かつて私はこんな文章を書いたことがある。
「踏めば自転車は進む。それは人生のようだ。」
http://blog.goo.ne.jp/19960408/d/20090508
当時、自らがこの世界に足を踏み入れるとは思わなかった。
人生は不思議だ。
そして楽しい。
お
ケツさえ痛くなければ…
総走行距離が400キロを超えた頃、私は静かに口を開いた。
「ねえ、ガチオ君? 僕にひっついてるお尻は、本当に僕のお尻かい?」
ガチオ君は答えた。
「兄さん、僕のお尻にも、なにか凄く痛いものがひっついているようです…」
そして二人は走り出す。
それも人生のようだ。
わはは。
しかしまあ、遠いねえ、600キロ。
二昼夜かけて、広島~宇和島~松山と走り、420キロぐらいか。
復路はまあまあのペースで走ったつもりだけど、やはり脚は削られ放題。
もちろん俺たちばかりじゃない。
道沿いのコンビニはこんなヒトばかりだよ。
で、賢明なるガチオ君、いいことに気付いた。
「兄さん、僕たち、このままじゃ次のCP(チェックポイント)で足切りされますよ」
マヂか、と!
そういえばそうだ。菊間のコンビニは6時32分までに通過しなくちゃなりません。
このままぢゃアウトっす!
狂ったように鬼踏みし始めるガチオ君。
泣きながら追いかける小生。
明け方の海岸線を、バカたちは突っ走ります。
ひいひい、ゼイゼイ!で1時間。
いやあ、かろうじてミッションクリアっす。
もう、この辺、ブルベ前と併せて50時間以上寝てないわけ。
ただでさえバカなのに、もう
ホームラン級のバカですよ、あたしたちゃ(笑)
まともに考えろってのが無理だwww
ただ、菊間のトラップは乗り越えたものの、小生、こんな風に考え始めていました。
「このままだと、完走は出来ても、タイムアウトの恐れはあるなあ」って。
俺もヘロヘロだけど、実はガチオ君も結構、キテる。
35時間後ろから見てると、彼のペダリングも次第に弱々しくなってきてるのよ。
それでも、坂含みの感じになると、遅れちゃう俺を待ってくれている。
この感じで行くと、共倒れもあるなあって。
うーむ、やばい。
で、ご提案。
「ガチオ君、君はもう先に行きなさい。僕も完走はするから、ゴールで待っててよ」
「いや、一緒に走りましょうよ」ってガチオ君。
俺 「ありがたいけど、せっかくここまで走ってきたのが無駄になっちゃうよ。ゴールで会おう」
そんなやりとりの末、ロミオとジュリエットは涙の別れ。
互いに別々の人生を歩み出したのでした…
で、のんびり走り出した俺様。
タイムアウト上等!って勢いで、しまなみ海道へ。
しばらく自分のペースでのんきに走ってたら、あれ?
待ってるじゃん、こいつ…
ガチオ君、
「やっぱ、一緒に走りましょうよ」って。
バカじゃないの、まったく…
で、日が高くなるにつれ、新たな刺客も!
そう、暑いの(笑)
俺は初日から、ミネラルウオーターを買ってはアタマからぶっかぶってたけど、ついにガチオ君も同調。
しかし、かぶった瞬間から乾いていくって感じだよね。
いやあ、まったく…
そして500キロ。
二人とも、しまなみの取り付け道でインナーに落とすほどの消耗ぶり。
フツーのサイクリストにことごとく抜かれていきます。
「あのね、私たちはね、ふだんはもう少しだけ速いんですよ」
二人でぶつぶつ呟きながらのあと100キロでございます。
多々羅大橋の上で、kazuyさん、凹ちゃんグループと邂逅。
そんな予感もあったんだけど、もうボロボロで気の利いた受け答えも出来ず。
いただいた冷えた
オロナミン、胸に染み入りました。
お尻はもちろん
オロナインが染み入っていたわけなんですが…
ムダにダンシングしながら進む俺たち。
もちろん元気なわけじゃありません。
お尻が痛いから。なんかやってないと意識が飛びそうだから。
いやあ、なかなか辛いぞ、これは(笑)
で、図らずも、最後のチャンス?がめぐってきました。
「氷買うから先行しておいてください」とガチオ君。
案の定、因島でコースミスする私。ガチオ君が先行する展開となりました。
追う俺様。 しかし、ちょっとした坂も、もはや這うように。
いつも定点観測してるひょっこりひょうたん島さえ、ちゃんと撮れませんねw
そしてこれだ(笑)
サイコンは高く出るもんだけど、38度はやばいだろ。ぷぷぷ。
どうせ、
バカはその先で待ってるし、このままじゃ共倒れ。
2時間ほど考えていた台詞、ついに口にすることにいたしました。
ガチオ君にお電話です。
「あのさあ、俺、リタイアするわ。では、君は絶対、ゴールするように。以上終わり!」
そしてFBにこの写真を投稿し、「リタイアなう」と。
最後まで一緒に走ろうとしてくれた「弟」の思いに応えられず、
しかも待たせるだけ待たせて、彼を窮地に追い込んでいる俺。
情けないにもほどがある。
悄然と渡船に乗り込む私だった。
540キロ。
「旅」は終わった…
10分後、「きゃはは、うめーーーーー!」とはしゃぐオトコありけり(与謝蕪村)
尾道駅前のおしゃれなカフェで、生ビールをどくどく。
めっちゃ汗かいてるこの段階で、駆けつけ2リットルは絶対にまずいと思いますが、はぁ、何か?(逆ギレ)
そんな自堕落ダメダメ男に手をさしのべてくれるのが、この方々。
はい、ガチオ君とは対極にある、盟友ラーメン部のKOOさん、わーさんですね!
