「大往生したけりゃ医療とかかわるな」
死ぬのは「がん」に限る。
ただし、治療はせずに。
著者の中村仁二さんは医師だ。
医師が医療を否定する。
それは、どのようなことなのか?
徹は新聞広告を見て、本屋へ向かった。
1昨年のことであるが、真夏にボランティアである施設へ行き、庭の草むしりをした。
炎天下、1時間ほど雑草と格闘した。
流れる汗とともに、鼻水も垂れてきたと思って、ハンカチで鼻を拭ったら、紺色のハンカチが黒く変色した。
それは鼻水ではなく、血であった。
その日の前日も、夜中に目覚めたら枕に髪が絡み着いた感じがした。
部屋の蛍光灯をつけて確認したら、枕に血溜まりができていて髪の毛に固まった血がベッタリと付着していた。
1週間ほど鼻血が出ていて、深酒をした日にはドクドクと鼻血は喉に流れ込む。
吐き出しても口に鼻血はたちまち溢れてきた。
「これでは出血多量で死ぬな」と徹は慌てた。
徹は妻子と離婚して5年余、一人身である。
救急車を呼ぼうかと思ったが、午前3時である。
マンションの住民たちに迷惑になると思い、我慢した。
死の恐怖を感じながら、何とか鼻血を止めようとした。
初めはティッシュペーパで対応したが、見る見る血で染まってきて、それではらちがあかない。
そこで脱脂綿を鼻奥に詰め込んだ。
しばらくして、鼻血は止まった。
徹の母親は56歳の時、早朝に鼻血が止まらなく、救急車を呼んだ。
国立相模原病院に搬送されたが、血圧が200以上あった。
徹は自分の現在の状況と重ねて、20代の頃を思い浮かべた。
結局、母親は生涯、血圧降下剤を飲み続ける。
母子は遺伝子的に同じ宿命を辿ると徹は思い込んでいた。
宿命は変えられない。
だが、意志で運命は変えられる。
徹はそのように考えた。
炎天下の草むしりのあと、昼食を食べに松戸駅前のラーメン店へ行く。
「ビールでも飲むか」とボランティア仲間の渥美さんが言う。
徹は日本酒にした。
3本目を飲みだしたら、また、鼻血が出てきた。
口と鼻を押さえながら、慌てふためいてトイレに駆け込む。
鼻血でたちまち便器は染まっていく。
「これは、尋常ではない」と覚悟を決めた。
結局、乗りたくはない救急車を呼んでもらった。
5分もかかわず、救急車のサイレンが聞こえてきた。
近くに病院もあり、7分くらいで病院に搬送されたが、血圧を測定したら210もあった。
救急車で血圧を測定した時は180であった。
注射をして様子をみることになる。
10分後に血圧を測定したら、まだ、200を超えていた。
「まだ、ダメね」と看護師は首をひねる。
そこで、胸に貼り薬を試した。
「動き回らず、寝ているのよ」と看護師にたしなめられた。
徹は携帯電話を持たないので、心配しているボランティア仲間の渥美さんに待合室の公衆電話で、様子を伝えたのだ。
「あんたは、鉄の肝臓を持っている男だ。鼻血くらいでは死なないよ」とボランティア仲間の渥美さんは笑った。
徹の血圧は、胸に貼り薬のおかげで、140にまでいっきょに低下していた。
「月曜日、来て下さい。鼻の粘膜の切れやすい箇所をレーザーで焼きますから、耳鼻咽喉科へ必ず来て下さい」と看護師が言う。
徹はあれから1年6か月余経過したが、その病院へ2度と行っていない。
血圧降下剤も飲んでいない。
鼻の粘膜は、レーザーで焼かなくともその後、破れていない。
「私が休みの日に、何をしているのか、あなたには分からないだろうな?」
北の丸公園の安田門への道、外堀に目を転じ美登里は呟くように言った。
怪訝な想いで徹は美登里の横顔を見詰めた。
徹を見詰め返す美登里の目に涙が浮かんでいた。
「私が何時までも、陰でいていいの?」
責めるような口調であった。
区役所の職員である36歳の徹は、妻子のいる身であった。
「別れよう。このままずるずる、とはいかない」
美登里は決意しようとしていたが、気持ちが揺らいでいた。
桜が開花する時節であったが、2人の間に重い空気が流れていた。
乳母車の母子の姿を徹は見詰めた。
母親のロングスカートを握って歩いている少年は徹の長男と同じような年ごろである。
「私は、何時までも陰でいたくないの」
徹の視線の先を辿りながら美登里は強い口調となった。
徹は無表情であった。都合が悪いことに、男は沈黙するのだ。
北の丸公園を歩きながら、美登里は昨日のことを思い浮かべていた。
九段下の喫茶店2階から、向かい側に九段会館が見えていた。
美登里は徹と初めて出会った九段会館を苦い思いで見詰めていた。
美登里は思い詰めていたので、友人の紀子に相談したら、紀子の方がより深刻な事態に陥っていた。
「私はあの人の子どもを産もうと思うの。美登里どう思う?」
美登里はまさか紀子から相談を持ち掛けれるとは思いもしなかった。
「え! 紀子、妊娠しているの?」
紀子は黙って頷きながら、コーヒーカップの中をスプーンでかきまぜる仕草をしたが、コーヒーではなく粘着性のある液体を混ぜているいうな印象であった。
「美登里には、悩みがなくて良いわね」
紀子は煙草をバックから取り出しながら、微笑んだ。
「私しより、深刻なんだ」美登里は微笑み返して、心の中で呟いた。
結局、美登里は紀子の前で徹のことを切り出すことができなかった。
