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今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。再録。
「文字は言葉の影法師だとギリシャ人は見ていた。ソクラテスもイエスも問答しただけで自分は書いてない。書いたのは弟子たちである。本を読むのは死んだ人と話をすることだ。死んだ人は返事をしない。十年二十年たって読み返すとハタと思い当る。すでに書いてあるのを発見してようやく問答がなりたったのだ。
人間の知恵は古典に尽きている。それに加える何ものも現代人にはない。学ブニシカザル也と古人はそこまで言っている。けれども同じことでも同時代人の口から聞くのはまた格別である。だから本は少しは出てもいい。そんな本でも読む人は稀である。
〔Ⅹ『本屋近くつぶれる』平11・4・8〕」
(山本夏彦著「ひとことで言う‐山本夏彦箴言集」新潮社刊)
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