株式会社の権利能力は,法令の範囲内で,かつ,定款所定の目的によって制限されている(民法第34条)。法令の範囲内であれば,定款所定の目的を変更することは自由である。
民法
(法人の能力)
第34条 法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う。
そして,清算株式会社は,清算の目的の範囲内でのみ権利を有し,義務を負う(会社法第476条)。
会社法
(清算株式会社の能力)
第476条 前条の規定により清算をする株式会社(以下「清算株式会社」という。)は、清算の目的の範囲内において、清算が結了するまではなお存続するものとみなす。
この規定によって,定款所定の目的を変更することが禁止されるのかが問題となっているようである。新たな事業目的を追加する変更は,もちろん背理であるが,例えば,解散の決議と同時の定款変更により,「会社法第2編第9章の定めるところにより清算することを目的とする。」と変更する等である。
清算株式会社の権利能力が,清算の目的の範囲内であることから,定款所定の目的による制限は空文化すると解するのであれば,定款所定の目的を変更することは意味がなく,変更の登記をすることは不可,ということになるであろう。
しかし,そうであれば,登記された「目的」は,解散の登記の際に職権抹消をすべきではないだろうか。
他方,民法第34条の規定により,清算株式会社の権利能力が法令の範囲内(=清算の目的の範囲内)で,かつ,定款所定の目的によって制限することが可能であると解するのであれば,定款所定の目的を変更することは可能であり,変更の登記も受理されるべきということになろう。
上記「会社法第2編第9章の定めるところにより清算することを目的とする。」は,正に会社法の規定どおりである。だから,目的変更は,無意味と考えるのか,実態と合致しており,公示の観点から望ましいと考えるのかである。後者に分があるように思うが。
もちろん,登録免許税というコストを要する話であるし,敢えて目的変更を選択する株式会社も稀であるとは思うが,公示を重視して,実体どおりの登記をしたいという株式会社のニーズを,登記所が封殺すべきでないと考える。
結論としては,清算株式会社が目的を変更することの可否を論じるよりも,そもそも論として,解散の登記の際に,登記された「目的」を職権抹消をすべきである,と考える。
清算株式会社の「資本金の額」もそうであるが,「抜け殻」状態であるのであれば,職権抹消をするように法改正をすべきであろう。
cf.
平成25年1月10日付け「清算株式会社における募集株式の発行等」