新型コロナウィルスの感染拡大は、生活や社会のみならず、ビジネスの世界も大きく変えました。
特に、飲食、旅行、サービス、宿泊などの業種業態は壊滅的な打撃を受けています。
しかも、出口が見えない・・・延長され続ける緊急事態宣言、まん延防止措置・・・。
エビデンスのない暗黒の世界です。
でも、会社や個人は、生き残るため、存続するために手を打っていかなければなりません。
withコロナの時代・・・今までの経営理論やマーケティング、戦略論も、ほとんど役に立ちません。
思考の整理をするためのビジネス・フレームワークも、しょせん机上の空論です。
今週も、後輩から相談を受けたのですが、その中にあったビジネス・フレームワーク。
PEST分析、3C分析、クロスSWOT分析、5F、4P・・・フレームワークのオンパレードです(笑)。
優秀な彼だけに、キーワードもからめつつ、しっかりとまとめられています。
フレームワークは、偏差値の高い人が作ると、ほぼ同じような表現、切り口になります。
正解ありきで、予定調和に向けて作成しているのだと思います。
つまり、それだけでは差異化が非常に難しいのです。
「金づちを持つと、すべてのものが釘に見える」・・・
ビジネススクールや大学院などで、よく言われるフレーズです。
中小企業診断士の実務実習などでも、自分の知っているフレームワークをすべてぶち込んで提案書を作るという若手が存在しています。
3C、5F、7SからSTP+4P、PESTやSWOTといったアルファベットまで、ご丁寧に表のタイトルに入れていたりします。
それを読んだ中小企業の社長さんは、だいたい目が点になり、企画提案書を閉じてしまいます。
ビジネス・フレームワークやロジカルシンキング、クリティカルシンキングも大切です。
でも、それだけでは新しい方向、ベクトルは見出しにくい・・・レッドオーシャンまっしぐら・・・。
異なる切り口、つまりクリエイティブシンキングや独自性の部分で勝敗が決することになります。
イノベーションを起こすのは、「若モノ」「ヨソモノ」「バカモノ」と言われています。
いわゆるダイバーシティ、多様性からのアプローチがなければ、未来は描けないのです。
「失われた30年」・・・日本の企業の国際競争力は低下を続け、今では国自体が先進国とは言えないような国際的なポジションに落ちています。
「イノベーションのジレンマ」に陥った日本という国・・・ポジションチェンジしなければ多分、明日はありません。
今回は、山田英夫さん著「ビジネス・フレームワークの落とし穴」、嶋田毅さん著「ダークサイド オブ MBAコンセプト」を紹介させていただきます。
ビジネス・フレームワークの落とし穴
山田英夫著 光文社新書 780円+税
著者は、早稲田大学ビジネススクールの教授。
社外監査役などを務めている実務家です。
目次
1.経営戦略・・・PEST分析、SWOT分析、3C、5F、PPM、7S・・・
2.マーケティング・・・STP+4P、AIDMA・・・
3.組織・人事・・・7S、コアコンピタンス、VRIO、PM・・・
4.財務、M&A・・・NPV、PMI・・・
今回の一冊は、ビジネス・フレームワークの落とし穴を面白可笑しく指摘するフレームワークの「悪魔の辞典」のような構成になっています。
著者の鋭い切り口に脱帽です。
PEST分析・・・企画書の冒頭を飾る、誰も読まない4つの箱
今更言われたくない、枕詞というか、お決まりの一般論で本当に退屈なパートですね。
SWOT分析・・・やりたい人の主観を、客観的に見せるためのフレームワーク
「それって本当に強みなの?」・・・強みと弱みが混合・・・さらに機会と脅威が逆になっているSWOTをよく見かけます。
クロスSWOT分析・・・戦略が自動的に作れる魔法のマトリックス・・・笑
3C分析・・・カンパニー偏重の会社は、外部の変兆にうとい
5F・・・何を既存業界ととらえるかが難問・・・そのとおりだと思います
シナジー・・・M&A前に頻出し、M&A後に聞かれなくなるもの・・・大爆笑 M&Aの成功確率は10%と言われています
ブルーオーシャン・・・事後説明用のフレームワークから脱却模索中
スーパードライの大ヒットだって後付けなんですかねえ
対数グラフ・・・文科系社員を丸太にするグラフ・・・胸が痛いです
PPM・・・作成者の意図がふんだんに織り込まれたマトリックス
問題児、金の生る木・・・それらしく見えます
ビジネスモデルキャンバス・・・ポストイットの販促用キット
座布団3枚!
