[あらすじ] 老母がショートステイの間に、亡父の書斎を片付ける。
滑り止めワックスを掛けて、老犬ジーロが落ち着いて過ごせる場所を作るのだ。
85歳の爺さんが40年ほど過ごした部屋だ。
生きてきた時を示す物が山ほど詰まっている。
写真、手紙、ノート、原稿用紙の束、日記帳。
死んだ息子の記録、その子を産んだ前妻の物。
以前の仕事のノート、卒業証書いろいろ。
こういった、亡夫の品々を、母は捨てたがらない。
それで、私は亡父の物の手前やら上やらに自分の物を置いて、過ごしていた。
しかし、それではスペースは使いづらい。
だから、今、母の目に付かないように、留守の間に片付けをしている。
写真と日記以外は、ほとんど捨てる。
壁面を埋めている本も、古い洋書が多い。
どんどん束ねて、捨てる。
出版社からの大きな封書も捨てる。
原稿も捨てる。
※
思えば、兄が死んだ後も同様だった。
私は小学2年生だった。
兄のいなくなった部屋は、いつまでも物がそのままにしてあって、
ただ、埃がかぶらないように、机や棚にシーツが被せてあった。
陰気な部屋だった。東南側なのに。
私が兄の部屋を使えるようになったのは、いつのことだったろうか。
東側の部屋は早起きの私にとって、楽しかった。
夏の夜明け前には窓から流星群が見えた。
※
どんどん物を捨て、積み上がっている本箱を拭いては部屋の外に出した。
床が広くなった。
拭き掃除して、乾かして、ワックスを掛けて、乾かして。
気分が良い。
※
亡父の物の上層の、私の物の層に、私の卒業証書も有る。
10年前に卒業した、鍼灸専門学校のものだ。
専門学校の時の同級生が、富士山麓の町に住んでいる。
年に1~2回、一緒に山を歩く。
普段はラインでやりとりしている。
「私たち卒業して、今度の春で丸十年になりますよ。
早いもんですね。
十年も経てば一人前になると思ってたけど、まだまだだなー。」
ほんに、まったく。
「免許証、私は治療院の壁に掛けてますよ。
時々見ては初心にかえっています。って、まだまだなんだからまだ初心か。」
ははは。
そうだな、部屋が片付いたら、私も免許証は額に入れて壁に掛けようかな。
免許証って、卒業証書みたいに筒に入ってたよね。
「いえいえ、封筒で送られてきましたよ。」
すると筒は卒業証書の記憶か。
筒ではなく、封筒に入っているのか。
えっ、だとしたらあの引き出しに
あっ………
違う。
やった。
捨てた。
※
思い違いであれば良いと願いながら、
心当たりの引き出しや、心当たりの紙の束や、
念のために卒業証書の筒の中も探してみた。
しかし、無い。
丈夫な封筒を見た憶えが有る。
でも、中身をいちいち確認していたら片付かない。
ばんばん捨てる。
という作業の中の一つが、はり師きゅう師免許証だった、
に違いない。
部屋の中に見つからないということは、
無いのだ。
この手で自分で捨てちまったのだ。
※
関連法規の授業の中で、教わった記憶が有る。
教科書はどこに有るかすぐに分かる。
片付けをしたばっかりだから。
(3) 免許証(免許証明書)再交付申請
免許証(免許証明書)を破ったり、汚したり又は失ったときは、
免許証(免許証明書)の再交付を申請することができます。
破ってない、汚してない。けど、失った。はい捨てました。
再交付には3,300円かかるという。
自動車運転免許証と違って、仕事をする際に携帯せねばならないなどということは無い。
表彰状のような免状である。
提示せねばならないのは、例えば施術所を開院する時とか、どこかに就職する時くらいである。
私はどちらもする気は無いし、出張で仕事をする許可はとっくに取得してあって期限は無い。
つまり、わざわざ再交付するでもないのだ。
東洋療法研修試験財団のホームページを見てみる。
申請書を請求して、返信用の封筒を同封せよ、ということだ。
そうだ、それに私は、はり師きゅう師と2種類の免許を持っているから、
合わせて6,600円かかる。
めんどくさい上に今後必要になりそうもない紙にしては高い。
※
ダメモトで、週明けの明日、市役所のごみ対策課に電話してみるか…
いや、見つかるわけ無いか。
黙ってりゃバレやしないのだ。
紛失したら再交付しなければいけない、というのも、届け出や手続きに必要だからだ。
なんの届け出もしないつもりなのだから、いいじゃないか。