サプライズな感じで福富町のゴールで待っていてくれたらしく、リタイアのFBアップで尾道に急行。
レスキューしてくださったのでした。ホントにありがとう!
ただ、その恩人たちの写真さえ押さえていないアタシ。
クルマに乗った瞬間に崩れ落ちたようです。
そんなていたらくの俺。
でも、ガチオ君はこの瞬間、走っているはず。
スタート地点の福富の道の駅まで帰ってきましたが、心配でなりません。
次々にゴールする方々。
奴はこない。
そういえば、30時間切りでぶっちぎりのゴールを果たしたfuku@さん。
彼もガチオ君のことを心配してくれていました。
おそるおそる奴のFBを覗いてみたら、「最後の坂、登り切ったぞ!」って。
じゃあ、あと1時間だ。
一安心しながら待ってたんだけど、奴は来ない。
メロスは来ない!
マヂに心配になったゴリラありけり、遠方を眺むる(上田秋成)
ゴールは豊栄町のコンビニ。
そこから俺たちがいるところ(スタート地点)までは6キロありました。
ガチオの携帯を鳴らしてみると…
いつもの待ち受け音楽が終わると、「ひぃー、ひぃー」って。
えっ、待ち受け変えた?って思った瞬間、「ガチオっす。今、ゴールしました」って。
悲鳴だったんだね。そこまで追い込めるとは、お前はリッパぢゃ!
ようやった! さすがガチオ! 立派な「弟」ぢゃ!
あそこからゴールするのは簡単じゃない。奴もホントにボロボロだったからね。
もう、いてもたってもいられず迎えに行く俺。
バイクで行ったって、まるでガチオ君の助けにはならないんだけどね。
この辺の行動は、よくわかんないなあ(笑)
もう、それこそガチ踏みっすw
あっ、いた! 奴は帰ってきた!
万感のすれ違い、そして追尾します。
いやあ、よくやった!
その言葉しか、浮かばなかったなあ。
最後の手続きをするガチオ。
もうバカになってるから、うまく書けず、隣の女子をカンニングしてます(笑)
40時間に及ぶ戦いも、ここに幕を下ろしました。
いやあ、面白かった!
この後、スタート前に入ったスーパー銭湯に。そして焼き肉に。
疲れで言葉少なな二人だったけど、リタイアしたこの俺でも多少の達成感はありました。
とはいえ、その日の夜中3時、あまりの悔しさに目が覚め、朝までまんじりともできなかったのは内緒だよ(笑)
また、若干、火が着いたような気もします。まだイケるな、とも思いました。
そして、その後、こんな文章を書きました。
「ブルベ」の魔力
軽量自転車のロードバイクがブームだ。細身のフレームにドロップハンドル。
体に張り付いたようなウエア姿をあちこちで見かける。当方も始めて6年。サドルにまたがり、いろんな「旅」をしてきた。
旅とは大げさな、との声もあろうが、説明すれば納得いただけよう。
「ブルベ」という超長距離サイクリングが今、中高年の心をつかんでいるのだ。
フランス語で「認定」という意味で、伝統的な距離は200、300、400、600キロと刻まれる。なかなかハードな旅である。
先日、その600キロを友人と走った。しまなみ海道経由で東広島市-愛媛県宇和島市を往復するコース。
40時間の制限時間の中、若きトライアスリートの友人は完走したものの、540キロ地点でリタイア。
200、400キロはクリアしてきたが、真夏の600キロはやはり別物だった。
しかし、楽しかった。炎熱の海岸線を駆け、深夜の峠を越え、睡魔に負けて道端で眠る。「非日常」がそこにはあった。
十分なトレーニングを積んでいるはずもない。要するに脚力不足だ。それを機材で補い、上手に仮眠を取る努力をしてカバー。
それでもほかの参加者の若さや、アスリートとしての「土台」に圧倒された。
よわい50も重ねると、徹底的に駄目出しされることなどそうはない。新鮮ですらある。
体面をかなぐり捨て、足らざるところを直視する。知略と経験で加齢に抗し、おのれの限界に挑んでいく。
そこにブルベの妙味があるのだ。
中高年をとりこにするスポーツには、なべてそんな魅力があると思う。マラソンしかり登山しかり。
ただ、年寄りの冷や水という言葉もある。翌日に響くようでは、年長者らしくない。
安全マージンをしっかり取りながら、次なるリベンジに知恵を絞る今日この頃である。
若干、よそ行きではありますが、まあ、かなり正直に書いてます。
さりげなく、「きーーー! 悔しい」とも書いてあります。
俺はもう後には退かないだろうな、バカだから(笑)
では、最後にもう一度。
「踏めば自転車は進む。それは人生のようだ」
36歳と50歳の旅は、これからも続いていくのです。