旅にしあれば

人生の長い旅、お気に入りの歌でも口ずさみながら、
気ままに歩くとしましょうか…

姿なき怪人

2022-05-07 19:17:00 | 図書館はどこですか



「名探偵に甘美なる死を」と同時に借りたのが横溝正史少年小説コレクション第6巻
「姿なき怪人」です。コロナパンデミック後の近未来を舞台にした名探偵に~と、
昭和の高度成長期の東京を背景にした古い推理小説、しかもジュブナイルものという
極端な読み合わせに、頭の切り替えがかなり大変でした。

姿なき~には、敏腕新聞記者・三津木俊介と探偵小僧こと御子柴進くんコンビの
活躍を描く長編3作が収録されており、もっぱら中心となるのは探偵小僧御子柴くん
でしょうか。これは、いずれも当時連載されたのが雑誌「中学一年~三年コース」と
いうことで、同年代の御子柴くんを目立たせることで、読者に親近感を持たせようと
しての配慮でしょうね。対象が主に中学生ということで、内容もやや大人テイストに
シフトされ、残忍な殺人シーンもそれなりに登場します。しかし、誘拐、監禁
されながらも殺害を免れた被害者(あまりに可憐で幼気なので?)もいるなど、
微妙なさじ加減で、作者は残酷さの程度を調整していたのだろうと想像します。

最も卑劣な犯行が繰り返されるのが表題作『姿なき~』で、その分内容も大人寄り、
これがやはり、作品としては一番楽しめました。『まぼろしの怪人』は四つの
短編作を組み合わせたオムニバス風の長編で、犯人役を同じ「まぼろしの怪人」に
しなければならない関係上、事件が解決し、いったん捕まった犯人をその都度
脱獄させるなどして復活させなければならず、少々苦しい導入部の連続です。
これは、乱歩の二十面相が脱獄を繰り返すなどして何度も蘇るのを参考にしたので
しょうけど、苦し紛れの感はぬぐえないですかね。

まぼろしの怪人、姿なき怪人、そして怪盗X・Y・Zと、この巻だけでも
三人もの悪役キャラクターを誕生、登場させた横溝さん。最後まで少年探偵団に
対峙する二十面相のように敵役を固定できなかったので苦心を募らせた半面、
ある程度幅広く自由に描ける楽しみ、良さがあったのかもしれません。

コメント
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