司法書士内藤卓のLEAGALBLOG

会社法及び商業登記に関する話題を中心に,消費者問題,司法書士,京都に関する話題等々を取り上げています。

「任期の起算点『選任後』の解釈」

2020-05-30 15:41:29 | 会社法(改正商法等)
 月刊登記情報2020年6月号に,神﨑満治郎ほか「任期の起算点『選任後』の解釈」がある。

 会社法第336条第1項の「選任後」の「選任」は,選任決議の時点であると解されている。

 したがって,3月決算の株式会社において,3月中の臨時株主総会の決議によって選任され,4月1日に就任した監査役の任期が,1年短くなってしまうことが不合理であるとして,定款規定の「選任後」を「選任の効力発生後」と解することにより,その不合理(?)を解消することはできないか,という問題意識に基づく論考である。 

会社法
 (監査役の任期)
第336条 監査役の任期は、選任後四年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。
2 前項の規定は、公開会社でない株式会社において、定款によって、同項の任期を選任後十年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することを妨げない。
3 第一項の規定は、定款によって、任期の満了前に退任した監査役の補欠として選任された監査役の任期を退任した監査役の任期の満了する時までとすることを妨げない。
4 前三項の規定にかかわらず、次に掲げる定款の変更をした場合には、監査役の任期は、当該定款の変更の効力が生じた時に満了する。
 一 監査役を置く旨の定款の定めを廃止する定款の変更
 二 監査等委員会又は指名委員会等を置く旨の定款の変更
 三 監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めを廃止する定款の変更
 四 その発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定款の定めを廃止する定款の変更


 問題意識としては,次の記事の私見のとおりであるのだが。

cf. 平成20年2月14日付け「役員の任期の起算点はいつか?」


 しかし,そもそも会社の意向は,「4月1日から就任することにしたい」ということであって,「4月1日から任期を起算したい」というものではないと思われる。

 また,公開会社でない株式会社にあっては,会社法第336条第2項の規定により任期を10年に伸長することができるとはいえ,現行の定款規定が「選任後4年」であるにもかかわらず,「選任後」を「選任の効力発生後」と解することは,会社法第336条第1項違反の疑義が生じてしまうことになる。

 意図することを実現したいのあれば,公開会社でない株式会社にあっては,会社法第336条第2項の規定に基づき,定款の規定を「就任後4年」に変更すればよいのではないか。

 公開会社にあっては,「就任後4年」は,会社法第336条第1項違反の問題が生ずるので,もちろん不可である。


 定款の規定を「株主総会が定める任期の始期後」とすることによっても,意図を実現することができようか。

cf. 平成25年2月24日付け「取締役の就任の「時点」」
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調停延期は「死活問題」

2020-05-30 13:53:58 | 家事事件(成年後見等)
北海道新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/f98b52a1ea7138d5a1ba143ee352d522539e0232

「新型コロナウイルスの感染防止のため、道内の裁判日程が延期や取り消しとなる中、別居中の夫婦が家庭裁判所で生活費の分担などを話し合う調停も滞っている」(上掲記事)

 家裁の期日も入り始めたようであるが,当分は,感染防止に配慮して慎重に進められるので,スローペースであると思われる。

 事情によるとは思うが,ADRを含め,裁判外の話合いも要検討であろう。
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株式会社と取締役の関係は,委任に関する規定に従う

2020-05-30 12:51:26 | 会社法(改正商法等)
 旬刊商事法務昭和31年8月15日号に,「取締役の就任と退任をめぐる諸問題~登記を中心として~」(阿川清道法務省民事局民事第四課長)がある。

・ 明治44年の商法改正により,「会社と取締役の関係は委任の規定に従う」旨が明定された(旧商法第164条第2項)。

・ 商法は,民法において考えられているような一般の単純な委任関係とは趣を異にする特殊の関係について委任の規定を適用するため,かかる法条を設けたものであると思われる。


 現行規定は,「株式会社と役員及び会計監査人との関係は,委任に関する規定に従う」(会社法第330条)である。

 今般の「当初の株主総会における決議(会社法第329条第1項)により,当初の株主総会の時点において改選期にある役員等の任期が満了するものとする」ことの可否の問題について,私は,難しいと考えている。

 ところで,頭の体操として考えると,「会社と取締役の関係は委任の規定に従う」ことにより,民法の委任の規定が適用されるのであれば,例えば,合意解除もあり得るのではないか。

