当然、彼女にも浮気された悔しさはある。しかし、心のどこかにまだ余裕があった。若い女性と浮気したというなら、短絡的な怒りも大きかったはずだ。しかし、あくまで彩乃の見た印象とはいえ、50歳前後の中年女性。佐世子にも負けるはずがないというプライドがあった。だからこそ戸惑う。戸惑いながら離婚を真剣に考えてみる。しかし、あまりに急な話で決断はできそうにない。離婚する、しない。どちらを選んでも間違っているような気がするのだ。
そして佐世子は人を頼った。町田朋子に経緯を話し、相談した。町田の意見は「まず佐世子さん自身がどう考えているのか整理し、そして3人の子供にも意見を聞いたほうがいい。互いの意見をぶつけ合って出した結論ならどういう形であれ、これからの人生を前向きに考えられるのではないか」というものだった。
もう1人、旧友の牧野和枝にも相談した。和枝は2人の子育てをほぼ終え、最近は夫と2人で年に1度は泊りがけの旅行に出かけているらしい。外から見れば、おしどり夫婦の部類だろう。孝が家から出て行ったことは伝えてあった。
「随分、急な話だね。離婚だなんて」
和枝は沈んだ口調ながらも、どこか遠い国の話を聞いている様子だった。佐世子は皮肉にも和枝夫婦の仲睦まじさを垣間見た気がした。
「彩乃ちゃんは高校3年だっけ」
和枝が唐突に尋ねてきた。
「うん、あと4、5か月で大学受験」
「大きくなったね」
この時ばかりは和枝も感慨深げだった。
「確かに夫がいなくなってから、彩乃も少し大人になったような気がする」
「長い反抗期も終わりだね」
「それは私にも半分、いやそれ以上、原因があることだから。今回、夫をここまで追い詰めたのも」
佐世子の偽らざる本音だった。
そして佐世子は人を頼った。町田朋子に経緯を話し、相談した。町田の意見は「まず佐世子さん自身がどう考えているのか整理し、そして3人の子供にも意見を聞いたほうがいい。互いの意見をぶつけ合って出した結論ならどういう形であれ、これからの人生を前向きに考えられるのではないか」というものだった。
もう1人、旧友の牧野和枝にも相談した。和枝は2人の子育てをほぼ終え、最近は夫と2人で年に1度は泊りがけの旅行に出かけているらしい。外から見れば、おしどり夫婦の部類だろう。孝が家から出て行ったことは伝えてあった。
「随分、急な話だね。離婚だなんて」
和枝は沈んだ口調ながらも、どこか遠い国の話を聞いている様子だった。佐世子は皮肉にも和枝夫婦の仲睦まじさを垣間見た気がした。
「彩乃ちゃんは高校3年だっけ」
和枝が唐突に尋ねてきた。
「うん、あと4、5か月で大学受験」
「大きくなったね」
この時ばかりは和枝も感慨深げだった。
「確かに夫がいなくなってから、彩乃も少し大人になったような気がする」
「長い反抗期も終わりだね」
「それは私にも半分、いやそれ以上、原因があることだから。今回、夫をここまで追い詰めたのも」
佐世子の偽らざる本音だった。