今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。
「荷風の人物は彼が好んで援用した儒教的モラルからみれば低劣と言うよりほかない。それなのに荷風は今も読まれこれからも読まれ、日本語があるかぎり読まれるのは、ひとえにその文章のせいである。その文章は『美』である。荷風は日本語を駆使して美しい文章を書いた人の最後のひとりである。おお、私は彼を少年のころから今に至るまで読んで、恍惚としないことがない。些々たるウソのごときケチのごとき、美しければすべては許されるのである。
〔Ⅱ『美しければすべてよし』昭57・9・16〕」
(山本夏彦著「ひとことで言う‐山本夏彦箴言集」新潮社刊 所収)