町田朋子は自らが経営するメンタルクリニックの仕事を終え、近くのレストランで少し遅めの夕食をとっていた。本当ならその後、居酒屋やバーで酒を飲みたいところだが、車を運転しなければならず、そうもいかない。窓から小さな夜景を眺めながら、町田はある人のことを考えていた。川奈佐世子。半月ほど前に一度だけ顔を合わせた患者である。まず強く印象に残ったのは、実年齢50歳とはかけ離れた外見の若さである。話し方の落ち着きやしぐさなどを含めれば20代後半には見えるが、純粋に見栄えだけで判断すれば、20代前半にしか見えない。これまでの半生、様々な人間と接してきたはずである。友人、知人、患者。それに一方的にではあるが、有名人、芸能人。確かに実年齢より若い人は多くいるが、その中でも彼女は飛び抜けている。診察の間、川奈佐世子と話しながら、彼女の老いを探した。首にシワはないか、表情を崩した時、小ジワが浮かばないか、或いはシミがないかの確認をしていたのだ。しかし、どれもこれも20代半ばの域を出なかった。ただ、顔そのものは童顔の造りではない。20歳前後から急速にブレーキがかかり、今に至ったのだろう。
そして佐世子の若く端正な顔立ちと町田の姉の育美が重なり合う。育美はすでにこの世の人ではない。23歳の時、白血病で亡くなった。町田にとって自慢の姉だった。町田より7つ上だったから、今生きていれば佐世子と同じ50歳になっているはずだ。父が外科医だったのだが、町田はそれよりも姉が医者を目指している事をよく友人たちに話した。
そして佐世子の若く端正な顔立ちと町田の姉の育美が重なり合う。育美はすでにこの世の人ではない。23歳の時、白血病で亡くなった。町田にとって自慢の姉だった。町田より7つ上だったから、今生きていれば佐世子と同じ50歳になっているはずだ。父が外科医だったのだが、町田はそれよりも姉が医者を目指している事をよく友人たちに話した。