「真っ先にオーダー表に名前を書き込まれる選手でいたい」と言ってきた野球人が引退を表明した。もう監督が金本知憲という名前をオーダー表に書き込む日はなくなる。
広島時代に、故障者続出に悩む監督が先発メンバーを決めかねている姿を見てきた金本は、頑丈な体を作り、それを保って、監督が迷わずオーダー表に書き込む選手になりたいと誓ってきたという。(9月13日付日経新聞スポーツ欄)
私は毎朝新聞を開きスポーツ欄をめくる際、「カープは勝っているか」と、「金本は打っているか」を最初に確かめる。前者は、いくら負け続けてもカープファンから逃れられない悲しい性(さが)によるものだが、後者は、特にここ1,2年、金本という打者に注目し続けてきたからだ。
彼は連続出場などの不抜の記録を持つが、打者としてもすごい記録を更新中だ。安打数(2532本)ではあと5本で歴代5位の福本に並び、打点(1517点)でもあと5打点であの長嶋に並ぶ(7位)。また本塁打(474本)では歴代10位で田淵と並んでおり、あと一本打てば田淵を抜いて歴代阪神選手の中で単独一位となる。私はこれらの記録は必ず達成されるものと信じて、毎日新聞を見るのを楽しみにしてきたのだ。
ところが…。引退記者会見で「最も誇りに思う記録は」と聞かれた彼は、200安打や400本塁打などについては「(感慨は)はまったくない」とつれなく、“1002打席連続無併殺打”を挙げて熱っぽく語ったという。曰く
「(打率が上がる)内野安打ならだれでも走るけど、併殺打は打率が下がる。そこで全力で走れば(打率は下がるが)併殺にならない。これはよく後輩に話している」(以上9月13日付毎日新聞スポーツ欄)
いかなる時も全力プレーを貫く…。どの監督であっても、このような選手を真っ先に先発オーダーに書き込むだろう。2003年、星野監督は「お前の野球に取り組む姿勢を、阪神勢に見せてやってくれ」と口説いて彼を迎え入れたという。(前掲日経新聞) そしてその通り、彼の姿勢に学んだ阪神はその年18年ぶりに優勝、2年後も優勝して金本はMVPに輝いた。
さすがに星野の目は高いが、それに応えた金本こそ常人とは言えない。