◆沖縄語は候文
尊敬の為の接頭語と接尾
「候文」という言葉があるが、現代ではほぼ死語になりかけており、筆者自身候文を書いたことも候文の手紙を受け取った事も無い。
「候文」とは、辞書の引用によると≪文末に丁寧語の「候」を使う文語体の文章。書簡や公用文に用いられた。鎌倉時代に始まり、江戸時代にその書き方が定まった。≫ということになる。
ところが我が沖縄語では「候文」が鎌倉や江戸の時をを超えて、現代でもごく普通に使われている。
「いらっしゃい」や「歓迎」を意味する言葉に「メンソーレー」という沖縄方言は沖縄ブームに乗って今ではかなり認知度が高まっている。
・・が、「メンソーレー、メンソレータム」と言ったギャグに使われるように、日本語とは異質な方言として捉えられている。
この「メンソーレ」こそ、鎌倉時代に始まり江戸時代に完成した、古雅の趣溢れる「候文」そのものであり、「メンソレータム」などの「イフー(異風)な」単語とは出自が異なるのだ。(イフーナとは沖縄方言で「奇妙な」の意)
その前に先ほどから「老人ハラスメント」の「たんめー、はーめー」はどうなった、と言う声が気になってしょうがない。
けして忘れ去ったわけではないので暫くの我慢でお付き合いを願いたい。
相手に尊敬を表す「接尾語・接頭語」に次のようなものがある。
前、御、主、・・・これらを全部まとめて使いオマケに「様」までサービスしたのが、午前さま、・・じゃない、御前様。
尊敬語も使い慣れると、御前様→おまえさん、と変化してグッと庶民的にもなる。
で、メンソーレは?
ハイ、・・・「前に候」→前にそうらえ→めーにそおらえ→めーにそーれー→メンソーレー
・・と、目出度く「候文」メンソーレの誕生となる。
■「老人ハラスメント語・その一・・・・ウスメー(薄命?)」、おじいさん(平民)」
主(しゅ)という尊敬語の前後に御(お)と前(まえ)を付けて「御主前」これがおじいさんの尊敬語。
御主前が訛って行く過程: おしゅまえ→おすめー(→O→U)→うすめー
「うすめー」は決して「薄命」では無く老人を尊敬する「御主前」の沖縄訛りであった。
■「老人ハラスメント語・そのニ・・・・タンメー(短命?)」、おじいさん(士族)」
士族のおじいさんはおだてて「殿」と祭り上げよう。
そして尊敬の接尾語「前」を付けると「殿前」。
例によってこれが訛って行く過程は簡単だ。
殿前: とのまえ→とのめー→とんめー→たんめー
やはり「たんめー」も「短命」では無く「殿前」と言う尊敬語で一件落着。
■「老人ハラスメント語・その三
①「はーめー」→おばあさん、祖母(平民の)
②「うんめー」→おばあさん、祖母(士族の)
③「はんしー」→おばあさん。那覇で士族の」→おばあさん、那覇で士族の祖母・老婆
残りは女性に対する「ハラスメント」なので特に慎重を期すべきだが、沖縄ではテーゲー(大概)・大雑把を尊ぶのでマトメテ説明しよう。
女性の場合は全て「母」というキーワードが入る。
各々の「日本語由来」の言葉を書きおくので今までの類推で理解できるであろう。
「はーめー」→「母前」(ははまえ)→「はーめー」
「うんめー」→「母前」(おもまえ)ここでの母は母屋(おもや)の母で「おも」→「うも」→「んも」→「んめー」→「うんめー」
「はんしー」→「母主」(ははぬし)→「ははんし」→「はんしー」
かくして老人苛めの沖縄語と思われた年寄りを表す沖縄方言は、男性は「主」や「殿」と祭り上げ、女性は「母」と尊敬するいかにも沖縄らしい老人思いの言葉であることがお判り頂けただろうか。
最後に沖縄方言の事を方言では「島言葉・シマ・クトゥバ」とも「沖縄言葉・ウチナー・クトゥバ」とも言う。
シマクトゥバはもはや説明不要だろうが、ウチナー・クトゥバは少し説明を要する。
おきなわ→OKINAWA→UCHINAWA→UCHINAA→「うちなー」
OがUに変わるの判るとしてK→CHと変わるのが子音の法則。
沖縄料理で「いなむどぅち」と言う豚肉を白味噌仕立ての豚汁のような料理がある。
この料理は元々猪の肉だったの豚肉で代用されるようになった。
豚肉は猪肉ではない。 そこで「猪もどき」となる。
「猪もどき」INAMODOKI→INAMUDUCHI→いなむどぅち
空手などの「手さばき」は勿論「ティサバチ」と言う。 ここまで来たらもう説明は不要だろう。
もう一つオマケに子音の法則: R→消音
例: 森→MORI→MU×I→「むい」は森の立派な方言
さー、貴方も今日から片言なら沖縄語がしゃべれる筈。
こうして見ると音声として耳に聞こえる沖縄語は県外の人達にとってはイフーナムン(異風な物→方言で奇妙な物)に思えても、ルーツを辿れば日本語の優雅な古語にたどり着く事が判る。
これを契機に沖縄語の世界へ「前に候」、・・・じゃない、「メンソーレー」。