●定数と報酬の削減が議会改革なのか?
全国各地に広がる地方議員半減の嵐
週間ダイヤモンド 相川俊英の地方自治“腰砕け”通信記 【第7回】 2010年7月6日
二元代表制をとる日本の地方自治において、議会の役割は大きい。議会は自治体の最終意思決定の場であり、執行機関をチェックする機能を持つ、いわば地方自治の根幹をなす存在である。
だが、その重要性に相応しい働きをしている地方議会は残念ながら、皆無に近い。税金のムダ使いや行政の暴走を防ぐどころか、議会そのものが民意から遊離し、ムダ使いの温床となっているケースが多い。議員はお手盛りで決めた高額報酬とさまざまな特典を平然と享受し、税金を貪り食う存在になり下がっている。
本来の役割を果たさずにいる議会や議員に対し、住民は不信感や怒り、苛立ちを募らせている。なかには二元代表制に問題があるとし、議会不要論を主張する人さえいる。財政逼迫などにより様々な痛みを強いられる住民を尻目に、自らの厚遇に一切メスを入れようとしない議員への怒りもある(もっとも、そうした議員たちも勝手に議員の座についたのではなく、住民に選ばれた人達である)。
こうした地方議会の実態を憂い、議会改革を叫ぶ声が全国各地で沸き上がっている。きわめて当然の動きと言える。しかし、議会改革の議論がこのところ、本質からずれたものになりつつある。議論が議員の定数と報酬の削減に偏り過ぎており、問題が矮小化されている感がある。議会改革と定数報酬削減はイコールではない。逆にいうと、定数と報酬を削減するだけでは、議会改革とは言えない。
そもそも議会や議員が担う役割とは何なのか。その役割を果たす上でネックとなっている点は何なのか。これらを踏まえた上で、改善すべき点を正していくのが、本来の改革である。
定数と報酬は改革の部分でしかなく、削減数値まずありきは少々乱暴だ。
にもかかわらず、議員定数と報酬の削減にばかり注目が集まるようになった。発信力のある首長たちの行動によるところが大きい。議員の定数と報酬の半減を掲げ、議会と対立している名古屋市の河村たかし市長である。
5月30日に投開票された山口県防府市長選で、市議定数半減を公約に掲げた現職が4選を果たした。松浦正人氏である。松浦市長は6月議会に公約通り、現在の市議定数27を13に半減する条例改正案を提出し、同時に市長の給与半減と退職金廃止も提案した。「合併に頼らない市政運営を貫くためにも聖域なき行政改革が必要」と主張している。
定数半減案の審議は7月8日から始まるが、防府市の大半の議員は反対の姿勢だという。このため、松浦市長は否決された場合、「議会解散を求める住民運動を起こす」との考えを明らかにしている。議会リコールの署名集めの準備を進める名古屋市の河村市長の手法を参考にしているようだ。
防府市の松浦市長が定数半減案を議会に提出した同じ6月25日、静岡県沼津市議会で定数削減案が可決された。次回の市議選から議員定数を34から32に削減することになった。
わずか2議席の削減だが、沼津市では議員定数をめぐって紛糾が続いていた。
定数削減議論をリードしてきたのは、市の自治会連合会だ。議員定数を21に削減することを求め、直接請求の署名活動に乗り出した。そして、2月定例会に議案として提出にこぎつけたが、議会側は全会一致でこれを否決。かわりに28人案と32人案のふたつの案が議員発議で提案された。2案の決着は6月議会に持ち越され、投票の結果、32案が可決された。こうした議員らの動きに対し、自治会連合会は議会リコールを検討している。
機能していない議会への苛立ちが、定数や報酬の削減を求める住民運動につながっているといえる。確かに、実際の働きぶりと比べ、議員報酬は高すぎる。財政悪化もあり、当事者以外に報酬削減に異を唱える人はほとんどいないと思われる。それでは、定数の削減はどうだろうか。民意をきちんと吸い上げる手立てを整備しておかないと、思わぬしっぺ返しにあうのではないか。お粗末な議会ばかりだが、それでも役割のひとつとして首長の暴走を抑えることが求められている。そして、議会が最も迅速に首長の暴走を抑えられる存在だ。
また、極端な定数削減は多様な民意を代表しにくくし、少数意見の切り捨てにつながりかねない。議論の参加者は多い方がよい。もちろん、自らの考えを持った自立した個人であることが大前提だ。定数の大幅削減は、絶大な人気を誇る首長が登場した場合、「民主的な独裁」への道をも開きかねない。定数削減にばかりスポットをあてた議会改革論は、大きな危うさをはらんでいるのではないか。 |