創作 美登里の青春 2)
「あの夏の日がなかったら・・・」
美登里はラジオから流れているその歌に涙を浮かべた。
歌を聞いて泣けたことは初めてであり、気持ちが高ぶるなかで手紙を書き始めていた。
「なぜ、あなたを愛してしまっただろう。冷静に考えてみようとしているの。あなたは遊びのつもりでも、私の愛は真剣なの。でも、陰でいることに耐えられない。18歳から21歳までの私の青春が、あなたが全てだったなんて、もうい嫌なの」
そこまで書いたら、涙で文字が滲んできた。
美登里は便せんを二つに割いた。
泣いて手紙を書いていることを、徹に覚らせたくはなかった。
美登里は日曜日、信仰している宗教の会合に出た。
そして会合が終わり、みんなが帰ったあと1人残った。
先輩の大崎静香の指導を受けるためだ。
「美登里さん、私に何か相談があるのね。元気がないわね。会合の間にあなたを見ていたの」
指導者的立場の大崎は、説法をしながら壇上から時々美登里に視線を向けていたこを美登里も感じていた。
美登里と6歳年上の大崎は、性格が明るく生命力が漲り、常に笑顔を絶やさない人だ。
そして何よりも人を包み込むような温かさがあった。
人間的な器が大きいのだと美登里は尊敬していた。
「この人のように、私もなれたら」美登里は目標を定めていたが、現実を考えると落差が大きかった。
大崎は美登里の話を、大きく肯きながら聞いていた。
「それで、別れることはできないのね」
大崎が美登里の心を確かめるように見詰めた。
「そうなの」
美登里は涙を流した。
「それなら美登里さん、日本一の愛人になるのね」
美登里はハンカチを握りしめながら、大崎の顔を怪訝そうに見詰めた。
「日本一の愛人?!」心外な指導であった。
大崎は当然、美登里に対して、「相手は、妻子のある男なのだから、別れなさい」と指導すると思っていた。
改めて、美登里は尊敬する大崎の包容力の大きさを感じた。
そして、美登里は決意した。
「私は、日本一の愛人にはなれない。徹さんと別れよう」
「創作品は、しばしば作家より雄弁に作家自身のことを語っている」
大学のサークルである近代文学研究会での大田三郎の指摘に、みんなが肯いた。
だが、徹は実証主義文学論には違和感を持った。
先日、開かれた国文学研究会で、岩城助教授が金田一京助に向かって「石川啄木と芸者の小奴は肉体関係があったと思いますか?」と尋ねたのだ。
「あったとも、なかったとも言えません」
金田一京助は常識的に答えたが、岩城助教授は食い下がるように言い放った。
「先生は、本当のことをご存じなのではありませんか?」
「金田一さんに対して、非礼だな」と大田三郎は呟いた。
「先ほど、お答えした以上のことは言えません」金田一は困惑していた。
「ここは実証主義文学研究会の場ですから、肝心なことを明らかにしたいのです」
岩城助教授は太った腹を突き出しように言った。
会場の人たちは固唾を飲んで、金田一の言葉を待った。
徹は大田三郎の肩に指を突いて、「出よう! 馬鹿馬鹿しい」と席を立った。
「聞きたいが、出るか」 三郎も続いて席を立った。
三郎はロシアの作家・ドストエーフスキイに傾倒していた。
特に「罪と罰」は小学生のころから読んでいたというから早熟なのだ。
一方、徹は高校生になって高校の国語教師の影響で詩を読み始めていたが、小説は数えるほどしか読んでいなかった。
高田守先生は授業でしばしば、詩を読んで聞かせた。
徹はその詩の内容より、高田先生の声に感動した。
徹は自分も詩を書き、高田先生に音読してもらいたいと思うようになったのだ。
同じ詩でも高田先生以外の人が読んでは感動しないのだ。
ラジオ世代の中で育った徹は、多くの声優たちの語りの素晴らしさに想像を膨らませてきた。
三好達治、中原中也、宮沢賢治、石川啄木などの詩を知る。
そして益々、詩は文字で読むより、「聞きたい」と徹は思った。
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<参考>
野口雨情(のぐち うじょう、1882年(明治15年)5月29日~1945年(昭和20年)1月27日)は、日本の詩人、童謡・民謡作詞家。
本名は野口英吉。
茨城県多賀郡磯原町(現・北茨城市)出身。
ロミオとジュリエットではないが、相思相愛の男女関係はある意味で、運命的な出会いであるかもしれない。
それは相性の問題でもある。
高校生の徹と大学生の浩が空き地でキャッチボールを始めると中学生の少女が赤ちゃんを抱いて路地裏から現れた。
少女はポニテールの髪型をしていた。
いわゆる美少女の類型の整って顔立ちである。
徹は小学生の頃、東京・大田区の田園調布で育ったが、大邸宅に住む少女、少年たちには気品が備わっていた。
そして少女や少年たちの美しい母親たちは、揃って着物姿で授業参観に来てきた。
徹は美しい母親たちの容姿に子どもながら強く心を惹かれて、同級生たちを羨んだ。
徹は中学生の少女を初めて見た時、小学生の頃の記憶が鮮明なまでに蘇った。
少女は徹と浩のキャッチボールが始まると待っていたように、赤ちゃんを抱いて現れた。
「あの子は徹に気があるんじゃないか」
浩は銭湯の湯船に浸かりながら言った。
