
実にオタク心をくすぐるプロットではないか。
VFXで精緻に描かれた彼女=エヴァはもちろん、モダンな建物、周りを囲む大自然など、映るものすべてが美しい。
しかし、うっとりと恋に落ちるのは軽率。
本作には大いなる「企み」がある。
大手IT企業で働くケイレブは、滅多に姿を見せないCEOが所有する山間の別荘に招かれる。
そこは、天才にして大富豪のネイサンが極秘にAIロボット・エヴァを開発する施設だった。
ネイサンからAIの完成度をテストするよう頼まれたケイレブは、日増しにエヴァに惹かれていく。
体の一部がメッシュ状の皮膚で覆われ透けて見えるエヴァの造形は、本年度アカデミー賞で視覚効果賞を獲得。
ただし、幼少期からバレエを習ってきたアリシア・ビカンダーによる完璧な身体制御が、半分CGで描かれたエヴァの実在感に説得力を持たせ、オスカー受賞に貢献したことは疑いようがない。
本作で監督デビューを飾るアレックス・ガーランドは、2000年に最初の小説「ザ・ビーチ」を発表。
これがダニー・ボイル監督により映画化されて以降、「28日後...」「サンシャイン2057」といったボイル監督作で脚本を担当してきた。
やはり自らシナリオを書いた本作では、メアリ・シェリーの「フランケンシュタイン」、やフィリップ・K・ディックの「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」といった名作SFのエッセンスを借用しつつ、無駄を廃したミニマルなストーリーをスタイリッシュな映像で効果的に描いている。
原題「Ex Machina」は、「機械仕掛けの神」を意味するラテン語「デウス・エクス・マキナ」から。
英語のexには「元~」という意味があるので、題は「元・機械」とも読める。
機械から進化するAIの次の段階は、人間か、それとも神か。
作中の企みに裏切られたと感じる向きもあろうが、解釈の余地を残すラストはある種の希望だと信じたい。