迎撃は不可能…ロシア軍が極音速ミサイル「キンジャール」を使った深い意味
4/2(土) 11:02配信
デイリー新潮
Kh-47M2 キンジャール(kremlin.ru/Wikimedia Commons)
ロシアは核を使うつもりなのか──CNN(電子・日本語版)は3月23日、「ロシア大統領報道官、核使用を排除せず 『国家存立の脅威』に直面なら」との記事を配信した。
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記事のタイトルに《CNN EXCLUSIVE》とあるのは、日本風に言えば“スクープ”という意味だ。
《ロシアのペスコフ大統領報道官は22日、CNNのインタビューに応じ、ロシアがウクライナでの軍事目標をまだ達成していなことを(引用註:原文ママ)認めた。また、国が「存立の脅威」に直面した場合に核兵器を使用する可能性を否定しなかった》
当然、日本のメディアも反応した。ドミトリー・ペスコフ大統領補佐官(54)の発言を、朝日、読売、毎日などの新聞社、テレビ朝日やTBSなどのテレビ局、時事通信などの通信社が、いずれもCNNの報道を紹介する形で伝えた。
担当記者は「ウクライナに侵攻したロシア軍は、頑強な抵抗に手を焼き、当初想定していた“電撃作戦”とは異なる戦況に直面していることが影響しています」と言う。
「アメリカ政府や軍事専門家は、ウクライナ軍が善戦したことによって、『ロシア軍はなりふり構わず、サリンなどの化学兵器を使う可能性がある』と警鐘を鳴らしてきました。ところが今回は、ロシアが自ら“核兵器による脅迫”を仕掛けてきたわけです。『ロシアは核を使う用意がある。ウクライナへの支援を止めろ』というメッセージになります。CNNが大きく報道したのは当然と言うべきでしょう」
小型核兵器を使用!?
もしウラジーミル・プーチン大統領(69)が今回のウクライナ侵攻で核を使用するなら、どのような可能性が考えられるのか──こんな疑問に答えた記事は、既に配信されている。
講談社が運営するネットメディア「クーリエ・ジャポン」は3月22日、
「それは“ハッタリ”ではないかもしれない プーチンが『核のボタン』を押すならば、いつどこが“標的“となるのか」
という記事を配信した。ただし、この記事はクーリエ・ジャポンの独自記事ではない。ワシントンポストの記事を翻訳したものだ。担当記者が言う。
「ワシントンポストの記事は、最近の核兵器は破壊力や放射能の影響をコントロールできるようになったと紹介し、だからこそプーチン大統領はウクライナで核を使用しやすくなっていると懸念しています。これは『小型核兵器』と呼ばれ、記事では《広島に投下された原爆の何分の一かの威力にとどめることができる》と説明されています」
クーリエ・ジャポンの翻訳記事から、更に引用をさせていただこう。
《キエフのジュリャーヌィ空港の端に1キロトンの小型核爆弾を爆発させれば、プーチンはその火球や衝撃、放射線でこれまで以上の強いメッセージを送ることができるだろう。だがその爆発半径は滑走路の端までは届かず、被害を限定的にとどめることができる》
「核で和平」のシナリオ
広島に投下された「リトルボーイ」はTNT火薬で約16キロトン相当、長崎に投下された「ファットマン」は同じく約21キロトン相当とされている。記事にある《1キロトン》が非常に小型だということは、素人でも理解できるだろう。
記事の後半では、《米シンクタンク「アトランティック・カウンシル」の戦略・安全保障センター副所長のマシュー・クローニグ》がワシントンポストの取材に応じ、次のように語っている。
《「プーチンが核兵器を使わずに軍事的完敗を受け入れるとは思えません。彼は、敗北を認めるよりも核の限定的使用のほうがマシだと考えるでしょう」》
クローニグ氏は、ウクライナの民間機や戦車が小型核攻撃のターゲットになり得ると指摘した上で、都市攻撃もあり得ると言う。
《「可能性は低いですが、小さな都市を核攻撃することもありえます。軍事施設よりも民間人を標的にしたほうが危機のエスカレートにつながります」》
