これほど報復の連鎖がおこす、憎悪の繰り返しを、イヤと言うほど思い知ったにもかかわらず、いわゆる「チェンジ」をしようとしたはずの米国オバマ政権で、当然法律や国際法を無視し遂行されたビン・ラディン殺害計画。
世界の警察を歌っているから、アメリカが起こす行動なら許されるのか?
監督のキャスリン・ビグローは事実のピースを個人的感情を込めずに重ね、「9・11」を首謀し姿をくらませた「あの男」とされるターゲットに迫る。
世紀の暗殺劇は、多分、当事者の証言に基づき、リアリティを重視した生々しい内容。
その機密情報であるはずのものが、いかにして入手し、そして映像の内容の事実歪曲がアメリカでは物議を醸しているみたいだ。
緻密に構成された多分?フィクション?から繰り出される真実?の価値はぶれない。
これは「復讐」を賛美し、アメリカ人のモチベーションを上げる?図る?プロパガンダなの?
いやいや、とんでもない。
冒頭続く、卑劣な拷問からして、国家の威信失墜を象徴するだろう。
情報を読み解く能力に秀でるゆえ高卒でリクルートされ、いきなり捕縛任務に投入された主人公、分析官マヤの存在自体も、字体が解決しない組織の焦燥の現われ?。
主人公は、イスラム社会とアメリカの憎しみと恐怖に満ちた世界を生き抜くため、あらかじめ感情を麻痺させたようなキャラクターだ。
手がかりが無く雲を掴むような追跡の果て憔悴し、その捜査に対するテロで仲間を失い、死の恐怖に晒され、決然となっていく様に映像は示す。
冷ややかに燃える魂が、正義の在処も覚束ない状況下、一念で組織の男社会の官僚を突破し、精鋭部隊をも突き動かす。
劇上はジハードではない。
自らの手で、テロの脅威を終わらせたいと願う自身の闘いである。
娯楽活劇ではない。
クライマックスの襲撃作戦に興奮を覚えたなら、戦争に潜む快楽に気づかなければいけない。
これで平穏は訪れるのか。
標的の消えた心の漂流が辿り着く先を思うと、虚しく空恐ろしい。