毎日新聞社説:
毎日新聞 2015年10月16日 東京朝刊
医療事故で死亡した時の原因究明や再発防止を目指す医療事故調査制度が今月から始まった。
遺族、医療機関双方の要望で実現した。遺族が不利にならないよう、制度が公正に運用されなければならない。
1990年代末以降、大学病院などで死亡事故が相次いで発覚し、医療不信が深刻化した。遺族が裁判を起こしても、真相究明には長い時間と労力がかかる。医療機関も医師が裁判で責任を追及されることに抵抗があり、第三者機関が関与する調査を望む声が両者から出ていた。
この制度は昨年6月の医療法改正でつくられた。全国約18万カ所の医療機関や助産所での「予期せぬ死亡、死産」が調査の対象だ。
「予期せぬ死亡」なら、医療機関は第三者機関である「医療事故調査・支援センター」(日本医療安全調査機構)に報告する。併せて自ら院内での調査を行い、遺族に結果を説明しなければならない。遺族は説明に納得できなければ、センターに再調査を依頼できる。
センターは年間1000〜2000件の死亡事故が医療機関から報告され、このうち遺族の依頼によって300件程度を独自に調査することを想定している。
制度の課題は、まず「予期せぬ死亡」について、適正な認定が行われるかどうかだ。死亡するリスクを医療機関が患者側に事前に説明したり、カルテに記載していたりすれば、「予期せぬ死亡」とならない可能性が残る。
患者側への説明が不十分だったとしても医療機関が「予期していた」と判断すれば、センターへの報告義務はない。
その場合、遺族はセンターに直接事故を届け出て調査を依頼することはできない。
また医療機関が院内で調査して結果を遺族に伝える際、報告書を手渡すことは努力義務にとどまり、「口頭、または書面、もしくは双方」とされた。報告書が医師への責任追及に使われるのではないかと一部の医療関係者が反対したからだ。
医療機関が死亡事故の調査や報告に及び腰になればどうなるか。かえって遺族の不信感は強くなり、裁判を起こすしか方法がなくなる。そうなれば制度本来の目的から外れてしまう。
医療機関が事故を公正にセンターへ報告すれば、センターは多くの事例を詳細に分析し、改善点を医療機関に広く伝えることができる。それは再発防止につながる。
患者の立場は弱い。制度の成否は医療機関が死亡事故について情報開示を誠実に行うかどうかにかかっている。
毎日新聞 2015年10月16日 東京朝刊
医療事故で死亡した時の原因究明や再発防止を目指す医療事故調査制度が今月から始まった。
遺族、医療機関双方の要望で実現した。遺族が不利にならないよう、制度が公正に運用されなければならない。
1990年代末以降、大学病院などで死亡事故が相次いで発覚し、医療不信が深刻化した。遺族が裁判を起こしても、真相究明には長い時間と労力がかかる。医療機関も医師が裁判で責任を追及されることに抵抗があり、第三者機関が関与する調査を望む声が両者から出ていた。
この制度は昨年6月の医療法改正でつくられた。全国約18万カ所の医療機関や助産所での「予期せぬ死亡、死産」が調査の対象だ。
「予期せぬ死亡」なら、医療機関は第三者機関である「医療事故調査・支援センター」(日本医療安全調査機構)に報告する。併せて自ら院内での調査を行い、遺族に結果を説明しなければならない。遺族は説明に納得できなければ、センターに再調査を依頼できる。
センターは年間1000〜2000件の死亡事故が医療機関から報告され、このうち遺族の依頼によって300件程度を独自に調査することを想定している。
制度の課題は、まず「予期せぬ死亡」について、適正な認定が行われるかどうかだ。死亡するリスクを医療機関が患者側に事前に説明したり、カルテに記載していたりすれば、「予期せぬ死亡」とならない可能性が残る。
患者側への説明が不十分だったとしても医療機関が「予期していた」と判断すれば、センターへの報告義務はない。
その場合、遺族はセンターに直接事故を届け出て調査を依頼することはできない。
また医療機関が院内で調査して結果を遺族に伝える際、報告書を手渡すことは努力義務にとどまり、「口頭、または書面、もしくは双方」とされた。報告書が医師への責任追及に使われるのではないかと一部の医療関係者が反対したからだ。
医療機関が死亡事故の調査や報告に及び腰になればどうなるか。かえって遺族の不信感は強くなり、裁判を起こすしか方法がなくなる。そうなれば制度本来の目的から外れてしまう。
医療機関が事故を公正にセンターへ報告すれば、センターは多くの事例を詳細に分析し、改善点を医療機関に広く伝えることができる。それは再発防止につながる。
患者の立場は弱い。制度の成否は医療機関が死亡事故について情報開示を誠実に行うかどうかにかかっている。