17日に投票が行われた兵庫県知事選挙は、出直し選挙に臨んだ前知事の斎藤元彦氏が再選を果たしました。
斎藤氏はパワハラの疑いなどで告発された問題で県議会から不信任を議決され、失職しましたが、今回、再選への原動力になったとも言われているのが、SNSでの発信です。
ニュース7 失職の斎藤氏再選 兵庫県知事選で何が
17日に投票が行われた兵庫県知事選挙は、県議会から不信任を議決され、失職して臨んだ前知事の斎藤元彦氏が111万票余りを獲得し、2回目の当選を果たしました。
一夜明けた18日、斎藤氏は神戸市内で記者団の取材に応じ「少しまだ実感がわかない面もあるが、本来であれば来年度予算案の編成作業が佳境に入っている時期なので準備をしていきたい」と述べました。
その上で「県議会や県職員との関係をもう一度、しっかり前に進めていく。選挙では、告発文書をめぐる問題も争点になったが、どのような政策を進めていくかが大事だ。議会や職員も同じ思いだと思うので、しっかり議論し、コミュニケーションをとっていく」と述べました。
また、告発文書をめぐり、県議会の百条委員会が事実関係の調査を続けていることについて「県としての対応は適切で法的にも問題なかったというのが私の見解だが、調査には必要に応じて協力をする」と述べました。
YouTubeで小学校時代のエピソードも
今回、政党からの推薦や支持がなかった斎藤氏は、YouTubeやXなどSNSでの発信にも力を入れ、実績や政策のほかにも、生い立ちや小学校時代のエピソードなども織り交ぜました。
斎藤氏は今回の選挙について「SNSなどを通じて、駅での活動に集まってくれる人が少しずつ増えていった。SNSは1つの大きなポイントだった」と述べました。
「SNSや動画サイトを参考にした」30%に
今回、再選の原動力になったとみられるSNS。
NHKの出口調査で、投票する際に何を最も参考にしたか聞いたところ「SNSや動画サイト」が30%と、テレビや新聞よりも多くなり、このうちの70%以上が斎藤氏に投票したと答えています。
「政策、公約」「改革姿勢」を重視
また、投票で重視したこととして「政策、公約」や「改革姿勢」といった回答が「県政運営の安定」よりも上位に来ていて、いずれも半数以上が斎藤氏に投票したとしています。
対立候補が訴えた「県政の立て直し」が有権者に強く響かなかったとも言えそうです。
誤情報 否定してもSNSで拡散する状況も
今回の兵庫県知事選挙では、誤った情報だと否定してもSNSで拡散する状況が見られました。
例えば今回の選挙の告示を控えた10月下旬からXでは「稲村氏が当選したら外国人参政権を推進する」という情報が広がりました。
これについて稲村氏は11月8日、YouTubeで否定し、9日にも自身のウェブサイトで「発言しておらず、知事選とも関係ありません。多文化共生のための包摂的な社会づくりが必要であることは言うまでもありませんが、そのことと外国人参政権を推進することは別問題です」と否定しています。
ところが、NHKが分析ツール「Brandwatch」で調べたところ、Xで稲村氏の名前とともに「外国人」と「参政権」に言及した投稿は、17日までの1か月間でリポストを含めて10万件を超えていました。
誤った情報だと否定する投稿も見られましたが、稲村氏について「外国人参政権を認め出す」と主張する投稿は70万回近く「当選したら外国人の地方参政権が成立」と主張する投稿は50万回以上閲覧されていました。
なかには地方議員が発信しているケースもありました。
一方で、斎藤氏のパワハラの疑いなどについて「えん罪」だと主張する動画がTikTokで58万回見られるなど「デマ」だとする投稿が相次いだほか、既得権益と戦っているなどとして、対立の構図で描くような投稿も多く出され、斎藤氏を「正義のヒーロー」とするXの投稿には50万回近く見られたものもありました。
また、候補者に対するひぼう中傷のコメントもみられ、稲村氏のXの公式アカウントの投稿には「兵庫県を潰す人だ」とか「消えてくれ」などといったコメントがつけられていました。
