あなたの経営するラーメン店に,いつもイチャモンをつけてくる客がいる。
いわゆるモンスタークレーマーだ。
「今日は麺が固すぎるわ,これはないわああ,こんなんやったらおれ今日食いにこんかったわ」
「ねぎに虫ついとったで,逃げていきよったけどホンマにおったで!代金払わんとあかんの?」
「あっちのテーブルの客うるさいわ,飯くらい静かに食わしてくれよ頼むわ店長」
「椅子濡れとるし,,せやから俺の尻濡れてもーたやん,どうしてくれんねん,,もうええけど」
「今日出汁(だし)おかしいんちゃうん,ちゃんととれてるん?大将ちゃんと仕事しいやほんま,天狗なってるんちゃうか」
「あのバイトの店員愛想悪すぎるて,,俺が説教したろか?」
「俺ラーメンのホームページやってんねん,こんなんしとったらいろいろ書くことになるけどええんか」
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まあよく考えるなというくらいバリエーション豊かにぐちぐち言って来る。
食べにきたときは必ず何か言う。不平不満の総合商社だ(ソーリ!!)。
しかもほとんど言いがかりなのだ(ほんとなら仕方ないけどよ)。忙しいのに長々とそんな話をされて,こいつか来ると厨房が回らないし,場を離れると「最後まで人の話を聞け!」と怒る。いい加減ほかのお客さんにも迷惑がかかると考えたあなたは,それとなく入店拒否をちらつかせた。
するとどうか。
「なんやこの店。客を差別するんか。
俺誰や思てんねん,客やで客。
ほんま客商売わかってへんなお前,人権侵害やないんか。」
ニヒルな笑みを浮かべながら,どこかで聞いたことあるねちっこい攻撃をしかけてくるでないか。
この田舎ヤクザが,,ほとほとうんざりするあなたを尻目にそいつはこう言い残して店を去った。
「ほんま気分悪いわ,この店どうなってんねん。今日は帰るけどな,またくるよって」
来るんかい!!
こんでええわ!
あなたは是非とも今度こそ入店を拒否したいと考えている。
つまり断固としてこいつの入店を許すものかと心に誓っているのだ。
ただ,これって法律的にどうなの?
俺が悪者にされることってないよな?
クレーマーの,さっきの発言を思い出し,にわかに不安になってきたのである,,
よくあるケースですね,,世の中いろんな人がいます。
もちろん店のほうもいろいろなのでイチガイに何とも言えませんが,おかしなお客さんがいるにはいる。
面倒で,かかわっていると時間を食って,言ってることに理由がない迷惑なお客さんがいるものです。
さてそんな迷惑な客の入店拒否ができるか。できたとしても,こっちが悪者にされる(法的な責任と問われる)ことはないか。
入店拒否はしたいが,もっとややこしくなると嫌だなあ,,乙武さんの車椅子事件もあるしな,うちイタリアンじゃないけど(そこ関係ない)
今日はそのへんのことについてお話したいと思います。
今後,自分の中でちゃんとした判断基準をもって,正々堂々とこいつwを拒否したいと考えるなら是非とも以下をお読みください。
構成はこんなふうにシンプルです。
- 結論
- 理由
- 入店拒否したのに店に入ってきたらどうなるか
- 例外
結論
あなたは自由に,こいつwの入店を拒否することができます。
理由も細かく説明する必要はありません。
「すみません,当店では,諸般の理由から,お客様の入店をお断りさせていただきます」でよいです。
ただ,こういうことには気をつけてくださいね。
- お前の顔が嫌いやから。デブは嫌いやから。むかつくから。など,不用意な逆攻撃wはやめてください。不法行為で賠償請求されますよ。
- 最後の例外だけ,必ずチェックお願いします。
理由
根本的な理由
店のオーナーであるあなたには店を管理する権利があり,誰をお客さんとしようが自由だから。
誰をお客さんとしようと自由だからという部分,,
「誰をお客さんとして,どんな内容の飲食サービスの契約(飲食を提供するのも法律上は契約によります)を結ぼうが,
また結ぶまいが,あなたの自由だから」
と言い換えることができます。
こういうのを契約自由の原則といいます。
契約自由の原則って?