 取締役の退任(委任関係の解消)について,会社と取締役の間に合意が成立する場合,通常は,取締役が辞任届を提出することで,辞任による退任の登記がされている。

 しかし,辞任でもなく,解任でもなく,「合意により委任関係を解消させる」ことも不可能ではないと思われる。

 この場合,「会社法又は定款で定まる任期を短縮し,ある一定の日に任期を満了させる」旨の合意をすることになろう。

 継続会方式の場合に,「当初の株主総会の時点において改選期にある役員等の任期が満了するものとする」というのは,継続会の終結時に任期満了するものとする見解によれば,法的には任期の短縮ではあるが,本来の任期は,定時株主総会として開催されるはずであった当初の株主総会の終了の時点であったのであるから,その任期が継続会の終結の時まで伸長されるところ,これを是とせず,本来の任期満了時点において委任関係を解消させようというものである。したがって,取締役等の地位の保障の観点からも,それほど不都合があるともいえないと思われる。

 仮に,この理により,「当初の株主総会の時点において改選期にある役員等の任期が満了するものとする」ことが認められ得るとして,これを証する添付書面は,どのような内容にすべきか。

 株式会社と取締役との合意証書についてはもちろんOKであろうが,当初の株主総会の議事録に「当初の株主総会における決議(会社法第329条第1項)により,当初の株主総会の時点において改選期にある役員等の任期が満了するものとする」旨の記載があり,かつ,「当該役員等が株主総会の席上においてこれを諾とする旨を述べた」旨の記載がある(又は別に役員等の同意書が添付されている。)のであれば,受容され得るのではないだろうか。

 登記実務においては,株主等の権利保障期間に関して,いわゆる「期間短縮の同意書」を添付することで,登記の申請が受理される取扱いがあり,これに類するものである。


 上記は,あくまで頭の体操であって,コロナ特例ということで,仮に救済する理屈が成り立つとすれば,これくらいしか考えられないという試論である。

 継続会かつ6月改選に拘るのであれば,本来は,同じ総会での定款変更(任期に関する規定の変更)を工夫することにより,対応すべきケースであろう。

 会社法及び商業登記に関する規律は,杓子定規のように映るのかもしれないが,永年にわたり精緻な規律に従ってきたからこそ,商業登記は,会社に関する公示制度として信頼されるものとなっているのである。ユーザー・フレンドリーは,耳障りがよい言葉ではあるが,株式会社は,会社法の規律に従って運営されているからこそ,信用の対象となっているはずである。例え,意に沿わぬ規律であり,これに従うことにより負担が増加する場合であるとしても,尊重すべき規律は尊重して,株主総会の運営がされることが望まれる。
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「取締役の就任承諾書は株主総会議事録の記載を援用する」の起源

2020-05-30 11:28:15 | 会社法(改正商法等)
 旬刊商事法務昭和31年8月15日号に,「取締役の就任と退任をめぐる諸問題~登記を中心として~」(阿川清道法務省民事局民事第四課長)がある。

 諸々興味深いが,標記の件について,抜き書き。

・ 取締役の就任の時期につき,「選任時点」と「選任後の就任承諾時点」について争いがあった。大審院は,選任時点説。登記実務は,大正初期から,後者の「就任承諾の日」を就任日として登記する取扱いを明確にした。

・ 就任承諾書は,法律上,添付書面とされていなかった。

・ 設立の登記を申請する者は,総取締役と総監査役であった(したがって,就任承諾書は不要の理。)。

・ 変更の登記を申請する者は,総取締役であった(したがって,就任承諾書は不要の理。監査役については問題となった。)。

・ 非訟事件手続法の改正により,昭和26年7月1日以降,変更の登記の申請は,代表取締役がすることになった。この際,変更の登記の申請書には,株主総会議事録その他登記の事由を証する書面を添付しなければならないものとされた。

・ 同改正後,取締役等の変更の登記の申請において,株主総会議事録中に取締役等に選任された者が当該株主総会において就任を承諾する旨の記載がないときは,就任承諾書の添付を要求する取扱いがされることとなった。


 その後,商業登記法(昭和38年法律第125号。昭和39年4月1日施行)により,設立の登記の申請書については同法第80条第8号,取締役等の変更の登記の申請書については同法第81条第1項の規定により,「就任を承諾したことを証する書面」を添附しなければならないものとされた。


 いかにも登記実務らしい変遷である。
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