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今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。
「私は『才能』は天賦のものだと思っている。それなら千人に一人でオリンピックの選手を見れば分る。たいてい十代の青少年で、ハタチそこそこでなん百年という過去を自分のものにしてなお新しい記録を出している。十代で体力が絶頂なら、知力もまたそうである。才能は天賦だというと絶望するものがあるから、才能は根気だとか努力だとかいって慰めるのである。」
(山本夏彦著「世はいかさま」所収)
「私は各人に個性があることを前提とした教育は、間違いではないかと疑っている。人は個性ある存在ではない。人は大ぜいに従うもので、従ってはじめて安心するものである。従えと言って、断じて従わぬ個性はまれである。万一あれば大ぜいは、世間は、社会はそれを爪はじきする。すなわち、爪はじきされて、はじめて個性は頭角をあらわす。ちやほやされて育つ個性なんて、今も昔もないにきまっている。」
(山本夏彦著「二流の愉しみ」所収)
「いくら同時に採用されても、人には能と無能がある。進んで働く者と働かない者とがある。それが一律では不公平である。本当に才能ある者、進んで働く者は、五人に一人である。残る四人のうち二人は並で一人は並以下で、あとの一人は働いていると称して実は邪魔している者である。」
(山本夏彦著「変痴気論」所収)
「(入社試験で)成績のいい人と悪い人と並べてどっちをとるかと言われると、窮して成績のいいほうをとる。魔がさすんですな。」
(山本夏彦著「夏彦・七平の十八番づくし」所収)