手拭を頭に乗せている浩は、俳優の石原裕次郎に容貌が似ていた。
「浩さんは女の子にもてるでしょうね?」徹は聞いた。
「まあな、でもな、あの子は徹に気があるな」
浩は頭に乗せた手拭を湯船に沈めて、顔を拭った。
「そうだろうか?!」徹は半信半疑であった。
「あの子に聞いてみるか?」と浩は八重歯を見せてニヤリと笑った。
「よして下さいよ」徹は慌てた。
少女の一家は半年前に徹の自宅の裏に引っ越してきた。
少女の父親は顎鬚をはやし、精悍そうな大きな目をしていた。
昭和30年代の東京・世田谷の用賀町には畑があり、雑木林もある新興住宅であった。
「おばさん、裏の一家はどんな人たちなの」下宿人である浩が徹の母親に聞いた。
「ここだけの話だけど、訳ありだね」
「訳あり?」浩の大きな目が見開かれた。
徹の母親は声を落として事情を説明した。
「旦那と奥さんは、年が離れているだろう。再婚らしいんだ。中学生の娘さんと小学生の娘さんが先妻の子、赤ちゃんは奥さんの子なの」
「なるほど」浩はうなずきながらタバコを口にくわえた。
少女の40代の父親と20代と思われる継母は手をつないで、二子多摩川の河原を散歩していた。
徹と浩は多摩川で魚釣りをしていて、二人の姿を見かけたのだ。
それから半年が過ぎて、画家である少女の父親が、娘をモデルに描いた絵が評判となった。少女の裸体の油絵であり、「15歳の神話」と題されていた。
東京の銀座で働きたいと面接に行ったが、どの企業からも相手にされなかった。
「君には社会的な常識がほとんどないね」
面接の相手は呆れ顔でまじまじと徹の顔を見詰めた。
「新聞を読んでいるんですか? これは常識ですよ」
面接で言われて、屈辱を味わったが、相手の指摘も確かだった。
徹は全く新聞を読んでいない。
読むのは小説と詩だけである。
「新聞を読むなど時間の無駄意外ない」
それが本音であり、思い込みだった。
徹の自宅ではずっと毎日新聞を購読していた。
阪神ファンの父親は、読売新聞を嫌っていたのだ。
結局、徹は銀座を諦め、新宿の企業を就職活動のために歩いた。
だが、新宿でも職が得られなかった。
最後に面接した企業は出版社であった。
「本の企画を2つ考えなさい」と面接の人から言われた。
1つは「女をダマス本」
2つ目は「思春期の少女のヌード集」
徹の企画した提案とその意図に、相手は侮蔑する目を徹に向けた。
「2月になって、まだ、職が決まらないで、どうするの!」
母親が徹を責める。
「お前には、欠陥があるんだね。どこの会社からも相手にされないんだから」
母親は夫の不甲斐なさと重ねて徹に嫌味をぶつけた。
徹の父親は勤めていた大手企業の子社が業績不振に陥り45歳でリストラされた。
「あんたは、会社にとって必要でない人間だったね。情けないよ。そんな人だったんだね」
心が優しい父親は、うな垂れてただ沈黙して聞いていた。
「私に言われ、悔しくないの! 悔しかったらね! いい職を見つけてきな!」
ヒステリックに声を荒げた。
13歳の徹は、母親に憎しみを抱き始めていた。
毎日、母親が父親に嫌みをぶつけ責め立てるのは、まさに悪夢のような日々であった。
あれから10年が経過し、徹が就職活動に足踏みをしていた。
我々は、知っていることより、知らないことの方が多い。
緘黙症(かんもくしょう)については、作家の一色真理(まこと)さんが記していたので知った。
思えば、彼女は「話さない」のではなく、何らかの心理的理由から「話せない」病気の緘黙症であったのかもしれない。
美登里さんは、話せなくとも字が書けたので成績は優秀であった。
だが、ある時突然、しゃべったので、みんなが唖然とした。
「トルストイは、大衆、大衆と繰り返し記しているけど、自分も大衆でしょ」
「美登里さんが、口を開いた」と敏子さんが目を見開いたが、徹は美登里さんがトルストイを批判したことにむしろ驚いた。
徹は、「この人は思い描いていた人ではないのでは?」と美登里さんの伏目がちの横顔を注視した。
心優しく、何時も静かに微笑んでいる美登里さんの別の面を知らされた思いがした。
彼女は周囲への違和感から、自ら言葉を発することを止めていたのかもしれない。
彼女は母親を小学生6年生の時に亡くしていた。
そして、中学2年生の時には父親を亡くしていた。
徹は高校の入学式の日、一際(ひときわ)美顔の美登里さんに心惹かれた。
「世の中には、こんなに綺麗な人がいるのか!」
美登里さんの祖父は画家で、祖母はフランス人であった。
美登里さんは美しい祖母似であったのだろう。
昭和30年代、まだ珍しかったバトンガールの先頭に立って銀座を行進する美登里さんは、天使の化身のようにも映じた。
ルノアールの「カーンダンベルス嬢の肖像」を見ると徹は、フランスに行ってしまった美登里さんはのことを想った。
翌年、東京オリンピックが開かれ、東京・代々木の体操競技の会場で美登里さんを見かけたと友達が言っていたが、その日徹は風邪で寝込んでいた。
韓国料理の店で酒を飲む。
徹は、いつものとおり招待された。
若い人たちの中で、話を聞きながら雰囲気を楽しむ。
そして昔の職場を思い出した。
あの頃は何かと酒の席が多かった。
月に2、3回は社員全員で酒を飲んでいた。