まさに非人道的な攻撃だが、クローニグ氏は、ロシアが核攻撃に踏み切ることによって、和平の道が切り開かれると語っている。
《「そして西側は『オー・マイ・ゴッド、あいつは核兵器を使いやがった』となるでしょう。それをプーチンは期待しているのです。私たちが『これはもう度を越した。和平を求めなくてはならない』と思うのを」》
極超音速ミサイルの恐怖
記事に説得力を感じた方も多いかもしれない。だが、さる軍事ジャーナリストは「ロシアが核を使う可能性は低いと考えています」と見る。
「理由は2つあります。ロシアは既に『核兵器を使うぞ』という脅しを欧米に突きつけていることが1点目。更に、ロシアが核兵器を使った場合、それは結局、ロシア国内を動揺させるなど、プーチン大統領にとってはデメリットが大きいというのが2点目です」
1点目について軍事ジャーナリストは、アメリカのジョー・バイデン大統領(79)が3月21日、《ロシアがウクライナ侵攻で極超音速ミサイルを使用したことを認めた》との記事に注目する(出典註)。
「極超音速ミサイルは、もともとバラク・オバマ氏(60)が大統領だった時、『核兵器より実戦的な兵器を開発し、核兵器を無意味なものにする』という目的から研究をスタートさせました。マッハ5以上という超高速で飛ぶミサイルなら、どんな目標でも短時間に撃滅できます」(同・軍事ジャーナリスト)
ところが、アメリカより中国やロシアのほうが、極超音速ミサイルの開発スピードは速かったという。
「ロシアはマッハ10以上という『Kh-47M2 キンジャール』の開発に成功しました。今回、使用されたのも、このミサイルです。おまけにアメリカとは異なりロシ
アも中国も、最初から核弾頭を搭載するつもりでした」(同・軍事ジャーナリスト)
プーチンの脅迫
従来の核ミサイルは、アメリカが中心となり、迎撃システムが構築されつつある。
「核ミサイルを発射すれば、偵察衛星がキャッチします。瞬時に海上のイージス艦や陸上のイージスアショアに連絡が入り、着弾点を予測します。従来のミサイルは放物線を描いて飛ぶので、迎撃するための時間的な余裕があります。こうして迎撃システムが構築されてきましたが、極超音速ミサイルに従来の迎撃システムは役に立ちません」(同・軍事ジャーナリスト)
ウクライナで使われたキンジャールは、MiG-31kという大型戦闘機から発射された。こうなると、衛星が発射をキャッチするのは非常に難しい。
「放物線を描かず、目標に向かって自由自在に進みます。直進することもできれば、左右に迂回することも可能です。従来の迎撃システムでは全く歯が立ちません」(同・軍事ジャーナリスト)
ロシアの核ミサイルを無力化するため、ポーランドにはイージスアショアが配備されているという。だが、キンジャールが相手となると役に立たない。
「ロシアはウクライナでキンジャールを発射したことで、既に欧米諸国へ脅しをかけたと見るべきでしょう。『この極超音速ミサイルに核弾頭を搭載すれば、ポーランドのイージスアショアは役に立たないぞ。その気になれば、欧米各国を核攻撃できるぞ』というメッセージを送ったのです」(同・軍事ジャーナリスト)
核使用のデメリット
脅迫としては、これだけで充分だという。むしろウクライナで核を使うと、かえって逆効果となりかねない。
「国際世論は一致団結して、ロシアを非難するでしょう。これまでロシアとのパイプを保ってきたインドや中国も、さすがにロシアを見限るかもしれません。何より考えられるのが、ロシア国内の動揺です。これまで『世界で唯一の核使用国』はアメリカでした。ところがロシアがウクライナで核を使用すれば、『2番目に核兵器を使った国』としてロシアの名前は永遠に残ります。この不名誉に、ロシア国民の怒りが爆発し、プーチン打倒に動いてもおかしくありません。さすがのプーチンでも、核兵器を使うことはないと見ます」(同・軍事ジャーナリスト)
出典註:ロシアがウクライナに発射した極超音速ミサイルについて知っておくべきこと(CNN・日本語・電子版:3月23日)
デイリー新潮編集部
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