[あらすじ] 日本現代書道の源流となった、比田井天来の生まれ故郷である
中山道望月の宿を訪れた。のは、6月上旬のこと。
町の取り組みとして、何人もの書家が、商店の看板を書いている。
町を歩くと、あちこちに様々な筆跡の看板があり、目を楽しませてくれる。
すみずみまで歩き回り甲斐がある。
あちらこちらに、丸太で作った馬がある。
プランターにしつらえてある物も多い。
なんだろう。
町外れには馬事公苑があるが、何か関係あるのだろうか。
後で、町の歴史民俗資料館を訪れて、わかった。
こんな物語が伝わっている。
望月城下は昔から名馬の産地であった。
ある時、殿様に美しい女の子が生まれた。
同じ日に、月毛(つきげ:赤茶色の毛)の馬も生まれた。
縁起が良いとして、女の子は生駒姫(いこまひめ)と名付けられた。
美しく成長した姫は天皇の耳に入り、京に上がることになった。
その日以来、馬は餌を食べなくなり、痩せ衰えてしまった。
殿様が占い師に占わせたところ、馬は姫様に恋をしているのだ、と言う。
そんな馬鹿な、と思ったが、
姫も、月毛と別れたくない、と言う。
殿様は、馬に過酷な条件を与えた。
四つ(十時)の鐘から九つ(十二時)の鐘の間に、
望月の領地を三周しろ、というのだ。
馬は、弱っていたはずなのに、信じられない勢いで駆けた。
一周、二周とまわり、このままなら三周まわり切ろうという速さだ。
このままでは馬に姫をやることになってしまうので、
殿様はニセの鐘を鳴らさせた。
鐘を聞いた月毛は、走り遂げなかった無念さに、その場で倒れ
谷へ落ちて絶命してしまった。
これで諦めて都へ行くだろうと思われた姫も、
馬の死に嘆き悲しみ、そのまま剃髪し尼になってしまったという。
だーーーれも報われない物語。
他に客もいない小さな民俗資料館の展示室でおはなしを読み、
私は不覚にも涙してしまった。
どうも、この異類婚姻譚にはちょっと弱いのよね。
古くから、人間以外のものと人間が結ばれる物語は多い。
神話の中にもあるし、鶴の恩返しや浦島太郎などもそうだし、
金太郎さんも母親が山で迷ったときに精霊により身籠った子だ。
それが現実としては、外国人や渡来人との婚姻や、
ひょっとするとレイプかもしれないものや、
身分違いや婚姻外の姦通のことなのか、
喩えているものはいろいろだろう。
ただ、一般的には許されない関係、という意味で、
なんだかトランスジェンダーである私としては、
自分の立場を異類たちに重ね合わせてしまう気持ちが無くもない。
一途に駆けても無理難題と偽りに負けて死ぬしか無いのか馬は。
などと感傷的になったりして。
そんな必死に走ったこと無いけどね。
見上げれば街灯にも馬の姿が飾られている。
まるで天を駆けているようではないか。
つづく
中山道望月の宿を訪れた。のは、6月上旬のこと。
町の取り組みとして、何人もの書家が、商店の看板を書いている。
町を歩くと、あちこちに様々な筆跡の看板があり、目を楽しませてくれる。
すみずみまで歩き回り甲斐がある。
あちらこちらに、丸太で作った馬がある。
プランターにしつらえてある物も多い。
なんだろう。
町外れには馬事公苑があるが、何か関係あるのだろうか。
後で、町の歴史民俗資料館を訪れて、わかった。
こんな物語が伝わっている。
望月城下は昔から名馬の産地であった。
ある時、殿様に美しい女の子が生まれた。
同じ日に、月毛(つきげ:赤茶色の毛)の馬も生まれた。
縁起が良いとして、女の子は生駒姫(いこまひめ)と名付けられた。
美しく成長した姫は天皇の耳に入り、京に上がることになった。
その日以来、馬は餌を食べなくなり、痩せ衰えてしまった。
殿様が占い師に占わせたところ、馬は姫様に恋をしているのだ、と言う。
そんな馬鹿な、と思ったが、
姫も、月毛と別れたくない、と言う。
殿様は、馬に過酷な条件を与えた。
四つ(十時)の鐘から九つ(十二時)の鐘の間に、
望月の領地を三周しろ、というのだ。
馬は、弱っていたはずなのに、信じられない勢いで駆けた。
一周、二周とまわり、このままなら三周まわり切ろうという速さだ。
このままでは馬に姫をやることになってしまうので、
殿様はニセの鐘を鳴らさせた。
鐘を聞いた月毛は、走り遂げなかった無念さに、その場で倒れ
谷へ落ちて絶命してしまった。
これで諦めて都へ行くだろうと思われた姫も、
馬の死に嘆き悲しみ、そのまま剃髪し尼になってしまったという。
だーーーれも報われない物語。
他に客もいない小さな民俗資料館の展示室でおはなしを読み、
私は不覚にも涙してしまった。
どうも、この異類婚姻譚にはちょっと弱いのよね。
古くから、人間以外のものと人間が結ばれる物語は多い。
神話の中にもあるし、鶴の恩返しや浦島太郎などもそうだし、
金太郎さんも母親が山で迷ったときに精霊により身籠った子だ。
それが現実としては、外国人や渡来人との婚姻や、
ひょっとするとレイプかもしれないものや、
身分違いや婚姻外の姦通のことなのか、
喩えているものはいろいろだろう。
ただ、一般的には許されない関係、という意味で、
なんだかトランスジェンダーである私としては、
自分の立場を異類たちに重ね合わせてしまう気持ちが無くもない。
一途に駆けても無理難題と偽りに負けて死ぬしか無いのか馬は。
などと感傷的になったりして。
そんな必死に走ったこと無いけどね。
見上げれば街灯にも馬の姿が飾られている。
まるで天を駆けているようではないか。
つづく
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