滑り止めワックスを掛けて、老犬ジーロが落ち着いて過ごせる場所を作るのだ。
85歳の爺さんが40年ほど過ごした部屋だ。
生きてきた時を示す物が山ほど詰まっている。
写真、手紙、ノート、原稿用紙の束、日記帳。
死んだ息子の記録、その子を産んだ前妻の物。
以前の仕事のノート、卒業証書いろいろ。
こういった、亡夫の品々を、母は捨てたがらない。
それで、私は亡父の物の手前やら上やらに自分の物を置いて、過ごしていた。
しかし、それではスペースは使いづらい。
だから、今、母の目に付かないように、留守の間に片付けをしている。
写真と日記以外は、ほとんど捨てる。
壁面を埋めている本も、古い洋書が多い。
どんどん束ねて、捨てる。
出版社からの大きな封書も捨てる。
原稿も捨てる。
※
思えば、兄が死んだ後も同様だった。
私は小学2年生だった。
兄のいなくなった部屋は、いつまでも物がそのままにしてあって、
ただ、埃がかぶらないように、机や棚にシーツが被せてあった。
陰気な部屋だった。東南側なのに。
私が兄の部屋を使えるようになったのは、いつのことだったろうか。
東側の部屋は早起きの私にとって、楽しかった。
夏の夜明け前には窓から流星群が見えた。
※
どんどん物を捨て、積み上がっている本箱を拭いては部屋の外に出した。
床が広くなった。
拭き掃除して、乾かして、ワックスを掛けて、乾かして。
気分が良い。
※
亡父の物の上層の、私の物の層に、私の卒業証書も有る。
10年前に卒業した、鍼灸専門学校のものだ。
専門学校の時の同級生が、富士山麓の町に住んでいる。
年に1~2回、一緒に山を歩く。
普段はラインでやりとりしている。
「私たち卒業して、今度の春で丸十年になりますよ。
早いもんですね。
十年も経てば一人前になると思ってたけど、まだまだだなー。」
ほんに、まったく。
「免許証、私は治療院の壁に掛けてますよ。
時々見ては初心にかえっています。って、まだまだなんだからまだ初心か。」
ははは。
そうだな、部屋が片付いたら、私も免許証は額に入れて壁に掛けようかな。
免許証って、卒業証書みたいに筒に入ってたよね。
「いえいえ、封筒で送られてきましたよ。」
すると筒は卒業証書の記憶か。
筒ではなく、封筒に入っているのか。
えっ、だとしたらあの引き出しに
あっ………
違う。
やった。
捨てた。
※
思い違いであれば良いと願いながら、
心当たりの引き出しや、心当たりの紙の束や、
念のために卒業証書の筒の中も探してみた。
しかし、無い。
丈夫な封筒を見た憶えが有る。
でも、中身をいちいち確認していたら片付かない。
ばんばん捨てる。
という作業の中の一つが、はり師きゅう師免許証だった、
に違いない。
部屋の中に見つからないということは、
無いのだ。
この手で自分で捨てちまったのだ。
※
関連法規の授業の中で、教わった記憶が有る。
教科書はどこに有るかすぐに分かる。
片付けをしたばっかりだから。
(3) 免許証(免許証明書)再交付申請
免許証(免許証明書)を破ったり、汚したり又は失ったときは、
免許証(免許証明書)の再交付を申請することができます。
破ってない、汚してない。けど、失った。はい捨てました。
再交付には3,300円かかるという。
自動車運転免許証と違って、仕事をする際に携帯せねばならないなどということは無い。
表彰状のような免状である。
提示せねばならないのは、例えば施術所を開院する時とか、どこかに就職する時くらいである。
私はどちらもする気は無いし、出張で仕事をする許可はとっくに取得してあって期限は無い。
つまり、わざわざ再交付するでもないのだ。
東洋療法研修試験財団のホームページを見てみる。
申請書を請求して、返信用の封筒を同封せよ、ということだ。
そうだ、それに私は、はり師きゅう師と2種類の免許を持っているから、
合わせて6,600円かかる。
めんどくさい上に今後必要になりそうもない紙にしては高い。
※
ダメモトで、週明けの明日、市役所のごみ対策課に電話してみるか…
いや、見つかるわけ無いか。
黙ってりゃバレやしないのだ。
紛失したら再交付しなければいけない、というのも、届け出や手続きに必要だからだ。
なんの届け出もしないつもりなのだから、いいじゃないか。
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