犬バター

人間は汗をかく。
水分が蒸発する時に熱が奪われるので、
汗をかくと身体が冷やされる。

頭も汗をかく。
髪の毛がぐっしょり濡れる。
髪が長かったり多かったり束ねていたりすると、
なかなか汗が乾かない。
かえって頭が蒸れる。

犬は汗をかかない。
全身に毛が生えているのだから、
汗で全身がぐっしょりになったらそりゃあたいへんだろう。

汗で体温を調節するという仕組みは、
けものの中では珍しいことなのだと、
人間として気付く。

汗をかかないとは言え、犬もやっぱり気化熱が奪われることを利用して
体温調節をしている。
それを、舌ベロでやっている。
だから、熱いと口を開いてベロを長く垂らして、
ハアハアと熱い息を吐く。

※

先日、我が犬ウーゴくんは歯石除去の手術を受けた。
犬の場合、全身麻酔が必要で、身体に負担がかかる。
それでも敢行した。
口の中に菌がウヨウヨしていることは、
肝臓や腎臓にも影響が出るからだ。

おかげで、吐く息が臭くなくなった。

※

夜はクーラーを消して、あちこちの窓を開けて寝る。
夜中の２時頃、暑くて目が覚める。
なかなか気温が下がらない。

犬もハアハアハアハアいっている。
ちょっと呼ぶとすぐ横にやって来る。
間近で
「ハアハアハアハアハアハアハアハア」。

以前だったら、吐く息が臭くてたまったものではなかっただろう。

術後は毎日、歯磨きしてやっている。
保護団体から引き取って１年半経ち、
歯磨きもさせてくれるようになったのだ。

※

連日、日中は35℃を超え、夜も25℃をくだらない。
厳しい。

「ハアハアハアハアハアハアハアハア」
よしよし。
「ハアハアハアハアハアハアハアハア」
ちょっと扇いでやる。
「ハアハアハアハアハアハアハアハア」
よしよし。
「ハアハアハアハアハアハアハアハア」
頭を撫でてやる位置が下がった。
寝転がったのだろう。
「ハアハアハアハアハアハアハアハア」
また下がった。
しんどいねえ。
「ハアハアハアハア　ハア　ア　ア　」
？
「ハア　　」
？

撫でてやろうとすると、手に触れない。
あっちへ行ったのかな。

起き上がって見てみると、
ぺしゃんこの毛皮がマットの上に乗っている。

融けたか。
何か、妙に納得がいく。

犬の体臭ばかりがむっと暑く暗い室内に漂う。



※

暑いです。
一日です。
法螺です。
嘘であって欲しいほどの暑さです。