高校生であった漆原は父親の昭雄の鉄道自殺に大きな衝撃を受けた。
そして、不登校となる。
彼は、父親の書棚から、芥川龍之介や太宰治の小説を読む文学少年であった。
自ら死を選んだ父親を少しでも知りたいと思ったが、答えは得られるものではなかった。
「高校だけは、何とか出てね。お願いよ。分かってね」母親の言葉に押された将司は、1年後に高校を中退して夜間高校へ進学した。
同級生の皆が、将司より年上であり、昼間はそれぞれに職をもち、あらゆる分野で勤勉に働いていた。
一方の将司は、昼間は父親の書棚から本を取り出して読んでいたり、テレビを観て過ごす身であった。
将司は、2歳年上の大貫秋絵と机を並べて座ることもあった。
昼間の疲れであろうか、彼女が度々、居眠りをする。
だが、教師の誰もが居眠りをする生徒たちを咎めなかったのである。
その教師たちは、昼間の教室では生徒たちに対して、厳しい対応する教師たちであった。
将司が昼に学んだ大学付属高校は、夜間は全く異次元の大学付属高校へと変貌していたのである。
将司は、府中に住む大貫秋絵と一緒帰ることとなる。
「暗い牧場の前を通るのが怖いの。桜上水駅まで送ってね」秋絵の求めは将司の恋の心を膨らませた。
実は、将司は下高井戸駅から登校していたので、一駅先まで彼女を送っていくこととなる。
だが、この恋は秋絵の突然の死で終わりを告げる。
風邪をこじらせて、将司はその日、高校へ行かなかったのだ。
そして、悲劇は起きたのである。
秋絵が恐れたように、暗夜の牧場に彼女は二人の男に連れ込まれ、強姦されたのだ。
将司は新聞記事で、その事件を知らさせる。
将司は慰める言葉を失う。
そして、2か月後に20歳であった秋絵の京王線の踏切での事故が新聞に報じられたのだ。