段々と記憶が遠くなるが、鮮明に覚えていることもある。
それは、ほんの同僚の一言であったりする。
思えば些細なことであるが、棘のように胸に刺さっていたことも。
東京・神田の駅界隈で、酒を飲んでいたのは10年間くらいで、その後は、水道橋が多くなる。
何故、神田から離れたのか、と記憶を辿ってみた。
「昨夜、友だちとあの店に行ったら、1万円だったの」
同僚の峰子さんが怪訝な顔で言う。
「1万円ですか? 私のボトルを飲んだのでしょ?」
「そうなの」
徹は直観した。
「2度と来ないでね」と言う意思表示をママの綾さんがしたのだと。
徹は峰子さんをその晩、寿司屋に誘った。
実は、徹は峰子さんに惚れていた。
彼女は夫を電車事故で亡くなり、二人の娘を育ていた。
「好きになっていいですか?」
「でも、プラトニック・ラヴよ」敬虔なクリスチャンの彼女は握られた手を押し戻すのだ。
彼より5歳年上であった。
しかも、勤務する社の社長の従姉でもあった。
「あのママさん、徹さんに惚れているのね」
「そうかな?」
「女の直観よ」
徹は6月になれば30歳になろうとしていた。
「29歳にもなって、結婚をしていないのは、お前だけだよ!」
母親から言われていた。
確かに、近所に住んでいる中学の同級生で未婚なのは、徹だけであった。
徹は8度も見合いをしていたが、結婚には至らない。
「会社には相手は居ないのかい」と母親が言うが、同僚の彼女たちには既に交際相手がいた。
先輩で社内結婚をした人たちが3組。
徹が良いなと思った新入社員の女性も、既に結婚相手が決まっていたり、同僚の誰かが逸早く手を出したりしていた。
徹は面白くない気分を抱いて酒場へ足を向ける。
「酒でも、飲もうか?」
徹は振り返って淑江に声をかけた。
コンサートの余韻が残っていて、会場を出てくる人たちの顔はいずれも上気しているよに見えた。
「横浜に来たのだから、中華料理ね」
淑江は県民ホールの階段を下りながら徹に同意を求めた。
「そうだね」と言ったものの、徹は野毛山の居酒屋を頭に浮かべていた。
中華料理は好きな方であるが、2人でのフルコースは量的に重い感じがしていた。
できれば、4、5人で店に来て、色々な料理を注文してテーブルを回しながら味わうのが中華料理の醍醐味と思っていた。
創業40周年記念 1人前コース1860円。
ある店の看板を目にして徹は足をとめた。
「安いな。この店はどうかな?」
背後を振り返った。
淑江は微笑みを浮かべて頷いた。
水色の小旗を掲げた中年の女性に引率されて、20人ほどの観光客と思われる人たちが道の向かい側の大きな中華料理店に入るところであった。
「何処の国の人たちかしら?」
淑江は笑顔で肩車に乗った金髪の幼女を見つめた。
幼女は赤靴をブラブラさせながら、首を曲げて淑江へ笑顔を投げかけた。
「可愛い!」
子ども好きな淑江は歓喜したように言った。
「可愛い子だね」と応じて、徹は「赤い靴をはいた女の子」のメロディーを思い浮かべた。
そのメロディーは淡い哀愁を伴って、徹の胸に秘められていた。
1人っ子として育った徹は初めて幼稚園で、イジメを経験した。
徹の母親は高校の教師で昼間家に居ない。
祖母、祖父とも孫に甘いので、徹がねだれば何でも買ってもらえた。
温室育ちのような徹は、幼稚園で我がまま通じないことを知った。
そして意地悪も経験した。
同じ年であったが、徹より大きな体を少女はしていて、徹がイジメにあうと「いじわるはダメ」とかばってくれた。
奈菜子は何時も赤い靴を履いていた。
2人の兄と弟の間に育った奈菜子は確りした性格だった。
「徹ちゃんは女の子みたい」
徹は奈菜子から言われても悪い気持にならなかった。
女の子みたいだから、女の子には仲良くしてもらえると徹は思ったのだ。
思えばあれは、徹にとって初恋のようなものであっただろうか?
新年会のあと友だちの高浜君たちと、長禅寺へ詣でた。
信仰心が互いにあるわけではない。
「今年こそは、何か良いことがあるように、祈ろう」
大竹さんが取手・長禅寺の茨城県指定文化財の三世堂へ向かった。
「祈っても無駄だ」
冷ややかに言うと高浜君は、左へ向かう。
徹も祈ることもないので、高浜君の後に続いた。
高浜君は本殿をチラリと見ただけで、池の前で足をとめると鯉を目で追っていた。
「福島県南相馬の実家へは15年ほど帰っていないけど、亡くなったじじいが、鯉をかっていたんだ」と言う。
思えば、徹も群馬県吾妻の実家へ10年以上帰省していない。
「正月くらい、帰ってこい」と父親から電話があったのが12月30日だった。
30日の夜半から31日朝まで大竹さんたちに誘われ徹は、駅前の雀荘で徹夜麻雀をした。
長男が10月に生まれ、妻は埼玉県深谷の実家へ帰省していた。
徹は妻から「深谷で正月を迎えない?」と誘われたが、「行くのが面倒だな」と断り自宅で正月をのんびり過ごすことにした。
「二人とも、信仰心が少しもないんだね。徹君は赤ちゃんができたんだからね、無事に育つことを祈るべきだよ」
大竹さんの柔和な目が厳しくなっていた。
徹は気まずい思いで池の鯉に目を転じた。
ハマスが連れ去った251人の人質ののうち101人は今の捕らえられてたままだ。
これまで、ガザ地区の死者は?