契約のことを決めているのは,民法という法律です。
契約については,民法の債権法というところに書いてあります。
日本の民法は近代法といって,自由な市民社会を理想とする考え方にもとづいて作られています。
なので何事も基本的には自由がよい,ただしやりすぎはダメよ,という建付けになっている。
契約というのは民法の中でも重要な位置を占めてます。
だから人の自由を尊重する色彩が強い。
そんな自由な契約法の大原則が,契約自由の原則です。
理想をまずどーんと打ち立てているんですね。
そのうえで,細かい修正とかをいろいろ入れていく仕組み。
じゃあその,,契約自由の原則か自由の女神か知らないけど,
それってどういうことなのかを今から説明します。
これを理解しておくと,あいつ(こいつとかあいつとかwクレーマーのことです)を理由なく
拒否していいという結論が腑に落ちるはずです。
契約自由の原則は,だいたい四つの要素からなります。
◎締結の自由
そもそも契約をするかどうか自体が,あなたの自由だってこと。
飲食店風の店を作ったからといって何もしなくてもいいんですw店を開店して客を入れるかどうか,
飲食を提供する契約をするかどうか,それ自体あなたの自由なんです。
あ,オーナーから店やれっていわれてる店長は店やらないといけないのでお願いしますねwオーナーと
店をちゃんとやる契約してるので,休む自由はないですよ。
ただしいくつか例外があります。理由は分かりますよね?
国民が困るからです。
- 電気,ガス,水道,運送(バス・タクシー)などの独占企業は,たとえ民営化されていても,基本的に契約を拒否できません。
- 医師,公証人などの公益的な職業人も,正当理由がないと契約を拒否できません。
◎相手方選択の自由
これ大事。
今の話です。
要は,誰と契約しようがあなたの自由だってこと。
だからあの人は店に入れるけど,あいつは嫌いだから店に入れない,
つまり飲食サービスを提供する契約をしない,というのは自由。
誰を客として契約しようが,あなたの自由だってことです。
お客の立場に立てば分かりやすいはず。
同じような飲食店がたくさんあって,お客がどの店を選ぶかは自由ですよね?
なのになぜお店には自由がないのかという話です。
そんな訳ない,と。
お店にだって,客を選ぶ自由があるんです。
お客とお店は,平等・対応じゃないと困りますよね。
だから入店拒否するのに理由は要らないんです。
民法の契約法の大原則に,契約自由の原則というのがある。
契約自由の原則には,相手方選択の自由が含まれる。
これでOK。
これこそが入店拒否していい理由です。
◎内容の自由
大事なところは終わったけど最後まで行きましょう。
次は内容の自由。
どんな内容の契約を結ぼうが,相手と合意できる以上いいんです。
例えばAさんにはAランチ1000円で出すけど,Bさんには1500円でもいいんです。
Bさんがそれでもいいっていうならよいのです(そんな店ないし,Bさんもいいと言わないと思うけどw)。
ただしこれにも例外がある。特別の法によって自由が制限される場合があります。
- 利息制限法など政策目的から経済取引に制限をかけることがある
- 借地借家法など,弱者保護の観点から,契約期間や更新などに制限をかけることがある
- ガス会社や電力会社など公共的な独占企業の契約内容に制限をかけることがある。例えば,電気料金を上げようとしても役所の認可がいるなど
など
◎方式の自由
最後に方式の自由。
契約は口頭でも成立するって聞いたことあると思いますけど,そういうこと。
口頭でも,書面でも,契約の方式は自由ですよというのがこれ
(契約書を作るのは,義務ではないけど,証拠を残すためにあえてやっていること)。
この方式の自由にはたくさんの例外がある。
世の中複雑になって,どんどん例外が増えている。
つまり書面化が求められている。
- 保証契約は書面でしないと効力が生じない
- 不動産売買契約は登記をしないと効力を確定できないので一種の方式的制約がある
- 借地借家法による定期借地契約などを締結するには書面が必要
- 手形などの有価証券は細かく方式が決まっている
- 宅建業者の重要事項説明(書面交付を含む)の義務化
- 労働協約を結ぶには書面が必要
などたくさん
入店拒否したのに店に入ってきたらどうなるか
入店拒否できるのは分かったと。
じゃあ,あなたの制止を振り切って,
奴(もはや奴呼ばわりwクレーマーね)が無理やり店に入ってきたらどうなるのかについて説明します。
民事的には
あなたの所有権なり,利用権なり,店の管理権を故意に侵害して入ってきているので,
奴に不法行為が成立します。
なので,あなたは奴に対して,これによって被った損害の賠償を請求できます。
ただ,いくらの損害があったかと聞かれると難しいところですけどね。
民法709条(不法行為)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
刑事的には
無理やり入ってきたり,求めても帰らなければ,それだけで一応刑事事件なので,
警察に電話して来てもらってください。
他にもクレーマーの行動次第でいろんな罪に該当する可能性があります。
簡単に場合分けしておきますね。
