犬小屋:す~さんの無祿(ブログ)

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生駒姫と月毛

2017年07月29日 | 書の道は
[あらすじ] 日本現代書道の源流となった、比田井天来の生まれ故郷である
中山道望月の宿を訪れた。のは、6月上旬のこと。

町の取り組みとして、何人もの書家が、商店の看板を書いている。
町を歩くと、あちこちに様々な筆跡の看板があり、目を楽しませてくれる。
すみずみまで歩き回り甲斐がある。

あちらこちらに、丸太で作った馬がある。
プランターにしつらえてある物も多い。
なんだろう。
町外れには馬事公苑があるが、何か関係あるのだろうか。

後で、町の歴史民俗資料館を訪れて、わかった。
こんな物語が伝わっている。

望月城下は昔から名馬の産地であった。
ある時、殿様に美しい女の子が生まれた。
同じ日に、月毛(つきげ:赤茶色の毛)の馬も生まれた。
縁起が良いとして、女の子は生駒姫(いこまひめ)と名付けられた。

美しく成長した姫は天皇の耳に入り、京に上がることになった。
その日以来、馬は餌を食べなくなり、痩せ衰えてしまった。
殿様が占い師に占わせたところ、馬は姫様に恋をしているのだ、と言う。
そんな馬鹿な、と思ったが、
姫も、月毛と別れたくない、と言う。

殿様は、馬に過酷な条件を与えた。
四つ(十時)の鐘から九つ(十二時)の鐘の間に、
望月の領地を三周しろ、というのだ。

馬は、弱っていたはずなのに、信じられない勢いで駆けた。
一周、二周とまわり、このままなら三周まわり切ろうという速さだ。
このままでは馬に姫をやることになってしまうので、
殿様はニセの鐘を鳴らさせた。

鐘を聞いた月毛は、走り遂げなかった無念さに、その場で倒れ
谷へ落ちて絶命してしまった。

これで諦めて都へ行くだろうと思われた姫も、
馬の死に嘆き悲しみ、そのまま剃髪し尼になってしまったという。

だーーーれも報われない物語。

他に客もいない小さな民俗資料館の展示室でおはなしを読み、
私は不覚にも涙してしまった。
どうも、この異類婚姻譚にはちょっと弱いのよね。

古くから、人間以外のものと人間が結ばれる物語は多い。
神話の中にもあるし、鶴の恩返しや浦島太郎などもそうだし、
金太郎さんも母親が山で迷ったときに精霊により身籠った子だ。

それが現実としては、外国人や渡来人との婚姻や、
ひょっとするとレイプかもしれないものや、
身分違いや婚姻外の姦通のことなのか、
喩えているものはいろいろだろう。

ただ、一般的には許されない関係、という意味で、
なんだかトランスジェンダーである私としては、
自分の立場を異類たちに重ね合わせてしまう気持ちが無くもない。
一途に駆けても無理難題と偽りに負けて死ぬしか無いのか馬は。
などと感傷的になったりして。
そんな必死に走ったこと無いけどね。

見上げれば街灯にも馬の姿が飾られている。
まるで天を駆けているようではないか。

つづく

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