イスラム組織ハマスが運営するパレスチナ自治区ガザ地区の保健省は15日、イスラエルの攻撃によって殺されたパレスチナ人が4万人を超えたと発表した。
保健省は現在、病院での記録、家族による登録、信頼できるメディア報道の三つのデータから死者数を割り出している。
発表されるデータでは民間人と戦闘員の区別はない。
しかし保健省は、死者の大半は子どもや女性、高齢者だとしている。
一方イスラエルは先に、この戦争でハマスの戦闘員1万5000人が死亡したと発表したが、根拠は示していない。
パレスチナ自治区ガザ地区の南部ハンユニスで、イスラエル軍による地上作戦と空爆があり、イスラム組織ハマスが運営する保健省によると、少なくとも51人が殺された。
イスラエル軍の戦車が1日夜、ハンユニスの一部地域と周辺地域に侵攻したもよう。住民は、銃声や激しい砲撃が聞こえたと述べている。
病院に搬送されたある負傷者はBBCに対し、戦車が警告なく村に「進んできた」と語った。
イスラエル国防軍(IDF)はこれとは別に、ガザ地区北部と中部で避難民が身を寄せている学校4カ所にあるハマスの標的を空爆したと発表した。
IDFによると、ハマスはムスカット、リマル、ブレイジ、ヌセイラトの各学校内に設置された「司令・制御室」で活動していたという。
パレスチナのWAFA通信は、ガザ市タッファ地区のムスカットの学校で少なくとも9人の民間人が殺されたと報道。また、リマル地区のアルアマル児童養護施設では6人が殺害されたと伝えた。
アルアマル児童養護施設はその後、フェイスブックへの投稿で、イスラエルの空爆が数百人の民間人が避難していた建物を襲い、子どもや女性を含む8人が殺され、大勢が負傷したと発表した。
ガザ地区の市民防衛隊も、2日にイスラエルがガザ中部のヌセイラト難民キャンプにある女子校を爆撃したと発表。3人が死亡し、15人が負傷したとした。
イスラエルは1日、レバノンへの地上作戦を開始するとともに、イランからのミサイル攻撃に対処した。イスラエルとレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラは1年近く、国境を挟んで攻撃を続けてきた。1日の地上侵攻は、ヒズボラの拠点に対する「限定的」な作戦だとイスラエルは説明している。
IDFは、2日未明に行われたとされるガザ南部への空爆について、まだコメントしていない。
しかし、ハンユニス南東にあるキザン・アルナジャル村の男性はBBCアラビア語に対し、親戚の何人かが攻撃で死亡したと語った。
この男性はハンユニスのナセル病院で、「戦車がその地域に突撃し、クアッドコプター(無人機)が私たちを直接狙っていた」と語った。同病院の医療関係者も、死者数の最新情報を提供した。
病院にいた別の男性は、「私たちがあの村にいたところ、突然、飛行機や戦車から砲弾が降り注ぎ始めた」と話した。
さらに別の男性はBBCアラビア語に次のように語った。「事前の警告は何もなかった。レバノンからのロケット砲攻撃の後、私たちは完全な破壊を目撃した。私はかろうじて生き延びたが、娘は負傷し、妻は頭にけがをして、失明の可能性がある」。
この男性はまた、イスラエル軍が避難民が避難していた家屋も「完全に破壊」していたと話した。
ガザ地区の保健省は2日、イスラエルの攻撃による死者はさらに増える可能性があると警告し、新たに82人が負傷したと発表した。
IDFは昨年12月以来、ガザ第2の都市圏であるハンユニスで、ハマスの戦闘員を標的とした複数の地上作戦を展開している。
ハマスは昨年10月7日にイスラエルを攻撃し約1200人を殺害、251人を人質として連れ去った。これを受けて始まったイスラエルの軍事作戦により、これまでに4万1689人が殺害されたと、ガザ地区の保健省は発表している。
欧米諸国はイスラエルに武器を供与するなどの支援を続けていることも問題視されている。
特に米国は、イスラエルがどんなに間違っていても絶対にイスラエルを支援する立場だ。
イスラエルのネタニヤフ首相は収賄と詐欺、背任の罪でイスラエルの検察に起訴されており、裁判で有罪が決まれば逮捕される恐れがある。
それを避けるための、戦争を長引かせているのだ。
なぜ戦争をしているのか?
レバノン南部にはリタニ川という水量豊富な水源があり、イスラエルは、そこを手に入れたいという思惑のもあるのだろう。
日本はパレスチナを国家承認をすべきだ。
今や、世界の多数である140か国がパレスチナを国家承認している。
最も重要なことは、パレスチナ人の生活の質の向上である。
昨年10月7日以前も、イスラエルはガザ地区をたびたび空爆しており、パレスチナ人の死傷者は急増している。
しかも、パレスチナ人がイスラエル軍に投石しただけでも、3年から20年の禁固刑を受ける。
パレスチナ人へのイスラエルの横暴な振る舞いは植民地支配や占領に当たるものであり、それにパレスチナ人が抵抗すること国際法上、人民の自決権の行使として認められている。
とはいえ、昨年10月7日のハマスへの奇襲はイスラエルの民間人も犠牲にしており、許されるものではない。
イスラエルは強く、国際社会から強く糾弾すべきだ。
民主党政権時(2012年)と最近の経済指数
日経平均株 8664円(12年11月) 4万2224年(24年7月)
名目GDP 494兆円(12年10月期ー12月期) 607.6兆円(24年4-6月期)
春闘賃上げ(連合まとめ) 1・72%(12年) 5・10%(24年)
同中小企業 1・52%(12年) 4・45%(24年)
最低賃金 749円(12年度) 1055円(24年度)
就業者数 6228万人 6815万人
インバウンド(訪日客) 836万人(12年) 2507万人(23年)
農林水産物・食品の輸出 4497億円(12年) 1兆4547億円(23年)
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情報
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原作
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松本清張の小説「種族同盟」
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脚本
