正志に対して憎悪が湧いてくるのを佐世子は抑えきれなかった。
「娘さんに何かあったんですか?」
恵理は佐世子の顔を観察するようにじっと見つめた。
「妹は心を入れ替えたように物事に取り組むようになりました。一浪しましたが、大学生になれました」
そこで佐世子の言葉が途切れた。
「よかったですね。おめでとうございます。それでお姉さんはどうしました?言いにくければ結構ですが」
恵理は不安そうに佐世子を見た。
「それがあまり上手くいってないようで」
「どういう風に上手くいってないんですか?」
恵理の問いに佐世子はどこから話せばいいのか思案していたが、丁寧に伝えることにした。恵理を信頼できる女性と佐世子は判断した。
「長女は麻美というんですが、子供たち3人の中ではいちばん手のかからない子でした。弟や妹の面倒をよく見て、勉強もできました。大学に進学し、教師を志望して小学校の教員になりました。
「麻美さんは優等生だったんですね。怒ったことなんてないんじゃないですか?」
恵理は空になったコーヒーカップを取り出し、再び湯気の立ったコーヒーを注ぎ、カウンターに戻した。
「そうですね。怒ったことはないかもしれません。下の2人にはよく注意しましたが」
「弟さんとはいくつ離れてるんですか?」
「2つです」
「事件が起きた時は、教員になって2年目ぐらいか」
恵理は指折り数えていた。