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彼らの最新作は、コメディー基調でありつつ、誘拐をめぐるサスペンスも加わり、さらには往年のハリウッドへのオマージュもちりばめられて、コーエン映画の集大成となっている。
舞台は1951年のハリウッド大手スタジオ。
同時進行で撮影されている多彩な映画の1本が、本作の題名になっているローマ史劇「ヘイル、シーザー!」。
その主演スターが、謎の一味に誘拐されてしまう。
事件解決に向けて、日頃からあらゆるトラブルに対処するスタジオの“何でも屋”が動き出す。
劇中劇として適宜挿入される、撮影中の新作のシーンがどれも豪華で盛り上がる。
先述のローマ史劇のほかにも、人魚姫のスカーレット・ヨハンソンがシンクロナイズド・スイミングチームと水中で舞い、水夫姿のチャニング・テイタムが歌い踊る。
映画愛あふれる各場面が映像的な見せ場になるだけでなく、それぞれのスターが問題や秘密を抱え、何でも屋の仕事と誘拐事件に関わってくる仕掛けだ。
キャスト陣の中でも一番の役得(観客にとっての掘り出し物)は、西部劇の若手俳優を熱演したアルデン・エーレンライクだろう。
馬とロープの扱いは抜群だが演技力は、からきしのキャラで、上品な台詞の言い回しを指導する監督との応酬は抱腹絶倒。
お笑い担当かと思いきや、要所でブローリンやクルーニー、双子のゴシップ記者に扮するティルダ・スウィントンと、きっちりからみ、影の主人公と言ってもいい。
登場人物たちは、映画業界という特殊な環境にいるものの、極端な変人も圧倒的な悪人もいない。
誠実に仕事に取り組み、信念を持って行動するが、少しずつずれた部分もある。
この“ずれ”こそが、コーエン兄弟の作劇の肝。
キャラたちのずれとずれがこすれる摩擦がエネルギーを生み、ある時は笑いをはじけさせ、ある時は物語の推進力になる。
これは私たちの日常にも通じる。
他人と関わる場面で小さな摩擦や衝突は尽きないが、それが成長の機会になったり、差異が豊かさをもたらしたりする。
ブローリンが訪れる中華料理店の場面で水槽の中を泳ぐ金魚は、銀幕の中で輝くスターの暗喩だけでなく、ささやかな人生の主役である私たちをも象徴している。
そう解釈するなら、「君主を称えよ/Hail,Caesar!」を意味する題を冠した本作は、単に映画へのオマージュにとどまらない、おかしくも愛おしい人生への賛歌なのだと結論できる。