斎藤氏のXの公式アカウントの投稿にもひぼう中傷のコメントはつけられていましたが、支持を表明し激励するコメントが多数を占めていました。
専門家「既得権益との“対立構図” 拡散しやすく」
SNSなどの情報の流通に詳しい国際大学の山口真一准教授は、斎藤氏への支持が広がった背景について、SNSでは既得権益との「対立の構図」で語られ、拡散しやすかったとしています。
山口准教授は「SNSを観察していたら、ある時から急激に『斎藤さんは実は既得権益と戦っている』といった擁護の言説がどんどん増えていった。既得権益という“悪”に“正義”である斎藤氏が戦いを挑んでいるといった構図で語られていた。こうした対立構図の背景にある『正義』や『怒り』はSNSと非常に相性がよくて拡散しやすい」と指摘しました。
そのうえで今回の選挙結果について「以前はSNSで盛り上がってることと社会の意見分布とは乖離があったが、かなり近づいてきている。SNSの言説が世論に近づいている部分があるというところを示している」と話しています。
山口准教授は、懸念されることとして政策の中身よりも、センセーショナルで分かりやすい情報や誤った情報によって適切な判断が損なわれることを挙げたうえで、SNSで対立の構図や極端な言説が拡散されて社会の分断が進むと合意形成が難しくなり、選挙後にも市民どうしが対立する事態につながるおそれがあるとしています。
さらに、山口准教授は選挙へのSNSの影響は今後も大きくなっていくという見方を示し「SNSも参考にしていいが、それだけでなく冷静になってしっかりと各候補の政策を確認したうえで、自分で投票先を決めることはとても重要だ。また、今回の選挙でも真偽不明の情報や誤情報も多く見られたなかで、マスメディアはしっかり情報を検証してわかりやすく報じていくことに力を入れて欲しい」と述べました。
百条委 今月25日に証人尋問へ
一方、斎藤前知事がパワハラの疑いなどで告発された問題で、事実関係を調査する県議会の百条委員会は18日、今月25日に斎藤氏など4人に出席を求め、証人尋問を行うことを決めました。
百条委員会では、年明け以降に調査報告をまとめたいとしています。
兵庫県議会 議会運営委員長「関係修復が非常に大事」
兵庫県議会の内藤兵衛議会運営委員長は記者団に対し「民主主義の根幹である選挙を通して斎藤さんが当選され、県民の民意を得たので、最大限、尊重しなければいけない。議会や県職員との関係修復が非常に大事で、斎藤さんも当然、汗をかかなければならないし、議会としても政局で対立するのではなく、同じベクトルに向かって県政の混乱を収束させていく努力が必要だ」と述べました。
自民党兵庫県連「緊張感持って迎えることになる」
自民党兵庫県連の幹事長を務める黒川治県議会議員は、記者団に対し「不信任を議決された前知事が戻ってくるということは、大変、緊張感を持って迎えることになる。コミュニケーションの取り方が議会に対しても不足していたというコメントがあったと思うので、改めるところは改めて気をつけてもらい、議会としても、政策的に進めるところは進め、ギクシャクしたわだかまりをお互いがなくしていく努力をしなければならない」と述べました。
維新の会兵庫県議団「予算や政策 是々非々で」
維新の会兵庫県議団の岸口実団長は記者団に対し「斎藤氏の再選が民意なので尊重したい。議会ともコミュニケーションをとっていくと表明しているので私たちも予算や政策に是々非々で対応していきたい」と述べました。
林官房長官「有権者が多様な情報から判断」
林官房長官は午後の記者会見で、兵庫県知事選に関連して、SNSが選挙に与える影響をどう考えるか問われたのに対し「個別の候補者の選挙運動について政府としてコメントは控えるが一般論として、民主主義の根幹として表現の自由がある中、選挙では有権者に多様な情報の中からみずからの意思に基づき判断してもらうことが重要だ」と述べました。
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