妻の早苗は、一人娘として育ち、父親の願いで群馬大学医学部を受験したものの不合格となり、仕方なく附属看護学校へ進学し看護婦となった。
早苗は私と結婚後も都内の病院に看護婦として勤務していた。
私の主義で、預貯金は夫婦別々だった。
私は、生活費として毎月、妻に30万円渡していた。
早苗は、私の母親に感化され、熱心な仏教の信者となっていた。
元々、彼女は生真面目な性格であり、平和思想、人間主義の教義に深く納得していく。
一方の私は、教義の中核である<永遠の生命>を信じていなかったのだ。
さらに、僧侶が信者を蔑視している場面を目の当たりにして、冷めた心にもなっていた。
何のための僧侶の存在なのか、と疑問を抱いた。
彼らは教義から逸脱した<金の亡者>のように、忌まわしく映じていくばかりとなった。
あれが、彼らの執拗なまで供養を求める<裏の顔>なのだ、と突き放していくばかりとなる。