ。佐世子と一緒に外を歩いているだけで疲れるようになった。近所の住人や町の人は、自分たちをどのように見ているのだろう?父と娘?上司と部下?年の大きく離れた夫婦?そんなことを考えているうちに、佐世子と二人で外出するのは控えるようになった。
孝はひとり、ベッドの中にいた。この家の持ち主である林田恵理は、今頃、酔っ払いの相手をしているに違いない。ここは心が安らぐ。こんな感覚はすっかり忘れていた。家も財産もすべて佐世子の思い通りにすればいい。自分は定年まで働いて、退職金で何とかなる。55歳で役所を辞めたいと考えたのは、言い換えれば今の生活を辞めたいということだった。なぜ55歳までかといえば、末っ子の彩乃が20歳になるまではという思いからだ。
40歳を過ぎた頃から、年々、心と体が削られていく状態だった。最初は年のせいかとも思った。しかし、徐々にその正体ははっきりとしてきた。佐世子の若さだった。夫にとって妻が若く見られるのは嬉しいことだろう。しかし、それが度を越えて特殊なものになってしまった時、苦しみに変わるのだ。佐世子と一緒に外を歩いているだけで疲れるようになった。近所の住人や町の人は、自分たちをどのように見ているのだろう?父と娘?上司と部下?年の大きく離れた夫婦?そんなことを考えているうちに、佐世子と二人で外出するのは控えるようになった。