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旅のプラズマ

これまで歩いてきた各地の、思い出深き街、懐かしき人々、心に残る言葉を書き綴る。その地の酒と食と人情に触れながら…。

『ルポ 貧困大国アメリカ』について(2)

2008-05-24 11:47:24 | 政治経済

 

 昨日のブログで、この著書を紹介しながら、医療や教育などが民営化される中で貧困が作り出され「その延長線上に戦争の問題がある」と書いた。著者の堤未果氏はその経緯をたくさんの取材を通して事実を持って解明している。
 そこには、新自由主義による競争原理のもとで、格差の拡大、貧困の増大が推し進められ、そうして作り出された貧困層は行き場がなく軍隊に流れ、それがイラク戦争を支えている実態が生々しく描出されている。高額の医療費、保険料、学費に追われ借金漬けとなった生活から逃れるために、死と健康破壊と隣り合わせの軍隊に向かう。
 その取材の中の圧巻は、「州兵としてイラク戦争を支えた日本人」(178)K氏の言動である。少し長くなるが引用を交えて紹介する。

 K氏は戦争に参加することなど全く意識せず、災害支援などに出動する達成感や、給料や学費補助に引かれて入隊する。激しい訓練(詳細を書く余裕はないが、相当に激しく、その訓練の中で人間的感覚を喪失させられた、と話している)の後にイラクに参戦、現地に行って初めて「これは戦争だ」と実感したと言う。
 「自分がイラクにいる意味を考えたか」という著者の質問に彼は答える。
 「何のためにです。マンハッタンで寿司屋や運送屋のアルバイトをしていた時と何も違いはありませんよ。機械的に体を動かして金を稼ぐ時に感情は邪魔です。それが日雇いの肉体労働であっても、戦争であっても」
 「それまで政治になんか興味がなかった連中が、イラクに行ったとたんにいのちの価値を考え始め、間違っていると叫び反戦に立ち上がる。平和な国のマスコミはそんなストーリーを期待するでしょう。でも現実はそうじゃない。貧乏人の黒人が前線に行かされるというのも正しいとはいえません。今は、黒人も白人も男も女も年寄りも若者も、みな同じです。目の前の生活に追いつめられた末に選ばれる選択肢の一つに、戦争があるというだけです」(185頁)

 この回答には慄然とした。まったくきれい事では済まされない厳しい現実を突きつけられた。それでも著者は「あなたにとって日本国憲法の存在は?」と食い下がる。(長くなったのでそのくだりは次回へ)
                                                        


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