監査役会設置会社の会計監査人が欠けた場合又は定款で定めた会計監査人の員数が欠けた場合において,遅滞なく会計監査人が選任されないときは,監査役会は,一時会計監査人の職務を行うべき者を選任しなければならない(会社法第346条第4項,第6項)。
この場合の選任手続について,見解が分かれている。
○ 監査役の全員の同意
江頭憲治郎「株式会社法(第3版)」(有斐閣)558頁,「逐条解説 会社法第4巻 機関1」(中央経済社)354頁(奥島孝康)では,監査役の全員の同意によると述べられている。
○ 監査役会の決議
松井信憲「商業登記ハンドブック(第2版)」472頁,相澤哲編著「Q&A会社法の実務論点20講」(金融財政事情研究会)93頁,鈴木龍介編「商業登記全書第5巻 株式会社の機関」(中央経済社)287頁)では,監査役会の決議により行うものとされている。
監査役会設置会社における監査役会の運営に関しては,いわゆる書面決議は認められておらず(会社法施行規則第109条第4項参照),会議を開催し,監査役の過半数をもって決議を行う(会社法第395条第1項)のが原則である。
そして,例外的に,監査役の全員の同意を要するものとして,会計監査人の解任(会社法第340条第2項,第4項),取締役の会社に対する責任の一部免除等の議案の提出(会社法第425条第3項等)等の規定が置かれており,これらの場合には,監査役会の決議は要しないものとされている(相澤哲編著「立案担当者による新・会社法の解説」(商事法務)114頁,上掲江頭493頁)。
「一時会計監査人の職務を行うべき者」の選任については,会計監査人の解任に関する規定のように「監査役の全員の同意」によって行わなければならない旨の規定はなく,単に「監査役会は・・・・選任しなければならない」と規定されているのみであるから,原則どおり,「監査役会の決議」によって選任することとなる。よって,監査役の頭数の過半数の賛成があればよい。
なお,この点に関しては,平成17年改正前商法下の江頭憲治郎「株式会社・有限会社法(第4版)」(有斐閣)には言及がなく,会社法下の「株式会社法」(同)から「全員の同意による」旨の記述が加わっている。会社法施行前は,あまり問題とされておらず,会社法施行直後の中央青山監査法人の業務停止問題で大きくクローズアップされたためであろう。
【その他の参考文献】
太田洋「監査法人への業務停止命令に伴う実務上の諸問題」旬刊商事法務2006年6月5日号