アルゴリズムの「アルゴ」なのか？2001年の同時多発テロなどに代表される「怖くて不気味なイスラム」というイメージは、いったいいつから始まったのか。
イスラムや中東が悪い訳ではない。
こう言った結果に陥れたのも、先進国の欲望からだからだ。
だからこの映画でも、方や悪、アメリカは善、そんな描かれ方かもしれない。
たとえば映画「アラビアのロレンス」が製作された50年前ころは「勇猛だが素朴な砂漠の民」という、それはそれでステレオタイプなイメージだった。
その原点は本作で描かれているイランのアメリカ大使館人質事件の時期にある。
大使館を暴徒が占拠すれば地元政府が排除・鎮圧するのが当然の役割だが、成立したばかりだったイスラム革命政府はいっさい手を出さず、それどころか「大使館を占拠した学生たちを支持する」とまで言ってのけた。
これが欧米社会に激しい衝撃を与えることになる。
国際社会のルールを完全に無視していたからだ。
しかしこの場合でもいえることが、自分たちが不利になったときに国際社会のルールの無視を棚に上げて、自分たちが犯したルール違反は裁かれていない。
まったく自分勝手である。
1979年には、ソ連がアフガニスタンに侵攻した。
反発したイスラム圏から義勇兵たちが集まり、これが後にテロ集団アルカイダの母体になる。
そのアルカイダを後方支援したのがアメリカと言うから、なんという因果関係か。
国と国の対立という近代欧米の枠組みではない、国ではない勢力が欧米の国家に対峙するという非対称戦争の原型は、この時期に生まれた。
そういう視点で本作を見ると実に興味深い。
描かれるテヘランの街とイラン人も徹頭徹尾「何を考えているのか分からない不気味な人たち」として描かれているのだ。
監督・主演のベン・アフレックを除けば、あとは渋い名脇役ばかりという絶妙のキャスティング。
そしてファッションや小物、風景は1970年代の風俗そのままだ。
男はみんな髪の襟足が長く、派手な太いネクタイ。
女性は大きな柄のプリントのテロテロしたワンピース。
そしてトルコ・イスタンブールのサッカー場で大勢のエキストラを使って撮影されたという大使館前デモの様子は、恐ろしいほどにリアルで迫力がある。
すべてが1979年というあの時代の空気感、あのイスラム過激派の台頭への衝撃という感覚を再現し、まるでドキュメンタリーのような肌触りになっている。
おまけに実話だというその物語は、途方もなく奇妙かつスリリング。
何が真実で何がウソなのかというバランスが、ぐるぐると回転してしまいそうな感覚の映画だ。
超強烈に面白かった。