- 拒否しているのに無理やり入店すれば,住居侵入や建造物侵入罪
↓
- 帰れといって帰らなければ,不退去罪
↓
- 居座ってあーだこーだいい,業務に支障が出れば業務妨害罪
↓
- 物理的に妨害などしだすと,威力業務妨害罪
↓
- 「こん店最悪や」「最悪最低の店や!クソみたいな店や!」などと言いふらせば,侮辱罪
↓
- あること無いこと言いふらしたり,ネットに書き込んだりすれば,名誉毀損罪
↓
- 「ここのラーメン虫入りやで!ぜったい食ったらあかんで!」などと言いふらせば,信用毀損罪
↓
- 「こんな人権侵害する店は絶対潰してやる」「ヤクザをよこすぞ」などと言えば,脅迫罪
↓
- 「許して欲しければ分かってるな?金よこせ」などと言えば,恐喝罪(未遂)
刑法130条(住居侵入等)
正当な理由がないのに,人の住居若しくは人の看取する邸宅,建造物若しくは艦船に進入し,
又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は,
3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
同222条(脅迫)
生命,身体,名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は,
2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
2項省略
同230条(名誉毀損)
公然と事実を適示し,人の名誉を毀損した者は,
その事実の有無にかかわらず,3年以下の懲役若しくは禁固又は50万円以下の罰金に処する。
2項省略
同231条(侮辱)
事実を適示しなくても,公然と人を侮辱した者は,拘留又は科料に処する。
同233条(信用毀損及び業務妨害)
虚偽の風説を流布し,又は偽計を用いて,人の信用を毀損し,
又はその業務を妨害した者は,3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
同234条(威力業務妨害)
威力を用いて業務を妨害した者も,前条の例による。
同249条(恐喝)
人を恐喝して財物を交付させた者は,10年以下の懲役に処する。
2項省略
例外
さてここまで入店拒否は自由!
理由はいらない!
それでも店に入ってきたら,損害賠償請求ができるし,場合によっては刑事事件になるよということを書きました。
つまり,一方的に店主のあなたの肩を持ってきたわけですwだから分かってるな?
お金を,,いやいや冗談ですw
基本的にこれで正解,何の問題もないんですが,
モンスタークレーマーの入店拒否はいいとして,
入店拒否全般がフリーパスで認められるわけじゃないんです。
奴の撃退成功に味をしめて,調子に乗っていろんな人の入店拒否ルールを作りすぎるのは止めたほうがいいでしょう。
えっと,,どういうこと?
話がちがうじゃん。
たくさん作ったらダメってこと?
量の問題?
違います。質の問題です。
何の合理的な理由もなく,特定の属性の人の入店を,一律に拒否するようなルールは,
公序良俗に反して無効になったり,そのルール適用が不法行為になって,
お客から損害賠償請求を受ける可能性があります。
特に人種による差別はできないと考えてください。
このあたり,憲法が保障している人権の価値の尊重を,
どうやって私人間の取引にも適用していこうかという問題として論じられます
(憲法は本来国家と私人の関係を規定するもの)。
法律論はかなりややこしいのでこれまでにして,
入店拒否のルールの「アリ・ナシ」を簡単に整理してみます。
アリ)
- 公衆浴場で,刺青入りの,やんごとなき(仁義はありきw)お方の入浴を一律禁止
- 同じく昔の菅原文太(松方弘樹でも可)な方のお断りをしているオーセンティックバー(クラシカルなバー)
- 一流レストランでドレスコードを決める。Tシャツ短パンは言うに及ばず,ノーネクタイの人(良質のジャケパンでも)も入店禁止にする
ナシ)
- 公衆浴場で,外国人を一律お断りにする
- 身体障害者の補助犬(盲導犬など)の入店を理由(施設やほかの利用者が著しい損害を受ける場合)なく拒否する
身体障害者補助犬法に関する政府広報
確認します。
合理的な理由なく,特定の属性の人を一律に遠ざけるようなルールは否定されることがある。
また慰謝料など損害賠償請求をされる可能性がある。そゆことです。
キーワードは,「合理的な理由なく」と,「一律に」のコンボ。これが揃った入店拒否は,しないほうがいいでしょう。
◎念のために,,,
今日は自由自由っていいましたけど,入店拒否が自由であることと,
お店が繁盛するかどうかは別問題ですのでそこは注意してくださいね(当たり前ですが)。
問答無用で入店拒否を連発していたら,へんな店だなあと思われること請け合い。
ちゃんとした理由のあるドレスコードだって,
最近はめっぽう評判が悪く,高級店でもあまり聞かなくなった。
ましてや何の理由もなくお前はダメ,お前はダメなんてやってたら,
やっぱり誰も来なくなりますよね,,
自由には責任が伴います。
くれぐれも経営判断を間違わないようにお願いしますね
(言われなくても分かってるよ,ですよねw)