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国弘威雄
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監督
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渡辺裕介
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撮影
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小杉正雄
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出演
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船越英一郎ほか
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この映画は、多摩川渓谷の旅館の女中がなじみの客を崖から突き落したという殺人事件の裁判が始まる様子を描いた作品です。
番組内容
弁護士・丹羽修造(船越英一郎)は、経営コンサルタント・風間隆一(金山一彦)の強盗殺人の被告人・横山リエ(星野真里)の弁護を担当することになった。
リエは、自白を強要されたことを告白して無罪を主張するが、彼女を犯人と裏付ける証拠が揃い、俄然不利な状況であった。
被告人の無実を信じる丹羽は、助手の由基子(黒谷友香)と事件当日の目撃情報収集に奔走する。
そして、ある証言をもとに不利な状況から一転、見事無罪を勝ち取るが…。
松本清張サスペンス 黒の奔流 出演:船越英一郎
出演者
丹羽修造…船越英一郎
丹羽ひとみ…賀来千香子
横山リエ…星野真里
岡橋由基子…黒谷友香
屋代邦和…西村まさ彦
二宮正樹…阿部力
楠田拓也…風間トオル
風間隆一…金山一彦
新川忠志…吉満寛人
日置啓吾…鹿賀丈史
『カリートの道』(原題:Carlito's Way)は、1993年のアメリカ合衆国の犯罪映画。 監督はブライアン・デ・パルマ、出演はアル・パチーノとショーン・ペンなど。
ニューヨーク州最高裁判所の元判事エドウィン・トレス(英語版)の同名小説、およびその続編『それから』を原作とする。ゴールデングローブ賞2部門の候補に挙がった。
アル・パチーノ
カリート・ブリガンテ
ショーン・ペン
デイビット・クラインフェルド
ルイス・ガスマン
Pachanga
ペネロープ・アン・ミラー
ゲイル
ジョン・レグイザモ
ベニー・ブランコ
ヴィゴ・モーテンセン
Lalin
イングリッド・ロジャース
ステフィ
ジョルジ・プルセル
Saso
ジェームズ・レブホーン
Dist. Atty. Norwalk
ストーリ
元麻薬王のカリート・ブリガンテは、親友の弁護士デイヴ・クラインフェルドの尽力によって、刑期30年のところ、たった5年で刑務所から出所する。そして、クラインフェルドの紹介でディスコの経営という仕事も早々にして得ることができた。しかし、彼が5年ぶりに見た街と人々は、仁義も信義も失い変わり果てていた。麻薬の取引では見境いのない殺人が横行し、かつての仲間は金のために平然とカリートを裏切ろうとする。
さらにカリートは、ベニー・ブランコというチンピラを殺害することができず、自らの老いを悟る。そんな街と人々にカリートは絶望し、周囲の期待をよそに南国バハマでレンタカー屋を営むという夢を叶えるため、堅気の生活を送りながら貯金に精を出す。さらに、かつての恋人・ゲイルとのよりを戻し、夢へと一歩一歩近づいていく。
そんな中、クラインフェルドが「マフィアのボスの脱獄を手伝ってくれ」という依頼を切り出してきた。カリートは、かつて自分の裁判の際に弁護士として刑を軽くしてくれた恩義のため断ることができず、ゲイルの制止を振り切って頼みを承諾する。決行当日、コカイン漬けのクラインフェルドを見たカリートは、嫌な予感を覚える。そしてその予感は的中、クラインフェルドは突如として暴走し、ボスと見張り役のボスの息子を惨殺してしまう。クラインフェルドの凶行にカリートは激怒、彼にもう借りはないとしてその場を立ち去る。
しばらくしてクラインフェルドは、マフィアからボス殺しの報復として襲撃され負傷する。一方、カリートは検察に召喚され、カリートが服役している間にクラインフェルドが数々の犯罪に手を染めた大物犯罪者になっていたことや、彼が嘘の証言で自分を売ろうとしていたことを明かされる。検察は「免罪の代わりにクラインフェルドを計画殺人罪に問う証言を行う」という司法取引に応じるかどうか、翌日の昼までに決断するようにカリートに迫る。
カリートは、帰り道で突然マイアミ行きの夜行列車の切符を購入し、全ての有り金を持って今夜中にバハマへ旅立つことをゲイルに告げる。ゲイルが妊娠し、今夜旅立つという時に怒りを隠せなかったカリートは、彼女を先に駅へ行かせ、自らはクラインフェルドの病室に向かう。
クラインフェルドは、カリートが自分を殺しにきたのではと警戒し彼に銃を向けるが、カリートは言葉をかけるだけで何もしなかった。その後、今度はマフィアの殺し屋がクラインフェルドの病室にやってきた。クラインフェルドは銃で応戦しようとするが、銃の弾丸が抜かれていた。カリートの策略にまんまとはめられたクラインフェルドは、無様に射殺されてしまう。
カリートは金を持ってゲイルの待つグランド・セントラル駅に急ごうとするが、彼の前にマフィアのボスの次男ヴィニーが立ちはだかる。追撃をかわしながら駅に辿り着き、壮絶な銃撃戦の末に彼らを倒したカリートだったが、乗車する直前に自分の用心棒バチャンガとベニー・ブランコが現れ、カリートは撃たれてしまう。
今際のカリートはゲイルに金を託し、「お腹の子供と2人で街を出ろ」と言い残す。それまでの人生が走馬灯のように脳裏を駆け巡る中で、カリートは静かに息を引き取る。彼が最期に見たものは、かつて夢見たパラダイスを写し出した看板だった。
音楽
パトリック・ドイルがオリジナルのスコアを作曲し、ミュージカル・スーパーバイザーのジェリービーン・ベニテスがサウンドトラックにサルサ、メレンゲ、その他の本格的なスタイルを追加した。
サウンドトラックに収録されたジョー・コッカーの主題歌"en:You Are So Beautiful"は、ゲイルのアパートのシーンと映画のエンドクレジットで使用されている。
作品解説
