親しくお付き合いをいただいてきたバリトン歌手岩森栄助氏の「傘寿記念リサイタル」(9月27日、銀座王子ホール)を聴いた。
氏は、1974年青山タワーホールで第1回のリサイタルを開催、以降34年、シューベルト、レーヴェ、ヴォルフ、ブラームス、フランス歌曲、ロシア歌曲、そして日本歌曲とリサイタルを重ね、今回が24回になるという。
今回は、日本歌曲だけ18曲の、実にさっぱりとしたリサイタルであった。
驚いたのは、80歳になっても声の衰えのないことだ。しかも難しい日本歌曲に挑戦するところは、まさに芸術家としての執念を見る思いがした。
もちろん、以前に比べてやや言葉が聞き取りにくくなってはいるが、声の艶にはほとんど衰えがない。東京藝術大学を卒業後、長く研鑽を重ね、現在も名古屋芸術大学名誉教授の地位にある人間には、その道において衰えるということは許されないのかもしれない。
その精進に心から敬意を表しつつ聴いたリサイタルであった。
アンコールも3曲歌った。その最後の曲は石川啄木の「初恋」・・・、氏は、この得意とする歌を実に気持ちよく歌った。私はそれを聴きながら、「この歌を歌えるだけで、歌手になる意義があるのではないか・・・」とうらやましく思った。
80歳の歌手は、この曲にどのような人生を重ねてきたのであろうか?
砂山の砂に腹這(はらば)い
初恋の
いたみを遠くおもい出(い)づる日
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