犬小屋:す~さんの無祿(ブログ)

ゲゲゲの調布発信
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谷口ジロー『犬を飼う』

2020年07月30日 | よみものみもの
今なら、久住昌之さん原作の『孤独のグルメ』の漫画家と言えば
ピンとくる人も多いのか。
いやテレビドラマのヒットのほうが大きいのか。

とにかく、なにかどこか陰のあるような中年男を描くと、うまい。
男は自分のことをペラペラと全部しゃべったりしないもんだ的な
雰囲気が目に宿っている。
やたらに表情を付けたりしないし、
ペンタッチは淡々としている。
それで人間性を醸し出すドラマを描ききる。

そんな漫画家の作品でタイトルが『犬を飼う』ときたら、
もうなんだか結末は見えたような気がする。
犬を飼うことに結末が有る、ということが
淡々と現実的に実直に描かれるんだろうなあ
と思ったらそのとおりの作品で、
泣かす。



柴とテリアの雑種のオスというから、
そこいら中にいたようなザ・雑種犬だ。
このタムという飼い犬が14歳を過ぎて老いていくところから話は始まる。

タムの姿も、日常的、写実的に描画される。
散歩で足を引き擦ってふらついてしまう後ろ姿、
突然ちょっとだけ腰を落としてオシッコし始める様子。
ウンチの上に尻餅をつかないように腰を支える飼い主。

全て、どれだけ写実的か、私は実に現在の体験から分かる。
我が犬ジーロ君15歳と5日。
上に並べたタムの状況とよく似ている。



タムはその後、寝たきりになる。
床ずれができる。
痛がって鳴く。
食べられなくなる。
水も飲めなくなる。
点滴だけでひと月近く生きる。

ある日、息を引き取る。

その時まで、なんと頑張ることか。



散歩中に出会った老婆が、タムを諭す。
「早く死んであげなきゃだめじゃないかね。
あたしゃね、迷惑かけたくないんだよ……
でもね、なかなかね……死ねないもんだよ。
思うようにはね……
なかなかいかないもんだね。」



人は死を恐れる。
死への恐怖から、死を逃れようとする。
などと言うけれど、
そんな、怖いとかなんとかそういうこっちゃなく、
生きようというのはもともと持っている指向性ではないか。
まあ、そうでもなきゃ崩壊しちまうな。



作品には続編が有る。
『そして…猫を飼う』

生き物の死を見届ける辛さはもういやだ、
もう何も飼わないぞと決めたはずの夫婦のもとに、
今度はメス猫がやってくる。
血統書付きのペルシャ猫だが、飼い主の家庭に赤ん坊が生まれて
邪魔にされてしまったのだ。

引き取ってほどなく、その猫が妊娠していることが分かる。
たちまち、家は猫の家になる。

犬を飼うより猫のほうが負担が軽いと言うけれど、
どうだろう。
毎朝、犬と同時に早朝に目が覚めるのは楽しみだが、
毎朝、まぶたを猫の爪で引っ張り上げて起こされるのはあたしゃ御免だけどな。
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