今年は年初より「アラブの春」が注目を浴びたが、先進資本主義国にあっても大きな矛盾が露呈してきた。サブプライムローン、リーマンショックとアメリカ発の経済問題は収まるどころかユーロ圏に広がり、ギリシャをはじめとした財政危機へと発展した。
これらの根源と思われる問題は、ここ数十年にわたって進行していた「巨大資本への富の集積と、その対極への貧困の蓄積」であろう。日本における中流階層の崩壊―ー貧困層への転落と格差の拡大は、日本だけのことではなく先進資本主義国に共通していた。アメリカのウォール街やロンドンの中心部で、かつてない規模の抗議のデモが繰り返されている。このような現象は予想しなかったことであった。
20年前ソ連が崩壊したとき、資本主義陣営はあげて「資本主義の永遠の勝利」を謳った。それはもろくも崩れ多くの資本主義イデオローグが「転向」して資本主義の危機と政策転換を言い始めた。日本の中谷巌などにもそれがみられるが、ハーバード・ビジネス・スクールの看板教授で、競争原理主義と株主資本主義を主張し続けたマイケル・ポーターなども、株主だけではなく社会に目を向けていかなければ今後の成長は難しいと言い始めている。米クリントン政権で労働長官を務め、オバマ政権でもアドバイザーを務めたロバート・ライシュは、現在の大不況を1929年の大恐慌と同質とみて、その原因は「中間層の崩壊、没落、貧困化」としている。氏によれば、所得階層の最上位1%の層が総所得の23%を得、上位10%の層が総所得の約50%を取得している。かつて繁栄を支えた中間層は貧困層に没落し、購買力はなく当然のことながら底深い不況が続く…。
また、バンク・オブ・アメリカやUBS銀行などの経営に携わってきたジョージ・マグナスなどが、「今の世界不況の根源を知りたいなら、マルクスの『資本論』を学べ」と言い出しているし、日経新聞社も『資本論』の新訳の発行を準備していると聞いている。20年前とは様変わりの様相である。考えてみれば、人類何百万年の歴史の中で、資本主義時代などわずか数百年の歴史に過ぎない。「永遠の勝利」など軽率も甚だしいが、いずれにしても、この大矛盾を克服していく道を求める新たな挑戦を避けることはできまい。(その道がソ連や中国型でないことは当然であるが)
大先進国アメリカとイギリスの中央部で繰り広げられる何万という国民のデモはそれを象徴しており、2011年は人類史に新たな起点を記す年となるかもしれない。