犬小屋:す~さんの無祿(ブログ)

ゲゲゲの調布発信
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ちょっとばかしおめでたく

2013年01月01日 | 毎月馬鹿
もう7、8年前のことになるか。
東京で大晦日、雪が降った。
けっこうな勢いで降り積もり、元旦は積雪の中。
雲は多かったがしかし、初日は迎えることができた。

その朝はしかも、空に七曜の星が全て見られた。
日月火水木金土、つまり太陽と月と、太陽系の惑星5つ。

惑星という名は空を迷走するかのようにうろつくから付いた名前だ。
素人目には不規則な動きをするその星々が、元旦の夜明け前の空に
勢揃いしていた。

残念ながら雲が多く、空の高いところにいる土星や木星が
雲の切れ目から時折見えるばかりであった。

こんな面白い時を一人で過ごす手は無いと、私は木戸さん(仮名)を誘った。
木戸さんの住む、多摩ニュータウンの一角には、すぐ近くに
西も東も展望の良いところがあるのを知っていた。
月が沈み、初日が昇るのがばっちり見えるはずだ。

木戸さんのマンションにお迎えに行き、ふつうに「おはよう」を言って、
歩きだした。
空はもう白みはじめている。
普段は林立したマンションでどうしても殺風景に思えるここも、
今朝は一面の雪に覆われていて、どこへ来たのだろうと不思議な気持ちになる。

丘の尾根に着くと、西側はあいにく雲が一面で、月の沈むのは見ることができなかった。
尾根には給水所があり、車道が通っている。
道沿いにしばらく行くと、小高い森が見える。
神社の階段は、まっすぐ西に向いていた。
東向きや南向きが一般的だが、ここは地形の都合でこうなったのだろうか。

雪の積もった急な階段を登りきると、小さな拝殿の周りには意外にも
数十人の人が集まって、それぞれに東の方を向いていた。
私はもっとひっそりと初日を迎えたかったので、木戸さんと連れ立って
境内の裏へつづく道を進んだ。

道は少しずつ下り、家へ帰る方向でもあった。
雪の上には誰の足跡も無い。
周りは葉の落ちた木々の森で、明るい。
もはや、そこは道だか何だか分からなくなってきた。

ふと、新潟の友人が言っていた遊びを思い出した。
雪の上にばったり倒れて、人型を残してきれいに立ち上がるのだ。
倒れ込んでも大丈夫なくらい雪は深い。
しかし、一日の雪だし、きれいに立ち上がるには雪が柔らかすぎる。

人型を残す、という目的はいつか忘れ、だんだん単に倒れるだけの遊びになってくる。
するうち、同時に倒れよう、ということで、私と木戸さんは手をつないで
「せーの!」
で雪の上に仰向けに倒れた。

何が起こったのか分からなかった。
雪は崩れて覆いかぶさってくる、バランスを失い、つないでいた手は離れる。
雪が落ちるのが止み、上下の感覚を取り戻し、木戸さんはどうしただろうと気付く。
「びっくりしたぁ」
声をあげて、ようやく立ち上がるが、言葉は静けさに飲み込まれるばかり。

どうして気付かなかったのか分からないが、さっきまでいた所より
3mくらい低い崖の下に落ちたようだ。
雪に埋もれてしまって見えないが、細い流れが有るような地形だ。
反対側も同じくらいの崖になっている。
深い溝の中にいるわけだ。

木戸さんがいない。
手を離したし、木戸さんは崖を落ちずに済んだのだろう。
「落ちちゃったよーあはは」
すぐ上にいるのだろうと思って話しかけたが、返事は無い。

名前を呼んでみたが、聞こえるのは遠くの小鳥の声ばかり。
私を置いてどこかへ行ってしまうような人ではないし、
声も出ないほどの怪我をしているのだろうか。
「動けない?今そっちへ行くよ」

崖は高く、登りようが無い。
しかたなく、溝に沿って上流の方へ行ってみることにした。
深い雪を踏み歩きながら、落ちた私が怪我も無く歩けるのに、
崖の上に残った木戸さんが声も出ないほどの怪我をするというのも
おかしな話だと思った。

まさか、でもやっぱり置いてけぼりにされたのだろうか。
そんなこと無いだろう、と自分に言い聞かせながら、歩いた。
ところどころ、崖の上へ登れそうな所では試してみたが、
やはり登りきれるものではない。

落ちたところからもかなり離れてきてしまった。
と、雪の上に何か乱れている場所がある。
雪がぐしゃっとなっていて、見ると、そこから点々と足跡が続いている。
人間のものではない。

小さめの中型犬くらいの足だろう、細く深い穴が一直線に並んでいる。
動物の足跡は2列にならないものもあるのだろうか。
とにかく私はその足跡をたどってみた。

足跡はあまり迷わずにまっすぐ進み、ある場所で、
右の斜面を駆け上がっていた。
なるほどここなら私にも登れそうだ。
四つ足のものにはかなわないが、なんとか這い上がった。

崖の上に上がってみると、件の足跡は崖沿いに戻る方向に続いていた。
私も木戸さんがいるかもしれないから、戻ることにした。
足跡を挟んで崖と反対側を歩いた。
また落ちたくはない。

溝を歩いてきた時よりも時間がかからずに落ちた場所まで戻れた。
雪がボコッと崩れているので、すぐに分かった。
地形を知ってから落ち着いて見れば分かるが、一面の雪なので
パッと見て行く手が崖なのが分かりにくい。

さて、戻った所に木戸さんの姿は無く、そして奇妙なことに
周辺には人型の雪のくぼみと、ずっと小さな凹みがいくつか残っていた。
さらにおかしなことには、靴跡は私のものだけで、
あとはさっき私がたどってきた動物の足跡がまた続いているだけであった。

このあと私は、来た方向へ引き返し、神社に戻って、そこから
木戸さんのマンションに戻ってみた。
入口のインターホンを押すと、木戸さんは怒った様子で出てきた。

「初日の出、見そびれたじゃないですか!」
ああ、でも楽しかったよね?
「ずっと待ってたんですよ!」
ごめんごめん、でも声かけても返事無かったし。
「声かけた、っていつですか?」
崖の下から。
「崖ってどこですか?何言ってんですか?」

話が分からなくなってきた。
よく確かめると、木戸さんは私がお迎えに来る約束になっていたので、
ずっと家にいたそうである。今まで。
神社も行ってないし、雪遊びもしてないし、ましてや私とはぐれてもいないと言うのだ。

すると、あれはなんだったのか?





毎月馬鹿の日です。
エイプリルフールだけじゃもの足りない。
もっとちょくちょく法螺を吹き鳴らしたい。
ついては四月一日だけじゃなくて毎月一日に法螺を吹こう、
と決めたのが11月過ぎのこと。
元旦もそれに当たる、と気付くのに時間はかかりませんでした。
正月一日から法螺を吹くことはどうなんでしょう。
でも、吹くと福を掛けて、おめでたいってことにしときましょう。ね。


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