「日本酒は世界酒になりうるか」というテーマのほかに、もう一つ「日本酒の将来とわが蔵の成長戦略」というパネルディスカッションがあった。コラムニストの勝谷誠彦産の司会で、『獺祭』の桜井博志氏、『磯自慢』の寺岡洋司氏、『十四代』の高木顕統氏、『而今』の大西唯克氏という、今をときめく人気蔵の蔵元による討論であった。
それぞれ、需要にこたえて生産を増やしていきたいとする蔵から、自分の力の範囲に留めてよい酒を提供することに重点をおくなど思いは様々であるが、人気酒を世に出した自信を秘めており、なかなか聞き応えのある討論であった。
面白かったのは、二つのパネルディスカッションに共通の話題として「日本酒は高価(たかい)か、安いか」ということが様々な観点から論じられたことだ。ある人は「高い」と主張し、ある人は「安い」という例をあげていた。
例えば、「外国に行くとハイボールが300円で広く飲まれている。価格でこれに負けない日本酒が出せないものか」という主張がある一方で、「ワインは1本何万円、何十万円というものが飲まれている。日本酒は大吟醸でも1本(4合瓶)数千円だ。日本酒は安い」という意見もあった。前提となるシテュエーションが異なるのでこのような極端な意見が出たのであろうが、庶民が一般に飲んでいる状況からすれば日本酒は高いのではないかと私は思っている。日本の通常の居酒屋でも、純米酒や純米吟醸は一合(といっても中身は7~8勺であるが)安くて7、8百円から千円する。外国では輸出経費や関税の関係からその2倍や3倍で提供されているだろう。外国での私の経験では、1本(約4合)千円でかなりのワインがあり、2千円出せば相当美味しいワインが飲めた。和食という特殊な組み合わせと、特権階級を相手にする以外、日本酒は価格では戦えないのではないか?
日本の料飲店の酒は高すぎると思っている。仕入価格の2倍以下で出してくれれば、1升3千円の純米吟醸(相当に良い酒がたくさんある!)が、正1合600円で飲める。日本酒は大いに飲まれ、それを提供する店の料理の売上は3、4倍に跳ね上がるのではないか?
それにしても面白かったのは、十四代の高木専務の「東京で自分の酒を飲もうとしたが高価すぎて飲めなかった」という話だ。この話は、3月に蔵を訪ねたとき専務に聞いて、時のブログ(3月26日付)に既に書いたエピソードであるが・・・。