今年のノーベル経済学賞は、最低賃金の研究をした欧米の経済学者に与えられました。
自然実験というメソッドで、最低賃金を上げても雇用に影響しないということを証明しました。
コロナ禍の中、タイムリーな研究でした。
SDGs、ESG、カーボンニュートラルなど国際的に地球環境が脚光を浴びている昨今です。
小職の師匠から勧められた本。
ノーベル経済学賞に最も近いと言われていた宇沢弘文博士の本を初めて読んでみました。
宇沢弘文と言う名前は知っていましたが、白い髭のおじいさんとイメージしかありませんでした(笑)。
また、経済学者の本ですので数式や数学で難解な本だと思っていましたが、口語体で書かれた実に爽やかな一冊でした。
社会的共通資本
宇沢弘文著 岩波文庫 840円+税
宇沢弘文博士(1928年~2014年)が、2000年に書かれた新書。
専攻は経済学ですが、もともとは東大数学科の出身で数学者です。
今年の新書ベストセラーになった斎藤幸平さんの「人新世の資本論」にも宇沢博士の「社会的共通資本」が登場します。
社会的共通資本は、資本主義や社会主義の限界が見えてきた中で出てきた制度主義に立脚したコンセプト。
自然環境、社会的インフラストラクチャー、制度資本の3つから構成されます。
自然環境・・・大気、森林、河川、水、土壌など
社会的インフラストラクチャー・・・道路、交通機関、上下水道、電力、ガスなど
制度資本・・・教育、医療、司法、金融制度など
著者は、社会的共通資本の目的がうまく達成でき、持続的な経済発展を可能するためのコンセプトを提言しています。
今から21年前に時代を先取って書かれた格調高いアカデミックな一冊です。
目次
序章 豊かな社会とは
第1章 社会的共通資本の考え方
第2章 農業と農村
第3章 都市を考える
第4章 学校教育を考える
第5章 社会的共通資本としての医療
第6章 社会的共通資本としての金融制度
第7章 地球環境
面白かったのが第3章の「都市を考える」。
戦前、日本の都市には38%しか住んでいなかったのが、現在では人口の80%が住んでいます。
当然にたくさんの課題が噴出します。
博士は、ル・コルビュジエの提唱した「輝ける都市」を無機質と否定し、「最適都市」やジェイコブズの都市4つの条件という文脈で展開していきます。
同時に都市の車社会化にも疑義を投げかけ、研究を続けられた「自動車の社会的費用」の面からカウンターパンチを当てます。
思わず膝を叩くページが多々あります。
そして、同書のメインディッシュは、第7章の「地球環境」。
今では普通に使われている「持続可能性」「地球温暖化」「炭素税」といった言葉が頻繁に出てきます。
同書が書かれた21年前には、SDGs、ESG、カーボンニュートラルといった言葉もありませんでした。
経済学の世界で、地球環境を大々的に取り上げたのは宇沢博士ではないでしょうか?
ノーベル経済学賞に一番近い日本人と言われた理由も何となく分かります。
宇沢博士は、序章の中で「ゆたかな社会」を定義されています。
ゆたかな社会・・・5つの条件
1 美しい、ゆたかな自然環境が安定的、持続的に維持されている。
2 快適で、清潔な生活を営むことができるような住居と生活的、文化的環境が用意されている。
3 すべての子どもたちが、それぞれもっている多様な資質と能力をできるだけ伸ばし、発展させ、調和のとれた社会的人間として成長しうる学校教育制度が用意されている。
4 疾病、傷害にさいして、そのときどきにおける最高水準の医療サービスを受けることができる。
5 さまざまな希少資源が、以上の目的を達成するためにもっと効率的、かつ衡平に配分されるような経済的、社会的制度が整備されている。
「社会的共通資本」という観点から見ると、わが国も努力してきたとは思いますが、まだまだ十分とは言えません。
コロナ対策や経済政策、地球環境問題、少子高齢化など課題は山積しています。
視点、視座を変え、視野を広げてくれるお薦めの一冊です。