原題“Carlito's Way”はフランク・シナトラの「マイ・ウェイ」にちなんでつけられたが、劇中に「マイ・ウェイ」は一回も使われていない。
生い立ちから30代までのカリートを描いた『カリートの道』と40代のカリートを描いた『それから』が原作としてクレジットされているが、映画で描かれているのは主に『それから』の部分である。
『それから』をベースにしているのに映画のタイトルが『カリートの道』なのは、『それから』と原題が同じマーティン・スコセッシ監督の『アフター・アワーズ』(After Hours)との混乱を避けるためである。
カリートとイタリアン・マフィアとの電車でのシーンは、予算の都合で見送られた『アンタッチャブル』のクライマックスシーンを応用している。
クライマックスの銃撃戦が行なわれるエスカレーターは、ニューヨークのグランド・セントラル駅に実在する。映画では非常に長いエスカレーターに思えるが、実際はかなり短い。これはデ・パルマの得意とする撮影テクニックであり、『アンタッチャブル』の乳母車のシーンにもその手法が使用されている。
- 第二次世界大戦:推定5,500万人
- 第一次世界大戦:約1,000万人
- アジア太平洋戦争:約300万人(日本)
- 第二次世界大戦における枢軸国側の死者数:
- 日本:230万人
- ドイツ:422万人
- オーストリア:25万人
- イタリア:30万人
- 日本:230万人
- 第一次世界大戦における連合国側の死者数:
- ロシア:170万人
- フランス:135万8000人
- イギリス:90万8000人
- ロシア:170万人
2024年に入っても、ウクライナ戦争は依然として終わりが見えず、パレスチナのガザ紛争は激化しており、民間人死傷者数などさまざまなデータが伝えられている。
また、コロナ禍においても「どの情報が正しいのか」と疑問を感じた人も多いだろう。この機会に、『戦争とデータ ―死者はいかに数値となったか』を通して、発表されるデータの重要性や向き合い方について考えてみてはいかがだろうか。
- 五十嵐 元道 ─
国家の指導者が違法な戦争の意思決定にかかわった場合、そして、現場で戦っている兵士が国際法のルールに反するような形で損害を発生させた場合に「個人の刑事責任」が問われるものです。いわゆるジェノサイドと呼ばれる「集団殺害犯罪」、「人道に対する犯罪」、狭義の「戦争犯罪」、そして「侵略犯罪」。4種類に分類できます。
「集団殺害犯罪」(ジェノサイド)というのは、ある集団の全部または一部を破壊する目的で人の殺害などをすることで、典型例はナチスによるユダヤ人虐殺です。
ユダヤ人をターゲットにしている部分があったので「集団殺害犯罪」の典型ということになります。
「人道に対する犯罪」
【ダイヤモンド・オンライン】2024年に深刻化する世界の「5つの分断」リスク、平和と安定のための処方箋
2024年01月17日 田中均・日本総合研究所国際戦略研究所特別顧問
|世界はより深刻な分断の瀬戸際
|「権威主義国VS民主主義国」の衝突回避を
ロシアのウクライナ侵攻を契機にしたウクライナ戦争は泥沼化したまま2024年は3年目に入り、パレスチナのガザ地区ではイスラエルの激しい攻撃のもとで住民が悲惨な状況で新年を迎えることになった。だが世界は2つの戦争を巡っても各国の対応は一致せず、むしろ対立色を強めている。
いまの世界や国際情勢を語る際のキーワードは「分断」だ。2000年代以降、各国が相互依存関係で結ばれ新興国や途上国も成長の果実を得たグローバリゼーションの時代は終わりを迎えるということなのだろうか。いまはグローバリゼーションとともに飛躍的に台頭した中国と米国との対立が時代の基調となり、24年の世界は「5つの分断」に振り回されることになりそうだ。ロシア・ウクライナ戦争やイスラエル・パレスチナ戦争のほか、衝突の危機が続く朝鮮半島、中国と台湾の緊張関係、そして米国内の激しい党派対立だ。この5つの分断はいずれも簡単な解がない。そして成り行き次第では、中国とロシアが先導する権威主義国家群とG7を中心とする先進民主主義国群のより大きく深い分断となっていく恐れもある。これは冷戦にとどまらず熱戦のリスクを秘めている。
世界は分断やその深刻化を克服できるのだろうか。
|グローバル化の下での相互依存は一転
|分断の背景に歴史的怨念
グローバリゼーションは政治の壁を突き破り、ヒト・モノ・カネが縦横に動き回ることによって、多くの国に経済的繁栄をもたらした。貿易量は拡大し、途上国とされていた国の中では人口の大きい中国やインドなどが新興国として台頭した。各国は相互依存関係で結ばれ、平和と安定の世界に向かうのではないかと思われた。状況が一変した背景には、根深い歴史的経緯がある。
ウクライナ侵攻を決めたロシアのプーチン大統領は「ソビエト連邦の崩壊は20世紀最大の悲劇」と述べた。ロシアは歴史的に根深い大国志向の国であり、ロシアが第二次世界大戦戦勝記念日として軍事パレードを行うのはロシア自身がナチスドイツを打ち破った5月9日だ。米国との冷戦に負けソ連を構成していた国々が次々と西側に入っていく中で、伝統的なロシアの価値観を持つプーチン大統領には、ロシア人の人口も多いウクライナがNATO(北大西洋条約機構)に傾斜していくのは許せないとの思いは強いだろう。
ロシアの軍事侵攻は、第二次大戦後の国際秩序の基本となった国家主権の尊重、そしてそれを基に進んできたグローバリゼーションとは真逆のものだが、3月に予定されるロシア大統領選挙ではプーチン氏が圧勝することになるのだろう。そして36年までの長期政権を視野に入れているプーチン大統領は現在のウクライナ全土の20%に当たる占領地を手放そうとはしないのだろう。
イスラエルの右派ネタニヤフ政権も国際社会の圧力に屈してハマスに弱みを見せることはないだろう。1948年にパレスチナの地にイスラエルが建国されて以降、イスラエル、パレスチナのお互いが歴史的怨念を持つ。イスラエルにとっては、ハマスのテロに対する徹底的なガザ攻撃は、4次にわたる中東戦争以来、続いてきたパレスチナとの闘争の続きに過ぎない。
朝鮮半島も、南北双方で300万人の死者を出すという同じ民族間の戦争では他に例を見ない朝鮮戦争が休戦状態にあるだけで、何時火を噴いても不思議ではない。韓国、北朝鮮双方で政権が代わろうとも根っこにある怨念が解消されるわけではない。
