当時自由民主党総裁・内閣総理大臣の安倍晋三が第2次安倍内閣において掲げた一連の経済政策の通称である。
主唱者である「安倍」の姓と、経済学・経済理論の総称である
「エコノミクス(英: economics」とを合わせた造語(混成語)。
2013年6月14日発表の「日本再興戦略」で全体像が明示されたアベノミクスは、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「三本の矢」を経済成長を目的とした政策運営の柱に掲げた。
概説
アベノミクスとは、2012年(平成24年)11月の衆議院解散(「近いうち解散」)前後から朝日新聞が使用したことをきっかけに多用され始めたともされるが、「アベノミクス」「三本の矢」という呼称自体は既に2006年(平成18年)時点で、第1次安倍内閣当時の自由民主党幹事長・中川秀直による造語である。
第1次安倍内閣における経済政策を指す言葉として命名されたが、第1次安倍内閣の政策はその後の第2次安倍内閣の政策とは基本的なスタンスが異なっており、財政支出を削減し公共投資を縮小させ、規制緩和によって成長力が高まることを狙った、小泉純一郎による「小泉構造改革」(聖域なき構造改革・いざなみ景気)路線の継承を意味するものであった。
第2次安倍内閣では新たに、デフレーションを克服するためにインフレターゲットが設定され、これが達成されるまで日本銀行法改正も視野に入れた大胆な金融緩和措置を講ずるという金融政策が発表された。
中日新聞はこれら一連の経済政策が、第40代アメリカ合衆国大統領ロナルド・レーガンの経済政策「レーガノミクス (英: Reaganomics)」にちなんで、アベノミクスと呼称されるようになったとする。命名者は中川秀直。
「アベノミクス」は2013年新語・流行語大賞のトップテンに入賞した。
「三本の矢」
アベノミクス個別の政策としては、それぞれの矢として下記などが提示、あるいは指摘されている。
第一の矢:大胆な金融政策(デフレ対策としての量的金融緩和政策、リフレーション)
2%のインフレ目標
無制限の量的緩和
円高の是正と、そのための円流動化
日本銀行法改正
第二の矢:機動的な財政政策(公共事業投資、ケインズ政策)
大規模な公共投資(国土強靱化)
日本銀行の買いオペレーションを通じた建設国債の買い入れ・長期保有、ただし国債そのものは流動化
第三の矢:民間投資を喚起する成長戦略(イノベーション政策、供給サイドの経済学)
「健康長寿社会」から創造される成長産業
全員参加の成長戦略
世界に勝てる若者
女性が輝く日本
2014年6月30日、安倍はフィナンシャル・タイムズ紙に「私の『第3の矢』は日本経済の悪魔を倒す」と題した論文を寄稿し、経済再建なしに財政健全化はあり得ないと述べ、日本経済の構造改革を断行する考えを表明している[18]。改革の例として、
法人税の引き下げ。2014年に2.4%引き下げ、数年で20%台に引き下げ。
規制の撤廃、エネルギー・農業・医療分野の外資への開放。
働く母親のために家事を担う外国人労働者の雇用。
を挙げた[18]。また、2014年4月の消費税増税については「影響は限定的である」と述べている[18]。
同年8月9日、安倍は月刊誌「文芸春秋」9月号に「アベノミクス第二章起動宣言」と題した論文を寄稿し、「経済成長こそが安倍政権の最優先課題」としてデフレ脱却に向けた決意を表明、地方振興・人口減少対策に全力を挙げる考えを示した[19]。
組織
経済政策を進めるために、経済再生担当相兼経済財政政策担当相である甘利明の下に日本経済再生本部を設け、さらにその下に経済財政諮問会議、産業競争力会議を設置している。
政策ブレーン
浜田宏一(東京大学・イェール大学名誉教授(国際金融論・ゲーム理論)、第2次安倍内閣内閣官房参与) - 安倍晋三の父・安倍晋太郎が興した「安倍フェロー」の研究員となったことから、安倍との親交が生まれた。
2001年内閣府経済社会総合研究所長だったときに官房副長官だった安倍と出会い、リフレ政策を勧めた。
本田悦朗(元大蔵官僚、第2次安倍内閣官房参与)[ - 菅義偉内閣官房長官は浜田宏一と本田について「2人はまさに『アベノミクス』を作った。
多くの反対があったが、実行したらあらゆる経済指標がよくなり始めた」と述べている。
高橋洋一(元財務官僚、第1次安倍内閣で経済政策のブレーン、嘉悦大学教授(財政学))
黒田東彦 - 第31代日本銀行総裁。
日銀総裁就任以前のアジア開発銀行総裁の時に黒田は日本経済にとって最大の課題はデフレからの脱却で、15年もデフレが続いているのは異常で、日本そして世界経済にもマイナスの影響を与えており、その修正は日本にとっても世界経済にとっても正しいとし、デフレの克服、および中期的な財政再建を堅持し、成長力を高めていくのは適切な政策とした。
また日本のデフレ脱却はアジアにも世界経済にもプラスになり、アジア各国も支持するとの認識を示している。
また、政府と日銀が2%の物価上昇率目標を設定する共同声明を結んだことについて「画期的なことであって、非常に正しいことだ」と述べた。
黒田は2013年4月4日の「量的・質的金融緩和」政策の公表で、物価目標を2年程度を掛けて年間2パーセントとするため、以下の5点にわたる政策を実施するとし、市場からは驚きをもって迎えられた。
(1)日銀の市場操作目標を無担保コールレートからマネタリーベース(日銀券+日銀当座預金+貨幣[硬貨])へ変更
(2)2年後の日銀資産を現在(158兆円)の2倍近い290兆円にまで膨らませる。
(3)買入れ資産対象を従来の短期国債中心から、中期国債その他に拡大する(平均残存期間を3年弱から7年程度に延長する)。
(4)2パーセント程度のインフレが安定的に実現するまで継続する。
(5)銀行券ルールを一時停止する。