土曜日の日当直の外科医から、頭部打撲の96歳男性を入院させたいと連絡がきた。施設に入所していたが、自室内で転倒して窓枠に右後頭部を打撲した。
頭部CTで頭蓋内出血はなく、切創を縫合していた(ステイプラー)。帰そうとしたが、血圧が60mmHg台で昇圧薬を開始したので帰せなくなったからという。
どこか出血があるのではと訊くと、少なくとも胸腹部CTで見るかぎりは指摘できないということだった。症状として、明らかな吐血・下血はなかった。
病院に来て患者さんを診ると、血圧は90~100mmHgで保っていた。認知症があり、普段でも一言しか返答しない方だった。声をかけるとこちらを見るが、返答はなかった。
病棟の看護師さんからオムツを替えようとすると右股関節を痛がります、と言われた。確かに右下肢を外転させていて、股関節部を痛がっている。
血圧低下でリンゲル液を多めに入れていたが、もともと心房細動・心不全があり、肺うっ血・水腫が危惧されたが、それはないようだ。そして骨盤X線を見ると、右大腿骨転子部骨折だった。結構ずれている。
胸部X線・CTで肺炎はなかったが、尿検査は出ていなかった。尿カテーテルを挿入すると、膿尿というか膿そのものの尿が排出してきた。白血球増加は尿路感染症によるのだろう。
ということは、尿路感染症から敗血症性ショックとなり、それで転倒した可能性がある。その結果、頭部を打撲して、大腿骨近位部を骨折したと推定された。
当院では手術ができない。整形外科のある病院に搬送となるが、敗血症性ショックの96歳だと受けてもらえないだろう。昇圧薬を休止するまでは当院で経過をみるしかない。感染症の治療の治療がうまくいって血圧が戻っても、手術適応があるかというと難しそうだ。