AIDMA・・・インターネットがなかった時代の牧歌的購入ステップ
今では、サーチが入ってきます
7S・・・すべて覚えている人は、記憶力が抜群か、無駄に覚えている人
ハードとソフトの境界線がよく分かりません。
MECEになっていないし・・・。
コアコンピタンス・・・自分では分からない自社の強み
コンプライアンス・・・内容や効果よりも、実施したことが重要なコンプライアンス研修
コンプラやハラスメント防止、個人情報保護・・・アリバイ作りが大切です。
NPV・・・NPVわずかにマイナスの企画書は何故ないか?・・・賢い人は、無理やり数字を作り出します。
ビッグデータ・・・無駄な解析をしても、費用がかからなくなったということ
ウィンウィン・・・自社の方が得をしている時に相手を誘う枕詞
ウイスキーのグラスを傾けながら、チビリチビリやると、至福のひと時を味わえることうけあいです。
パワポや横文字を駆使してスライドショーで食べている英語のしゃべれない怪しいコンサルタントや若き診断士に読んでいただきたい一冊です。
MBAキーワードシリーズを出版している嶋田教授・・・大好きなコンサルタントです。
フレームワークや思考法に潜む「落とし穴」「副作用」「裏技」を面白おかしく解説した一冊です。
嶋田さんの著作では、ちょっと毛色の違うMBA本です。
ダークサイド オブ MBAコンセプト
グロービス著 嶋田毅執筆 東洋経済新報社刊 1500円+税
仕事の世界には優秀なビジネスパースンがたくさんいるのですが、中には残念な人も多々存在しています。
それはなぜなのか?をロジカルに説明しているのが同書とも言えます。
嶋田さんにしては、かなりの辛口解説・・・悪魔の辞典を読むような爽快感があります。
目次
Chapter1 論理思考のダークサイド
Chapter2 戦略・マーケティングのダークサイド
Chapter3 アカウンティング・ファイナンスダークサイド
Chapter4 組織・リーダーシップのダークサイド
Chapter5 創造・変革のダークサイド
帯には、「裏側を知らずに、現場では勝てない」・・・
「ダークサイドを知らずに、リアルでは勝てない」とあります。
なるほど、そのとおりです。
面白かったところを、ちょっとご紹介させていただきます。
ロジカルシンキング・・・論理で人が動くと勘違いすると反発を招くことも・・・ロジカル馬鹿の悲劇
ランキング・・・容易に作成者の都合に合わせて順位を操作できる一覧表
Win-Win・・・両者がウィンでも第三者がLoseなら問題が生じることも
ビジョン・・・実現性や共感度を無視すると遠からず破綻する
SWOT分析・・・客観的な分析のようで、実施者の意図の介入余地が大きい
バリューチェーン分析・・・鎖の輪だけに執着すると鎖の弱体化を招く
コアコンピタンス・・・強みは、いつでもどこでも強さを発揮できるわけではない
差別化・・・「違い」は必要条件であっても十分条件ではない
顧客満足・・・高い値を示しても実態を反映していないことがしばしば
ポジショニング・・・企業の思惑と顧客の認識は必ずしも一致しない
限界利益率・・・利益率が高い商品を作ることが正解とは限らない?
KPI・・・特定の指標を過度に意識すると全体のバランスが崩れる
昇進昇格・・・悪用すれば特定の社員を辞職に追い込むことも可能な制度
ダイバーシティ・・・アリバイ作りの導入では競争は高まらない
オープンイノベーション・・・安易な導入は自社の開発力を削ぎノウハウを流出させる
なかなか鋭い切り口・・・心地よいです。
ビジネス・フレームワークを違う切り口から学べる面白い2冊・・・秋の読書にうってつけ・・・おすすめ本たちです。