中国と台湾の関係も不安定な状況が続くだろう。習近平中国共産党総書記は中華人民共和国創建100年の2049年までに実現すべき「中国の夢」を掲げる。中国が米国と並ぶ豊かな国になるという目標には台湾統一は不可欠だと考えられているのだろう。1月の台湾の総統選挙の結果、民進党の頼清徳副総統が勝利し、中国と距離を置く民進党政権が3期連続で続くことになったが、中国の対台湾圧力は強くなっていくだろう。台湾海峡で直ちに火を噴くわけではなかろうが、この地域の軍事バランスは中国有利に変わりつつあり、時と共に軍事行動の懸念が高まる。
|分断深めた米国の抑止力・指導力の低下
|トランプ氏意識してバイデン政権内向きに
グローバリゼーションは、米国の課題設定能力と指導力により実現してきたものだった。また、根の深い分断が衝突に至るのを止めてきたのは米国の抑止力だった。しかし、この20年の間に米国の抑止力や指導力は著しく低下した。01年9月11日に起こった同時多発テロは実に大きなインパクトを持っていた。米国が始めた2つの戦争――テロとの戦いとイラク戦争――は、膨大な人的・財政的コストを費やしたが、十分な成果を上げることはできなかった。20年後、米軍の撤退とともにアフガニスタンにはタリバンが戻り、イラクの民主主義的安定がもたらされたわけではなかった。米国国内には厭戦(えんせん)気分が充満し、戦争を始めたブッシュ大統領以降のオバマ、トランプ、バイデン各大統領に課せられたのは米軍の撤退だった。
バイデン大統領はプーチン大統領がウクライナ侵略を企図しているのを知りながら、米軍を派遣するつもりはないと言い切り、ロシアの侵攻を許してしまった。抑止力は、相手に「米国は戦争をする用意がある」と信じさせる力である以上、バイデン大統領が国内的考慮から派兵を否定したのが果たして適切であったかどうか。米国の強い抑止力を背景にさらに政治的解決を追求するべきだったとの議論も成り立つ。ガザについてもイスラエルの強硬なガザ攻撃を止めることができないのは、やはり米国内のユダヤロビーの強い影響力があるからだろう。
バイデン民主党政権がかくも内向きになっているのは、11月の大統領選挙に向けて支持を高めつつあるトランプ前大統領の存在があるからだ。トランプ氏は一貫して「偉大な米国を取り戻す(Make America Great Again)」の旗印の下、「米国第一政策」を掲げてきた。その旗印の下では国際的協調や国際的規範の重要性はかすむ。
米国が第二次世界大戦後に一貫して進めてきた「自由貿易」もトランプ政権以降、国家安全保障の観点からの修正が目立ち出している。トランプ大統領は国家安全保障の観点からアルミや鉄鋼に輸入関税を課し、バイデン大統領になってからも「経済安全保障」を前面に、ハイテク、特に半導体の規制を進めてきた。WTO(世界貿易機関)上も国家安全保障の観点からの規制が否定されているわけではないが、これが行き過ぎると自由貿易主義は大きく後退していく。
|大統領選挙の結果にかかわらず
|米国内の分断は深まる
その意味では、11月に予定されている米国大統領選挙は、結果次第では世界の分断をさらに進めることになりかねない危うさを抱える。民主党はバイデン大統領、共和党はトランプ前大統領が候補者として選出される見通しで、現段階では大統領選挙本選は接戦となりそうだ。この数カ月の動向としてトランプ前大統領が有利とする世論調査が多い。
ただ4件の刑事訴訟を抱えるトランプ氏への支持が根強いのは、グローバリゼーションも含めて国内で推進されてきたリベラルな秩序づくりに対する保守層の根強い反発があるからだ。その意味ではどちらが勝利しようとも米国内の政治的分断は深まっていくと予想される。もしトランプ氏が勝利する場合には、2期目のトランプ政権は1期目以上にトランプ色を強くするだろうし、対外的にもアメリカ第一主義が色濃く打ち出されることが懸念される。
|分断深刻化の鍵を握る中国
|抑止力強化と関与のハイブリッド戦略を
最も懸念されるのは、こうした「5つの分断」が、米国を核とする先進民主主義国と中国とロシアを中心とする権威主義的グループのグローバルな分断に至ってしまうことだ。これは世界が政治的にも経済的にも2つに分断されることを意味する。日本をはじめ多角的な経済貿易体制に依存している国々にとっては何としても避けたいところだ。
どうすればいいのか。
しかし、抑止力の強化だけがグローバルな分断阻止の処方箋ではない。鍵を握るのは中国であり、中国がロシアと本格的な連携に至れば、グローバルな分断阻止は難しくなるし、朝鮮半島でも台湾海峡でも衝突の危険性が増す。中国を過度に追い込むのではなく、日本はむしろ経済面では中国に積極的な関与政策をとるべきだろう。
こうしたハイブリッド戦略は23年11月の米中首脳会談で一致したと伝えられる「対立しても衝突せず」という基本的な認識にも合致していると考えられる。しかしこの戦略もトランプ政権が誕生すれば困難になっていくと予想される。バイデン政権の下でできるだけハイブリッド路線を定着させていくことが決定的に重要だ。
ダイヤモンド・オンライン「田中均の世界を見る眼」
https://diamond.jp/articles/-/337338
- 国際戦略研究所
- 国際戦略研究所トップ
このレースは、1番人気で決まる、つまり本命サイドで決まると思い込んでしまう。
そこに、競輪の落し穴があるのだ。
競輪は一筋縄ではいかないのである。
そこに、ギャンブル性があるわけなのだ。
GⅢ 川崎競輪 大阪・関西万博協賛
初日(10月11日)
1レース
1番人気 5-1(3・6倍)
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2レース
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3レース
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1番人気 5-9 (2・4倍)
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11レース
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12レース
2-7を買ったら裏目に!
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