犬小屋:す~さんの無祿(ブログ)

ゲゲゲの調布発信
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マニポンを悼む

2020年03月05日 | なりもの

たしか私の11歳上だから、まだ61歳か62歳か、そのくらいだと思う。
突然、血を吐いて死んでしまった、と聞く。
こんなに早いと思っていなかった。
移住先の宮古島の住まいにも、一度も訪ねないままだ。



F山さんは中学時代からの友達の間で、マニポンと呼ばれている。
「マニラのポン引きみたいだ。」というのが理由で付いたあだ名だ。

サラリーマンらしくない服装で、
いつも眉毛は「ハ」の字に下がっていて、
痩せた身体で、
早く白髪になった髪を金髪に染めてみたりして、
いつもビーサンで、
いつも酔っ払って、
ヒラヒラと歩いていた。



「レーベルを立ち上げようと思っていたんだよ。
はかなく消えてしまったけどな。」

移住が何年前だったか忘れてしまったが、
その直前に会った時に、そう聞いた。
知らなかった。

当時、F山さんの勤めるレコード会社にインディーズ部門が有り、
私が二十代を捧げたバンドはそこから初めて3曲入りのCDを出した。
出した途端に、私はそのバンドを辞めてしまった。



F山さんが私たちのバンドに関わり始めてほどなく、言われた。
「いい加減なブルースバンドやってんだけどさ、ウチで吹いてくんないかなあ。」

おやじブルースバンドなんて、どんな気難しい蘊蓄クソじじいがいるか分からない。
私は緊張して緊張のあまりスタジオ前から酒を飲んで向かった。

行ってみたら、そのペンギンクラブというコジャレた名前のバンドは、
おふざけをたんまり盛り込んだことをやるバンドだった。
こりゃあいいや。

こりゃあいいや、と思ったけれど緊張しないわけじゃない。
私は毎回酔っ払って向かった。
F山さんもいつもウイスキーの小瓶を足元に置いてベースを弾いていた。
私もF山さんも電車ではないのに。
そしてF山さんも私もビーサンだった。



F山さんは田端の人で、バンドのリーダーは大塚の人だった。
私は5歳まで大塚に住んでいたので、ご近所だったわけだ。
そして、私は巣鴨の幼稚園に通っていた。
その幼稚園は、一年中ゴムぞうりを履くのが方針だった。
そこから私はいっつもゴムぞうりを履くのが好きになったのだ。

なんというか、私のルーツの近くにそのバンドは在ったので、
なんとなく良かった。



私がずっとやっていたバンドを辞める前後の頃、
他にもいくつかのバンドに関わっていた。
その中に一つ、メジャーデビューしようとしていたバンドが有った。
そこのライブメンバーとして、いつも呼ばれていた。

インディーズの頃だったと思う。
販売促進というより、とにかく知ってもらうために、
インストアライブをやったりした。
渋谷のHMVだかタワレコだか忘れたが、
店のフロアの一角で、何曲かライブ演奏するのだ。

レコード業界で聞きつけるのか、F山さんは、
私が知らせていなくてもいつも会場にふっと現れた。
金髪ハの字眉のヘラ~っとした顔が人垣の向こうに見えて、
私は嬉しかった。



だから、なんとか音楽業界で仕事することができたら、
まず知らせたいのはF山さんだった。
いつもそう思っていて、でも報告するほどの仕事は無くて。

先月、バービーボーイズのベーシストのエンリケさんが
縁有って、レコーディングに呼んでくれた。
美里ウィンチェスターさんという、これからバシッと売り出そうという歌手の録音に、
一曲だけ参加させてもらえた。

盤が出たら、報告しようと思っていた。
F山さんに電話しようと思っていた。
盤が出たら、なんて言っている場合ではなかったんだ。
どんな録音になったか、自分で聴いてから、なんて場合ではなかったんだ。



世の中にはいろんな人がいるが、
音楽業界レコード業界はまたさらに一癖も二癖も有る人が犇めいている。
そんな中、F山さんは私にとって、とても正直な人に見えた。
業界よりも、旧友との楽しいバンドの中で会っていたのが良かったのかもしれない。

悔やんでも間に合わない。
安心して話せる人とは会って話しておきたい。
自分が生きているうちに、相手が生きているうちに。

new orleans の dirty dozen brass band のアルバムfuneral for a friend (友への弔い)から、
What a friend we have in Jesus (いつくしみふかき)でも聴いて悼み、慰める。
https://www.youtube.com/watch?v=znUhQEd_h7M

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